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17章 隊服
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「可愛い娘のためなら、大変なことなんて何一つないんだよ」
お父様はもう一度、わたしの頭を撫でた。
「それで、わたしはきみに何をしたらいいのかな? 大司教様に祝福をしてもらうようにしたらいいかい?」
優しい目元を見ていると、なんだかお父様には言いづらい。
だって、わたしはまた危ないことをしようとしている。
討伐隊に紛れ込んで、討伐に行こうとしている。
ルーク様は、ルーク様でさえ危険なその行動をわたしにさせないようにしたんだ。
それなのに、その危険な場所へ行く手伝いをお父様にさせてしまっていいのだろうか……。
俯くわたしに、お父様は優しく声を掛ける。
「言いにくいことなのかい? 父様には、なんだって言っていいんだよ? 何を言われても大丈夫。久しぶりのジーナの我儘だ。なんだって、聞いてあげよう。そのために、わたしはここに居るのだからね」
お父様のその言葉に胸が締め付けられる。
でも、そうだった。
お父様はわたしが教会に来ることを知っていて、そのために自分の身を削って、この地位を築いたんだ。
それに、わたしが討伐に行かずに、ルーク様の加護が切れて負けてしまったら、お父様たちも無事では済まない。
わたしは、意を決してお父様へのお願いを口にした。
「お父様。光の討伐隊の隊服が欲しいのです。光の討伐隊の隊服には、大司教様の施された光の魔法が掛かっている認定証が胸の所についています。それは、人数分しかないと聞きました。でも、隊服がないと、わたしが討伐に一緒に行くことができないのです」
「……きみは、今世も光の魔法を持っているのかい?」
「はい、お父様。産まれたばかりの時、今世は風の魔法を持って生まれてきました。ですが、記憶が戻ると共に、光の魔法もわたしの手に戻ってきたんです」
お父様はじっとわたしの目を見る。
「では、魔力に不都合がなければ、わたしの手に光の魔法をかけてくれるかい?」
手?
お父様に手と言われて、視線を落とすと、お父様はわたしに手のひらを向けた。
「お父様! なんですか、この手は!」
「拭き掃除や水仕事があるからね。あかぎれと言うやつだよ」
お父様の手をそっと取ると、細かいひび割れがたくさんあった。
こんなになるまで……。
ジーナが戻ってくるのを信じて、教会で働いてくれていたんだ。
わたしはお父様を手を包み、魔法をかける。
丁寧に。優しいお父様が痛くなくなるように。
わたしが少し念じると、すーっと傷が塞がっていった。
「お父様、他には痛いところはありませんか?」
お父様は綺麗になった手を見て、にっこりと笑った。
「ありがとう。もう大丈夫だよ。本当に、光の魔法を持っているんだね。安心した」
「安心?」
「うん。きみのことだから、光の魔法を持っていなくてもルーク様のために討伐に行こうとするだろうと思っていたんだ。生まれ変わってから、教会にやってくるのは光の魔法を持っていないがために、それを埋めるべく大司教様に光の加護をもらいに来るのかと。でも、きみ自身に光の魔力があるのなら安心だ。もう、今世でもルーク様とはお会いできたのかい?」
「はい」
こうして、わたしはお父様にこれまでの話をした。
産まれてから、前世を思い出してルーク様の元に行くまでのこと。
討伐のために、密かに訓練に参加していること。
その話の中で、お父様はわたしがジーナではなく、ニーナとしてミラー子爵家に出入りしていたことがあると聴くと、すごく驚いていた。
「なんだって? あぁ、なんでお母様もオリバーもわたしにニーナのことを教えてくれなかったんだ」
「それはお父様がおうちにいらっしゃらなかったからでは……」
「でも、ニーナが屋敷に来ているのなら、侍従に迎えに来させることもできただろうに……」
お父様は仲間外れにされた子どものように、しゅんと肩を落とした。
「あの、みんなお父様がお忙しいのを知っていたからだと……。あ、それにエマお姉様もご存知ないので、お父様だけが知らなかったわけではないですよ!」
「そういう問題じゃない……」
あああ。
ますます肩が落ちていく……。
オロオロとするわたしを見て、お父様はくすりと笑う。
「冗談だよ。久しぶりにジーナに甘えて拗ねてみただけだよ。さて、そろそろ大司教様に会いに行こうか」
お父様はわたしの肩にポンと手を乗せると、立ち上がった。
えぇっ!
