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15章 加護
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食事が終わると、ルーク様は剣を取り出した。
「食べてすぐのところ悪いけど、早速、剣に加護を頼む」
「はいっ!」
ルーク様に胸の前で剣を構えてもらう。
「愛しき者のために祝福を……!」
祈りの言葉を舌に乗せると、わたしの魔力が威力を増し、ルーク様の剣へと向かって行く。
剣を中心に、わたしの魔法がキラキラとルーク様を取り囲んだ。
「ありがとう、ニーナ」
ルーク様はわたしの方に歩み寄り、ぎゅっとわたしを抱きしめた。
「おいおい、ルーク様。兄の前で妹に手を出すのはやめてくれ。それより、ローゼリアにその剣に魔法を上書きされたらたまらない。ローゼリアに剣を祝福されるまでは、予備の剣を持っていた方がいいな。予備の剣にローゼリアの祝福を受けさせて、その後に剣を取り替えて訓練に行くんだ。オレがうまく目を逸らすから、ルーク様は急いで剣を替えてくれよ」
「はい。任せてください。義兄上」
こうして、剣に加護を付けたわたしは、副官室を後にした。
お昼休憩が終わって、わたしはまた2階席に戻り、訓練の様子を眺めていた。
午後からは光の討伐隊と共に訓練をするスケジュールらしい。
バラバラと光の術者が演習場に集まってくる。
それぞれ、光の術者と隊士でグループ分けがされて訓練が始まる。
剣に加護を貰った隊士達は、空や地面に剣を振って魔法を叩き込む。
加護は一度授けると、剣を振る度に光の力を発揮するけど、何回かそれを使うと加護が切れて、また加護を授けてもらわないといけなくなる。
隊士たちは魔法を乗せて剣を振るうが、加護が切れるとまた光の術者のところに行って、加護を授けてもらっている。
術者の魔力や隊士との相性によって、何回剣を振るえば加護が切れるか、また、自分の魔力も際限があるからそれを見極めるのにやっぱり訓練は必要なのだ。
けれど今、ルーク様が演習場で剣を振るうことはできない。
演習場の片隅で、じっと光の魔法を纏った部下の様子を眺めるだけだ。
何故なら、ルーク様の剣に、表向き加護を授けるはずのローゼリア様がここにまだ来ていないから。
加護を貰っていないはずの剣は、使えない。
なんで!?
なんで、ローゼリア様は来ないの?
ローゼリア様は、将来ルーク様とご結婚なさるのでしょう?
ルーク様が大事じゃないの?
わたしがイライラしながら訓練の様子を見守っていると、演習場で訓練中の隊士達がわらわらと違う動きをし始めた。
なんだろうと様子を見ていると、ひとりの隊士が何故かパラソルをどこからか持ってきて、演習場のグラウンドに立てた。
また、別の隊士が白く丸いテーブルを持ってやって来て、そのまた別の隊士は白い椅子をパラソルの下に設置したり。
何? ……いえ、まさか……。
まさかまさかと思いながらじっとそれを見ていると、白いパラソルを侍女に差しかけられ、光の討伐隊の隊服とは違う華美なドレスに身を包んだローゼリア様が、王太子様に手を引かれて悠々と歩いて演習場にやってきた。
嘘でしょう!
ありえない!
遅れて来た上に、パラソルにテーブル。
そして、次女が優雅にテーブルの上にアフタヌーンティーセットを展開している。
あの人、何しにここに来ているの?
それでも、わたしは口出しすることは出来ず、黙ってそれを眺めている。
ローゼリア様と王太子様が椅子に座り、ローゼリア様が優雅にお茶を口にした時、ルーク様が二人の前にやってきた。
「王太子殿下、ローゼリア王女殿下、ご機嫌麗しく。訓練へのご参加、ありがとうございます」
ルーク様はそう言うが、顔はちっともありがたがっていなかった。
それは王太子様にもわかったのか、不機嫌な顔で王太子様も返事をする。
「まだ討伐の日取りが決まらんと聞くが、どうなっているのだ」
「今、隊士や光の討伐隊の体調に合わせて調整中です」
「では、決まるまでの間は訓練に精進するように」
「はい」
不愉快な挨拶が終わり、ルーク様はローゼリア様に剣を捧げた。
ローゼリア様は立ちもしないで、祈りの言葉を口にした。
「愛しき者のために祝福を」
ローゼリア様が上げた手のひらから、ルーク様へと魔法がかけられる。
剣とルーク様がキラキラとした光の魔法に包まれるけど、わたしにはわかる。
あれは、加護をつけられていない。
ルーク様の周りを光らせることに魔力に使って、肝心の加護を授ける部分には少しも魔力が乗っていない。
知らない人が見れば、ルーク様には最上の加護が与えられているように見えるだろう。
体裁だけ整えて、"ローゼリア様は光の加護を授けているけれど、ルーク様が生かせていない"ように見せているみたい。
多分、光の術者ならそれがわかっているはずだ。
なのに、誰も何も言わない。
