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15章 加護
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「義兄上、すまない。待たせたな」
ルーク様が部屋着(と言っても白いブラウスに濃紺のトラウザーズで、ザ・貴族! という感じの部屋着だけど)に着替えて、お兄様が先に座っている、長い長いテーブルに着いた。
この広いダイニングルーム、今日の給仕はわたし一人でやらせてもらうことになっている。
密談をするためだ。
別に、フランクさんとサリーさんになら聞かれても構わないけれど、何かあったときに、事情を全く知らない方がお二人にとっていいだろうと思ったので、こうしてもらった。
……何かあった時というのは、もちろん、わたしが王家から処罰される時だけど……。
ワゴンに食事を乗せて、わたしとサリーさんでダイニングに運ぶ。
運び終わったらサリーさんには退出してもらった。
一気にダイニングに食事を運んだら冷めてしまうけど、今日は許してもらおう。
……わたしのお給金叩いた分厚いステーキは温かいうちに出すけどね!
ワゴンからまずサラダを二人の前に並べ、順番めちゃくちゃだけど、次にステーキを出した。
お兄様はサラダに手をつける前に、まず肉にかぶりつく。
「……ああ、訓練の後のステーキは格別だな。それで、ニーナ。話を聞くからおまえも座れ」
「はい。先に、お食事を並べ終えたら座らせていただきますね」
わたしは急いでワゴンのものをテーブルに置いた。
普通は徐々に出していくものだが、今日は一気に並べて後は好き勝手に食べていただくことにした。
全部を並べ終えて、わたしは少し間を空けてルーク様の隣に腰掛ける。
「それで、お兄様にお願いがあるんですけど……」
言いにくいので、両手を膝の上でモゾモゾ動かしていると、お兄様がくすりと笑う。
「なーにモジモジしてるんだよ。ルーク様からある程度聞いている。演習場に来たいんだって?」
お腹が空いているのか、お兄様は食事の手を止めずに、わたしに話しかけた。
「はい。そうなんです。お兄様にご迷惑は(なるべく)おかけしません。だから、わたしもこっそり訓練に参加させてもらえないでしょうか」
「いいよ」
「無下に断らずにわたしの話も聞いてくださ……え? いいって言いました?」
わたしが立ち上がってお兄様を見ると、お兄様はステーキ肉で口をモゴモゴさせながら頷いた。
「あぁ。いいって言ったよ」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みでお兄様にお礼を言い、ルーク様を振り返ると、ブスッとしたお顔でサラダを食べていた。
「義兄上はニーナに甘い」
「大丈夫だって。王女は下々の者がいるところにはあんまり来ないだろ? それに、ニーナも光の魔法は練習した方がいい。ニーナ、いつから来る?」
お兄様の問いに、ぐっと握った両手に更に力を入れる。
「明日にでも!」
わたしの答えを聞いて、ルーク様はため息をこぼした。
「義兄上、ニーナの護衛だが」
「いや、護衛をつけたら返って怪しまれる。観覧席付近にいてもらった方がいいのではないか?」
わたしは首を傾げで二人に聞く。
「観覧席って、前にわたしが忘れ物を届けに行った時に座ってた二階の座席ですか?」
「そう。あの演習場はオレ達が使っていない時は近衛とかが訓練に使ったり、闘技場として使ったりするから、見物人が入ることがあるんだ。ルーク様率いる討伐隊は、実力重視だからオレ達が訓練する時はあまりいないけど、近衛は顔のいい奴が多いから、そういう奴らが訓練する時は座席が満席になるほどだぜ?」
ふーん。
ルーク様もお兄様もカッコいいのに。
なんかちょっと、ムッとした。
「じゃ、明日からニーナは演習場に来てもらって、光の連携の練習をしてくれ。ルーク様は訓練に集中して、フォローはオレに任せてくれ。言わなくてもわかってると思うが、服装は町人のような感じで。ニーナは風魔法はどれくらい使える?」
「風魔法ですか? 初級と中級の間くらいですかね」
「じゃ、何かあったら2階席から何か目印を飛ばせるように用意しとけ」
