もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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15章 加護

王家の行方

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談話室へ入ると、すでにお父様がソファにゆったりと腰掛けていらっしゃった。

談話室は、狭いながらも豪華な作りになっており、わたくしのお気に入りの部屋だ。
密談、するには打って付けでしょう?

テーブルを挟んだ向かい側のソファに腰掛ける。
お兄様はお父様の隣に腰を下ろした。

侍女がお茶を出し終わるまで、わたくしたちは口を開かない。
全てが整うと、お父様が目線で合図し、侍従が扉をきっちりと閉めて、その後にやっとお父様は口を開いた。

「討伐の日が近いと聞いた。やっとデイヴィス家の小倅こせがれは、使えるようになったか」

お兄様が早馬でお父様に報告をしたらしい。
お父様は、ルークがやっと光の連携ができるようになったとご満悦だ。

「して、父上。討伐が失敗した時の準備ですが」
「心配するな。ちゃんと進んでおる。税を上げ、プールした金は金塊に変えてすでに王家の別荘に運んでおる。討伐が失敗し、国民が魔物どもに食い尽くされるまでの数年は、なにもせずとも暮らしていける」
「税を上げ過ぎて、払えない領主が孤児院を手放したと聞きましたか?」
「問題ない。孤児たちは小さな者は他領に出させたが、ある程度大きくなった者は城の衛兵として雇うと領主には言ってある」
「ああ、なるほど。魔物に喰われる者は多いほど時間が稼げますからね」

わたくしは黙ってふたりの言葉を聞いていたが、お兄様がわたくしの様子に気付き、ソファの後ろの本棚から地図を取り出した。

「ローゼリア、これが我が国の地図だが、王都はここだ。王都から東に魔物の森があり、その森から王都を挟んで反対側、我が国の端には貿易に使う港、海がある。過去の文献によれば、魔物は森から出て国民を食い散らかして領土を攻めてくるが、海が苦手なのか港の近くまでくることはなかった」

お兄様が指さす先を見ると、港町に王家の別荘がある。
確か、ここは遠い上に高台に建っており、使い辛いと言われて行ったことはないが、毎年多くの予算を割いて保持しているところだ。

「ここは、魔物が攻めてきた時の、王家のシェルターだ。ただ、我ら王家が一番に逃げるなど、国民に知られるわけにはいかない。ギリギリまで王城で応戦しているように見せかけ、敗退が決まった時には姿を隠してなければならない」

お兄様の説明に、お父様が笑みを浮かべる。

「そこで、ローゼリアに頼みがある。幸い、光の魔法を持って生まれたおまえは、ルークの婚約者となり、安全圏の中ではあるが戦いに一番近いところで支援をするようになるだろう」

そうだ。
わたくしは討伐が始まったら、王都の一番端の森に一番近い砦で、光の討伐隊と共に待機することになっている。
隊士の加護が切れた場合、そこに戻ってくるので、再度加護を与えるのだ。

「敗戦の色が濃厚になってきたら、王城に連絡を送って欲しい」
「お父様、それは別に構いませんが、わたくしはどうなるのですか?」
「もちろん、可愛いローゼリアを置いて行くわけない。迎えをやるから一緒に逃げよう」

当然のお父様の言葉に、わたくしはにっこり笑顔で応えた。

「逃亡経路は、どのようになっておりますの?」
国王わたしの私室には、隠し通路がある。そこから地下道に入り、一度表に出る。そこからは馬車だな。ローゼリアは城に戻った後、わたしの部屋まで来ればいい」

わたくしは机の上の地図に目を落とす。
馬車で行くとはいえ、長時間の移動になりそうだわ。

わたくしが暗い表情で地図を眺めていると、お兄様が地図を手に取り、本棚へと戻した。

「心配するな、ローゼリア。近衛は隊長と副隊長を逃亡の護衛とし、残りは全て王城を守る為に置いていく。近衛だけではない。第一騎士団も全員この場に残し、第二、第三騎士団は城下町を守るように指示を出しておく。奴らが魔物に喰われているうちに、わたし達王族は逃げ切ることができるだろう。人員をより多く魔物の近くに配置しておけば時間稼ぎにもなるし、そこで腹が膨れれば追いかけてくる魔物も少なかろう」
「ふふ。お兄様、完璧な計画ですのね」

扇子を口元にあてて、優雅に微笑む。
国民が死ぬことに笑みをこぼすなど、王女のすることではないので隠しているのだ。

「だから、ローゼリア、おまえの役目は重要だ。王太子わたしがおまえの護衛として一緒に砦まで行く。わたしが砦に居る口実として、ローゼリアにも砦には居てもらわねばならない。嫌だろうが、光の討伐隊を率いて、形だけでいい。砦を守ってくれ」

今度は扇子を口元からはずす。
そして、わたくしは艶やかな笑みを見せた。

「もちろんですわ。お父様、お兄様。わたくしは光の討伐隊の長として、砦を守って見せますわ」

見かけだけ、ね。
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