もういくの?
そう言えば、わたし大司教様になんて言って認定章をもらうか、考えてなかったよ~!
お父様はもう一度、わたしの頭を撫でた。
「それで、わたしはきみに何をしたらいいのかな? 大司教様に祝福をしてもらうようにしたらいいかい?」
優しい目元を見ていると、なんだかお父様には言いづらい。
だって、わたしはまた危ないことをしようとしている。
討伐隊に紛れ込んで、討伐に行こうとしている。
ルーク様は、ルーク様でさえ危険なその行動をわたしにさせないようにしたんだ。
それなのに、その危険な場所へ行く手伝いをお父様にさせてしまっていいのだろうか……。
俯くわたしに、お父様は優しく声を掛ける。
「言いにくいことなのかい? 父様には、なんだって言っていいんだよ? 何を言われても大丈夫。久しぶりのジーナの我儘だ。なんだって、聞いてあげよう。そのために、わたしはここに居るのだからね」
お父様のその言葉に胸が締め付けられる。
でも、そうだった。
お父様はわたしが教会に来ることを知っていて、そのために自分の身を削って、この地位を築いたんだ。
それに、わたしが討伐に行かずに、ルーク様の加護が切れて負けてしまったら、お父様たちも無事では済まない。
わたしは、意を決してお父様へのお願いを口にした。
「お父様。光の討伐隊の隊服が欲しいのです。光の討伐隊の隊服には、大司教様の施された光の魔法が掛かっている認定証が胸の所についています。それは、人数分しかないと聞きました。でも、隊服がないと、わたしが討伐に一緒に行くことができないのです」
「……きみは、今世も光の魔法を持っているのかい?」
「はい、お父様。産まれたばかりの時、今世は風の魔法を持って生まれてきました。ですが、記憶が戻ると共に、光の魔法もわたしの手に戻ってきたんです」
お父様はじっとわたしの目を見る。
「では、魔力に不都合がなければ、わたしの手に光の魔法をかけてくれるかい?」
手?
お父様に手と言われて、視線を落とすと、お父様はわたしに手のひらを向けた。
「お父様! なんですか、この手は!」
「拭き掃除や水仕事があるからね。あかぎれと言うやつだよ」
お父様の手をそっと取ると、細かいひび割れがたくさんあった。
こんなになるまで……。
ジーナが戻ってくるのを信じて、教会で働いてくれていたんだ。
わたしはお父様を手を包み、魔法をかける。
丁寧に。優しいお父様が痛くなくなるように。
わたしが少し念じると、すーっと傷が塞がっていった。
「お父様、他には痛いところはありませんか?」
お父様は綺麗になった手を見て、にっこりと笑った。
「ありがとう。もう大丈夫だよ。本当に、光の魔法を持っているんだね。安心した」
「安心?」
「うん。きみのことだから、光の魔法を持っていなくてもルーク様のために討伐に行こうとするだろうと思っていたんだ。生まれ変わってから、教会にやってくるのは光の魔法を持っていないがために、それを埋めるべく大司教様に光の加護をもらいに来るのかと。でも、きみ自身に光の魔力があるのなら安心だ。もう、今世でもルーク様とはお会いできたのかい?」
「はい」
こうして、わたしはお父様にこれまでの話をした。
産まれてから、前世を思い出してルーク様の元に行くまでのこと。
討伐のために、密かに訓練に参加していること。
その話の中で、お父様はわたしがジーナではなく、ニーナとしてミラー子爵家に出入りしていたことがあると聴くと、すごく驚いていた。
「なんだって? あぁ、なんでお母様もオリバーもわたしにニーナのことを教えてくれなかったんだ」
「それはお父様がおうちにいらっしゃらなかったからでは……」
「でも、ニーナが屋敷に来ているのなら、侍従に迎えに来させることもできただろうに……」
お父様は仲間外れにされた子どものように、しゅんと肩を落とした。
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「そういう問題じゃない……」
あああ。
ますます肩が落ちていく……。
オロオロとするわたしを見て、お父様はくすりと笑う。
「冗談だよ。久しぶりにジーナに甘えて拗ねてみただけだよ。さて、そろそろ大司教様に会いに行こうか」
お父様はわたしの肩にポンと手を乗せると、立ち上がった。
えぇっ!
もういくの?
そう言えば、わたし大司教様になんて言って認定章をもらうか、考えてなかったよ~!
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