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16章 討伐前
討伐前会議
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いつ来ても城の会議場というのは息が詰まる。
昨日までニーナと楽しく旅行をしていたから、その落差もあるだろう。
義兄上と共に席に着く。
円卓には、この国の宰相、騎士団団長、副団長、近衛隊隊長、そして、それぞれの地域の領主が席に着いていた。
真ん中の、一際大きな椅子には、国王、王太子、光の討伐隊取りまとめのローゼリアが座っている。
全員揃ったところで宰相が立ち上がり、議事進行を務める。
「討伐の日程についてですが、以前からの話を鑑みまして、3ヶ月後とさせていただきます。これについては、デイヴィス侯爵子息討伐隊隊長のいつでも討伐に行けると言う言葉を信じて、日程を決めております。3ヶ月後のこの日ではいかがでしょう」
宰相は円卓の上に大きな暦を広げて、青の月の13日を指さした。
今はまだ赤の月の13日だ。今日からちょうど3ヶ月後に設定をするというわけだな。
まったく。
少しは余裕を持てばいいものを。
以前に討伐の日程を話し合ったときには、ニーナから光の加護をもらえると思っておらず、適当なことを言ってしまったが、ニーナと連携の訓練をしなければならない。もう少し余裕があればよかったのだが……。
しかし、これ以上延ばしてもどうなるかわからない。
王族もうるさいだろうし、ここは、根を詰めてやるしかないだろう。
「問題ありません」
オレは、問題ありを隠すよう、キッパリと言い切った。
「では、大蔵大臣より、討伐費用の目算をお話いただきます」
「では、討伐隊の後方支援としての騎士団の編成を考えましょう」
「では、万が一のために近衛の配置をどうするか」
それぞれが自分の役目を果たし、会議は進んでいく。
オレたち討伐隊は王都から少し離れた結界の張られた森の中へほぼ全員行くので、王都の市民やそれぞれの領地の守りはそれぞれで担う。
魔物の森の結界の外に、討伐塔があり、そこを拠点としてオレたちは動く。
もちろん、光の討伐隊は討伐塔で待機して、加護が切れた隊士に新たに加護を与えるのだ。
討伐隊と騎士団で守りの配置をしていく。
討伐塔は討伐隊2名と騎士団で守りを固めるのだ。
「討伐塔はロレンスとアランが守りに着く。この二人は機動力に欠けるため森の中へ入るのは向かないが、その場を動かず守るというのなら、この2人が適任だろう。安心して任せられる」
義兄上が副隊長として、騎士団団長と話す。
「騎士団は街の方にも人員を割かなければならないからな。討伐塔の護衛は10名と考えているが、どうだろう」
「結界から魔獣が逃げ出すことがないとは言い切れないが、今代の討伐隊は精鋭揃いだ。魔獣が逃げ出すことはないだろう。万が一の備えであれば、それだけ居れば大丈夫だろう」
そして、団長から10名の騎士の名が挙げられ、みんなが納得をし、空気が落ち着いた時に、ローゼリアの声が会議場に響いた。
「わたくしは光の討伐隊を率いる者として、副隊長が討伐塔の護衛をすることを希望します」
ざわっ、と会議場全体が揺れた。
「畏れながらローゼリア様。我が討伐隊の副隊長はオレの片腕だ。討伐中に片腕をもがれては仕事ができない。魔獣が結界の外に出るのは通常で行けば、ありえない。討伐塔や市街に護衛を配置するのは、本当に万が一の事を考えているからだ。それを、隊の中で隊長に次いで実力のある副隊長を護衛に回すなんてありえない!」
オレの言葉に王太子が反応する。
「おかしいぞ、ルーク。王族であるローゼリアが討伐に加わること事態が異例なんだ。最強の英雄でないと魔物が倒せないから、おまえが護衛に付けないのはわかる。だが、ナンバー2の実力を持つ者が、ローゼリアを護るのは当然のことであろう」
「そもそも、討伐がうまくいけば森の外に魔獣が出ることはないんだ。静も動もこなす優秀な人員を仕事がないかもしれない護衛にまわすことなどできない」
オレと王太子が睨み合っていると、今まで言葉を発しなかった国王が口を開く。
「ルークよ、討伐が近く気が立っているのはわかる。だが、おまえが一番に護る者はローゼリアではないのか」
「しかし、陛下」
オレが反論しようとすると、義兄上がオレの上着の裾を引っ張った。
「ルーク様、オレは構わない。討伐塔の護衛をしよう」
「義兄、オリバー殿……」
いつものように義兄上と言いそうになり、慌てて言い方を変える。
以前、王太子の前で義兄上と呼んでしまい、大変不評を買ったからだ。
その後しばらく、義兄上は王太子にいびられていた。
義兄上はにこりと笑う。
「オレは討伐の方にも参加しなければなりません。しかし、一番見渡せるところにいて、討伐塔に危険が及ぶことがあれば、一番に駆けつけましょう」
義兄上の言葉に、王太子は眉を寄せる。
「ローゼリアの側でずっと護衛をするわけではないのか?」
「オレが森に一度も入らずに済めばいいのですが、それでは他の隊士には厳しいでしょう。森の中に入り、何体か倒したらすぐに様子を見に討伐塔に行くようにします。特別なことが起これば、すぐに対応しますよ」
国王と王太子は、渋い顔をしながらもそれを了承した。
ローゼリアは、副隊長が現場を離れる時間があるなら討伐塔の隊士を二人増やせと言い、オレがそれを了承することで、この場は収まったのだった。
会議が終わり、城を出た後で、オレは義兄上に問いただした。
「何故、あんな無茶苦茶なローゼリアの戯言を受けようとしたんですか」
