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15章 加護
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お兄様がいてくれてよかったと思う。
周り中敵のなか、副官としてルーク様の側にお兄様が居てくれることは、ルーク様の心の拠り所になっているだろう。
ただ、本当ならお兄様は討伐隊に入るような人ではない。
学園を卒業したら領地経営を学び、爵位を継ぐ者として良き伴侶を得て、ミラー家を支えていくはずだった。
詳しくは聞いていないけれど、お兄様がルーク様の副官として入隊したのは、わたしが原因のような気がする。
そう思うとお兄様には申し訳ないと思うけれど、それでも今、ルーク様の側に居てくれるお兄様には感謝しかない。
そのお兄様が派手に光魔法を纏った剣を打ち鳴らし、風の魔法を纏ったお兄様の剣が轟音を立てて天に風を送ると、一斉に視線がそちらに集まった。
その隙に、ルーク様は剣を取り替えていた。
ルーク様はなるべくひと気のないあたりまで歩いて行くと、剣を構える。
一歩、足を引き思いっきり剣を振り下ろした。
ボオォォっ!!
ルーク様の炎の魔法にわたしの光の魔法が乗って、空高く光の炎が舞い上がった。
他の人の目には、まるでローゼリア様の光の魔法がルーク様の火の魔法を助けているように見えただろう。
ローゼリア様の、上辺だけの光の魔法が。
…………。
演習場に居る人々がその見事な剣を見て、動きを止める。
一瞬の静けさの後に、わっとその場から歓声があがった。
「隊長! やりましたね! 光の連携ができましたね! ここに居る誰よりも、強く、素晴らしい剣でした!!」
一般隊士が涙ながらに喜びの雄叫びをあげる。
やはり、隊長の力を示せば、隊士の士気があがるのだ。
その場が喜びに包まれる中、ローゼリア様だけはあたりを見回していた。
光の魔法をかけた本人だからわかっているのだ。
魔力のほとんどを見せかけのために使っている加護が、こんなに強大な剣に発揮されるわけがないことを。
光の討伐隊を見回したあと、ローゼリア様は2階席に目をやった。
わたしは慌てて身を隠す。
少し時間を置いてから、柱の端からそっとローゼリア様を窺う。
ローゼリア様は、今はもうにこやかに王太子様と何かを話していた。
ほっと、胸を撫で下ろす。
良かった。
わたしは見つかっていないようだ。
ルーク様は、初めて王太子様に光の魔法を纏った剣を見せることができて、何か声をかけられているようだった。
その後も、何回かルーク様は剣を振るったので、わたしは次の加護を付与しようとタイミングを待っていたけど、次の機会は訪れなかった。
わたしの加護が切れるよりも先に、ルーク様の魔力の方が切れてしまったのだ。
午後の休憩に入るより早く、ローゼリア様と王太子様は退出し、それを合図に全体の休憩時間となった。
わたし達はまた、副官室で3人で集まることにした。
先に、わたしとルーク様が副官室に入ると、ルーク様はぐったりとソファに座り込んだ。
「大丈夫ですか? ルーク様」
わたしが走り寄ると、ルーク様は右手を振る。
「大丈夫だ。心配するな」
「でも……!」
わたしがオロオロしていると、トレーに軽食を乗せたお兄様が部屋に入ってきた。
「おー、ルーク様、ヘロヘロだなぁ」
トレーをテーブルに置き、お兄様はルーク様に近付いて様子を窺った。
「ん、単なる魔力切れだな。ルーク様、魔力切れなんて久しぶりだろう?」
「ああ、学生の頃以来かな」
ぐったりとソファに横になるルーク様を、お兄様はそのままにして、もってきた軽食に手を伸ばす。
軽食は、ワッフルだった。
フランクフルトやツナやポテトサラダとスイーツ的な生クリームやジャムなどのトッピングがついていた。
「ニーナも食えよ。今日はもうニーナに魔法を使ってもらうことはないだろうから、ゆっくりしてくれ」
「えっ、もう使わないって」
「ルーク様がダウンしてるからな」
お兄様の声の後に、ルーク様は目の上に置いていた腕をずらしてわたしの方を見た。
「せっかく来てくれたのに、悪いな。ニーナ」
「いえ、そんなことはいいんですけど……。ルーク様、大丈夫ですか?」
わたしが心配しているのをよそに、お兄様はパクパクとワッフルを食べて行く。
「ほっといてやれよ。初めて光の魔法を乗せて剣の訓練をしたんだ。一回の剣に乗せる魔法の加減がわからず、全部を全力で振ってしまったんだろう。使う魔力と回復する魔力を加減しながら使うのに、まだ慣れていないだけだ」
「そんな加減が必要なんですか……」
「おまえも、訓練に参加したら一回の加護で使う魔力の調整が必要になるぞ。そのためにも毎日訓練に参加した方がいいと思ったんだ。さっき王太子が機嫌良く討伐の日程を決めるように言っていたからな。早く調整できるようにしないと、本番で困るぞ」
困るぞって、困るくらいで済む話じゃないんだけど……。
「ひとまず、今日の訓練は成功ってことだよ。これからの課題がわかったし、ルーク様が光と連携できるってことがわかって、隊員達の士気が上がったからな」
お兄様の言葉に甘えて、わたしはワッフルを堪能し、その後の訓練はゆっくり見学させてもらったのだった。
周り中敵のなか、副官としてルーク様の側にお兄様が居てくれることは、ルーク様の心の拠り所になっているだろう。
ただ、本当ならお兄様は討伐隊に入るような人ではない。
学園を卒業したら領地経営を学び、爵位を継ぐ者として良き伴侶を得て、ミラー家を支えていくはずだった。
詳しくは聞いていないけれど、お兄様がルーク様の副官として入隊したのは、わたしが原因のような気がする。
そう思うとお兄様には申し訳ないと思うけれど、それでも今、ルーク様の側に居てくれるお兄様には感謝しかない。
そのお兄様が派手に光魔法を纏った剣を打ち鳴らし、風の魔法を纏ったお兄様の剣が轟音を立てて天に風を送ると、一斉に視線がそちらに集まった。
その隙に、ルーク様は剣を取り替えていた。
ルーク様はなるべくひと気のないあたりまで歩いて行くと、剣を構える。
一歩、足を引き思いっきり剣を振り下ろした。
ボオォォっ!!