ここに、ルーク様の味方は少ない。
ルーク様の敵は魔物だけのはずなのに、わたしの目から見たルーク様は、周りを敵に囲まれて、たった一人でそこに立っているように見えた。
「食べてすぐのところ悪いけど、早速、剣に加護を頼む」
「はいっ!」
ルーク様に胸の前で剣を構えてもらう。
「愛しき者のために祝福を……!」
祈りの言葉を舌に乗せると、わたしの魔力が威力を増し、ルーク様の剣へと向かって行く。
剣を中心に、わたしの魔法がキラキラとルーク様を取り囲んだ。
「ありがとう、ニーナ」
ルーク様はわたしの方に歩み寄り、ぎゅっとわたしを抱きしめた。
「おいおい、ルーク様。兄の前で妹に手を出すのはやめてくれ。それより、ローゼリアにその剣に魔法を上書きされたらたまらない。ローゼリアに剣を祝福されるまでは、予備の剣を持っていた方がいいな。予備の剣にローゼリアの祝福を受けさせて、その後に剣を取り替えて訓練に行くんだ。オレがうまく目を逸らすから、ルーク様は急いで剣を替えてくれよ」
「はい。任せてください。義兄上」
こうして、剣に加護を付けたわたしは、副官室を後にした。
お昼休憩が終わって、わたしはまた2階席に戻り、訓練の様子を眺めていた。
午後からは光の討伐隊と共に訓練をするスケジュールらしい。
バラバラと光の術者が演習場に集まってくる。
それぞれ、光の術者と隊士でグループ分けがされて訓練が始まる。
剣に加護を貰った隊士達は、空や地面に剣を振って魔法を叩き込む。
加護は一度授けると、剣を振る度に光の力を発揮するけど、何回かそれを使うと加護が切れて、また加護を授けてもらわないといけなくなる。
隊士たちは魔法を乗せて剣を振るうが、加護が切れるとまた光の術者のところに行って、加護を授けてもらっている。
術者の魔力や隊士との相性によって、何回剣を振るえば加護が切れるか、また、自分の魔力も際限があるからそれを見極めるのにやっぱり訓練は必要なのだ。
けれど今、ルーク様が演習場で剣を振るうことはできない。
演習場の片隅で、じっと光の魔法を纏った部下の様子を眺めるだけだ。
何故なら、ルーク様の剣に、表向き加護を授けるはずのローゼリア様がここにまだ来ていないから。
加護を貰っていないはずの剣は、使えない。
なんで!?
なんで、ローゼリア様は来ないの?
ローゼリア様は、将来ルーク様とご結婚なさるのでしょう?
ルーク様が大事じゃないの?
わたしがイライラしながら訓練の様子を見守っていると、演習場で訓練中の隊士達がわらわらと違う動きをし始めた。
なんだろうと様子を見ていると、ひとりの隊士が何故かパラソルをどこからか持ってきて、演習場のグラウンドに立てた。
また、別の隊士が白く丸いテーブルを持ってやって来て、そのまた別の隊士は白い椅子をパラソルの下に設置したり。
何? ……いえ、まさか……。
まさかまさかと思いながらじっとそれを見ていると、白いパラソルを侍女に差しかけられ、光の討伐隊の隊服とは違う華美なドレスに身を包んだローゼリア様が、王太子様に手を引かれて悠々と歩いて演習場にやってきた。
嘘でしょう!
ありえない!
遅れて来た上に、パラソルにテーブル。
そして、次女が優雅にテーブルの上にアフタヌーンティーセットを展開している。
あの人、何しにここに来ているの?
それでも、わたしは口出しすることは出来ず、黙ってそれを眺めている。
ローゼリア様と王太子様が椅子に座り、ローゼリア様が優雅にお茶を口にした時、ルーク様が二人の前にやってきた。
「王太子殿下、ローゼリア王女殿下、ご機嫌麗しく。訓練へのご参加、ありがとうございます」
ルーク様はそう言うが、顔はちっともありがたがっていなかった。
それは王太子様にもわかったのか、不機嫌な顔で王太子様も返事をする。
「まだ討伐の日取りが決まらんと聞くが、どうなっているのだ」
「今、隊士や光の討伐隊の体調に合わせて調整中です」
「では、決まるまでの間は訓練に精進するように」
「はい」
不愉快な挨拶が終わり、ルーク様はローゼリア様に剣を捧げた。
ローゼリア様は立ちもしないで、祈りの言葉を口にした。
「愛しき者のために祝福を」
ローゼリア様が上げた手のひらから、ルーク様へと魔法がかけられる。
剣とルーク様がキラキラとした光の魔法に包まれるけど、わたしにはわかる。
あれは、加護をつけられていない。
ルーク様の周りを光らせることに魔力に使って、肝心の加護を授ける部分には少しも魔力が乗っていない。
知らない人が見れば、ルーク様には最上の加護が与えられているように見えるだろう。
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多分、光の術者ならそれがわかっているはずだ。
なのに、誰も何も言わない。
ここに、ルーク様の味方は少ない。
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