オレの言葉に義兄上はにこりと笑う。
「ご本人のご希望なんだ。叶えてやらなくちゃいけないよな。例えそれがどんな結果になろうとも」
昨日までニーナと楽しく旅行をしていたから、その落差もあるだろう。
義兄上と共に席に着く。
円卓には、この国の宰相、騎士団団長、副団長、近衛隊隊長、そして、それぞれの地域の領主が席に着いていた。
真ん中の、一際大きな椅子には、国王、王太子、光の討伐隊取りまとめのローゼリアが座っている。
全員揃ったところで宰相が立ち上がり、議事進行を務める。
「討伐の日程についてですが、以前からの話を鑑みまして、3ヶ月後とさせていただきます。これについては、デイヴィス侯爵子息討伐隊隊長のいつでも討伐に行けると言う言葉を信じて、日程を決めております。3ヶ月後のこの日ではいかがでしょう」
宰相は円卓の上に大きな暦を広げて、青の月の13日を指さした。
今はまだ赤の月の13日だ。今日からちょうど3ヶ月後に設定をするというわけだな。
まったく。
少しは余裕を持てばいいものを。
以前に討伐の日程を話し合ったときには、ニーナから光の加護をもらえると思っておらず、適当なことを言ってしまったが、ニーナと連携の訓練をしなければならない。もう少し余裕があればよかったのだが……。
しかし、これ以上延ばしてもどうなるかわからない。
王族もうるさいだろうし、ここは、根を詰めてやるしかないだろう。
「問題ありません」
オレは、問題ありを隠すよう、キッパリと言い切った。
「では、大蔵大臣より、討伐費用の目算をお話いただきます」
「では、討伐隊の後方支援としての騎士団の編成を考えましょう」
「では、万が一のために近衛の配置をどうするか」
それぞれが自分の役目を果たし、会議は進んでいく。
オレたち討伐隊は王都から少し離れた結界の張られた森の中へほぼ全員行くので、王都の市民やそれぞれの領地の守りはそれぞれで担う。
魔物の森の結界の外に、討伐塔があり、そこを拠点としてオレたちは動く。
もちろん、光の討伐隊は討伐塔で待機して、加護が切れた隊士に新たに加護を与えるのだ。
討伐隊と騎士団で守りの配置をしていく。
討伐塔は討伐隊2名と騎士団で守りを固めるのだ。
「討伐塔はロレンスとアランが守りに着く。この二人は機動力に欠けるため森の中へ入るのは向かないが、その場を動かず守るというのなら、この2人が適任だろう。安心して任せられる」
義兄上が副隊長として、騎士団団長と話す。
「騎士団は街の方にも人員を割かなければならないからな。討伐塔の護衛は10名と考えているが、どうだろう」
「結界から魔獣が逃げ出すことがないとは言い切れないが、今代の討伐隊は精鋭揃いだ。魔獣が逃げ出すことはないだろう。万が一の備えであれば、それだけ居れば大丈夫だろう」
そして、団長から10名の騎士の名が挙げられ、みんなが納得をし、空気が落ち着いた時に、ローゼリアの声が会議場に響いた。
「わたくしは光の討伐隊を率いる者として、副隊長が討伐塔の護衛をすることを希望します」
ざわっ、と会議場全体が揺れた。
「畏れながらローゼリア様。我が討伐隊の副隊長はオレの片腕だ。討伐中に片腕をもがれては仕事ができない。魔獣が結界の外に出るのは通常で行けば、ありえない。討伐塔や市街に護衛を配置するのは、本当に万が一の事を考えているからだ。それを、隊の中で隊長に次いで実力のある副隊長を護衛に回すなんてありえない!」
オレの言葉に王太子が反応する。
「おかしいぞ、ルーク。王族であるローゼリアが討伐に加わること事態が異例なんだ。最強の英雄でないと魔物が倒せないから、おまえが護衛に付けないのはわかる。だが、ナンバー2の実力を持つ者が、ローゼリアを護るのは当然のことであろう」
「そもそも、討伐がうまくいけば森の外に魔獣が出ることはないんだ。静も動もこなす優秀な人員を仕事がないかもしれない護衛にまわすことなどできない」
オレと王太子が睨み合っていると、今まで言葉を発しなかった国王が口を開く。
「ルークよ、討伐が近く気が立っているのはわかる。だが、おまえが一番に護る者はローゼリアではないのか」
「しかし、陛下」
オレが反論しようとすると、義兄上がオレの上着の裾を引っ張った。
「ルーク様、オレは構わない。討伐塔の護衛をしよう」
「義兄、オリバー殿……」
いつものように義兄上と言いそうになり、慌てて言い方を変える。
以前、王太子の前で義兄上と呼んでしまい、大変不評を買ったからだ。
その後しばらく、義兄上は王太子にいびられていた。
義兄上はにこりと笑う。
「オレは討伐の方にも参加しなければなりません。しかし、一番見渡せるところにいて、討伐塔に危険が及ぶことがあれば、一番に駆けつけましょう」
義兄上の言葉に、王太子は眉を寄せる。
「ローゼリアの側でずっと護衛をするわけではないのか?」
「オレが森に一度も入らずに済めばいいのですが、それでは他の隊士には厳しいでしょう。森の中に入り、何体か倒したらすぐに様子を見に討伐塔に行くようにします。特別なことが起これば、すぐに対応しますよ」
国王と王太子は、渋い顔をしながらもそれを了承した。
ローゼリアは、副隊長が現場を離れる時間があるなら討伐塔の隊士を二人増やせと言い、オレがそれを了承することで、この場は収まったのだった。
会議が終わり、城を出た後で、オレは義兄上に問いただした。
「何故、あんな無茶苦茶なローゼリアの戯言を受けようとしたんですか」
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