ルーク様の炎の魔法にわたしの光の魔法が乗って、空高く光の炎が舞い上がった。
他の人の目には、まるでローゼリア様の光の魔法がルーク様の火の魔法を助けているように見えただろう。
ローゼリア様の、上辺だけの光の魔法が。
…………。
演習場に居る人々がその見事な剣を見て、動きを止める。
一瞬の静けさの後に、わっとその場から歓声があがった。
「隊長! やりましたね! 光の連携ができましたね! ここに居る誰よりも、強く、素晴らしい剣でした!!」
一般隊士が涙ながらに喜びの雄叫びをあげる。
やはり、隊長の力を示せば、隊士の士気があがるのだ。
その場が喜びに包まれる中、ローゼリア様だけはあたりを見回していた。
光の魔法をかけた本人だからわかっているのだ。
魔力のほとんどを見せかけのために使っている加護が、こんなに強大な剣に発揮されるわけがないことを。
光の討伐隊を見回したあと、ローゼリア様は2階席に目をやった。
わたしは慌てて身を隠す。
少し時間を置いてから、柱の端からそっとローゼリア様を窺う。
ローゼリア様は、今はもうにこやかに王太子様と何かを話していた。
ほっと、胸を撫で下ろす。
良かった。
わたしは見つかっていないようだ。
ルーク様は、初めて王太子様に光の魔法を纏った剣を見せることができて、何か声をかけられているようだった。
その後も、何回かルーク様は剣を振るったので、わたしは次の加護を付与しようとタイミングを待っていたけど、次の機会は訪れなかった。
わたしの加護が切れるよりも先に、ルーク様の魔力の方が切れてしまったのだ。
午後の休憩に入るより早く、ローゼリア様と王太子様は退出し、それを合図に全体の休憩時間となった。
わたし達はまた、副官室で3人で集まることにした。
先に、わたしとルーク様が副官室に入ると、ルーク様はぐったりとソファに座り込んだ。
「大丈夫ですか? ルーク様」
わたしが走り寄ると、ルーク様は右手を振る。
「大丈夫だ。心配するな」
「でも……!」
わたしがオロオロしていると、トレーに軽食を乗せたお兄様が部屋に入ってきた。
「おー、ルーク様、ヘロヘロだなぁ」
トレーをテーブルに置き、お兄様はルーク様に近付いて様子を窺った。
「ん、単なる魔力切れだな。ルーク様、魔力切れなんて久しぶりだろう?」
「ああ、学生の頃以来かな」
ぐったりとソファに横になるルーク様を、お兄様はそのままにして、もってきた軽食に手を伸ばす。
軽食は、ワッフルだった。
フランクフルトやツナやポテトサラダとスイーツ的な生クリームやジャムなどのトッピングがついていた。
「ニーナも食えよ。今日はもうニーナに魔法を使ってもらうことはないだろうから、ゆっくりしてくれ」
「えっ、もう使わないって」
「ルーク様がダウンしてるからな」
お兄様の声の後に、ルーク様は目の上に置いていた腕をずらしてわたしの方を見た。
「せっかく来てくれたのに、悪いな。ニーナ」
「いえ、そんなことはいいんですけど……。ルーク様、大丈夫ですか?」
わたしが心配しているのをよそに、お兄様はパクパクとワッフルを食べて行く。
「ほっといてやれよ。初めて光の魔法を乗せて剣の訓練をしたんだ。一回の剣に乗せる魔法の加減がわからず、全部を全力で振ってしまったんだろう。使う魔力と回復する魔力を加減しながら使うのに、まだ慣れていないだけだ」
「そんな加減が必要なんですか……」
「おまえも、訓練に参加したら一回の加護で使う魔力の調整が必要になるぞ。そのためにも毎日訓練に参加した方がいいと思ったんだ。さっき王太子が機嫌良く討伐の日程を決めるように言っていたからな。早く調整できるようにしないと、本番で困るぞ」
困るぞって、困るくらいで済む話じゃないんだけど……。
「ひとまず、今日の訓練は成功ってことだよ。これからの課題がわかったし、ルーク様が光と連携できるってことがわかって、隊員達の士気が上がったからな」
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