「紙飛行機とかですか?」
「そんなわかりやすいものはダメだ。小さいハンカチとかかな」
等々、その後は細かい打ち合わせをしてお兄様は帰って行った。
なんでも、明日からデイヴィス家までわたしを迎えに来てくれるというのだ。
ルーク様は目立つので、ルーク様と一緒の馬車で行くのはダメだと言われたから。
だったら、一人で辻馬車で行くと言ったら、遠慮するなと言われて、わたしを乗せてもらうことになった。
お兄様にしたら回り道になるので申し訳ないけれど……。
自分の部屋に帰り、打ち合わせの内容等を思い返すと自然と笑みが溢れる。
ああ、嬉しい。
やっと、ルーク様のお役に立てるんだ。
ルーク様が部屋着(と言っても白いブラウスに濃紺のトラウザーズで、ザ・貴族! という感じの部屋着だけど)に着替えて、お兄様が先に座っている、長い長いテーブルに着いた。
この広いダイニングルーム、今日の給仕はわたし一人でやらせてもらうことになっている。
密談をするためだ。
別に、フランクさんとサリーさんになら聞かれても構わないけれど、何かあったときに、事情を全く知らない方がお二人にとっていいだろうと思ったので、こうしてもらった。
……何かあった時というのは、もちろん、わたしが王家から処罰される時だけど……。
ワゴンに食事を乗せて、わたしとサリーさんでダイニングに運ぶ。
運び終わったらサリーさんには退出してもらった。
一気にダイニングに食事を運んだら冷めてしまうけど、今日は許してもらおう。
……わたしのお給金叩いた分厚いステーキは温かいうちに出すけどね!
ワゴンからまずサラダを二人の前に並べ、順番めちゃくちゃだけど、次にステーキを出した。
お兄様はサラダに手をつける前に、まず肉にかぶりつく。
「……ああ、訓練の後のステーキは格別だな。それで、ニーナ。話を聞くからおまえも座れ」
「はい。先に、お食事を並べ終えたら座らせていただきますね」
わたしは急いでワゴンのものをテーブルに置いた。
普通は徐々に出していくものだが、今日は一気に並べて後は好き勝手に食べていただくことにした。
全部を並べ終えて、わたしは少し間を空けてルーク様の隣に腰掛ける。
「それで、お兄様にお願いがあるんですけど……」
言いにくいので、両手を膝の上でモゾモゾ動かしていると、お兄様がくすりと笑う。
「なーにモジモジしてるんだよ。ルーク様からある程度聞いている。演習場に来たいんだって?」
お腹が空いているのか、お兄様は食事の手を止めずに、わたしに話しかけた。
「はい。そうなんです。お兄様にご迷惑は(なるべく)おかけしません。だから、わたしもこっそり訓練に参加させてもらえないでしょうか」
「いいよ」
「無下に断らずにわたしの話も聞いてくださ……え? いいって言いました?」
わたしが立ち上がってお兄様を見ると、お兄様はステーキ肉で口をモゴモゴさせながら頷いた。
「あぁ。いいって言ったよ」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みでお兄様にお礼を言い、ルーク様を振り返ると、ブスッとしたお顔でサラダを食べていた。
「義兄上はニーナに甘い」
「大丈夫だって。王女は下々の者がいるところにはあんまり来ないだろ? それに、ニーナも光の魔法は練習した方がいい。ニーナ、いつから来る?」
お兄様の問いに、ぐっと握った両手に更に力を入れる。
「明日にでも!」
わたしの答えを聞いて、ルーク様はため息をこぼした。
「義兄上、ニーナの護衛だが」
「いや、護衛をつけたら返って怪しまれる。観覧席付近にいてもらった方がいいのではないか?」
わたしは首を傾げで二人に聞く。
「観覧席って、前にわたしが忘れ物を届けに行った時に座ってた二階の座席ですか?」
「そう。あの演習場はオレ達が使っていない時は近衛とかが訓練に使ったり、闘技場として使ったりするから、見物人が入ることがあるんだ。ルーク様率いる討伐隊は、実力重視だからオレ達が訓練する時はあまりいないけど、近衛は顔のいい奴が多いから、そういう奴らが訓練する時は座席が満席になるほどだぜ?」
ふーん。
ルーク様もお兄様もカッコいいのに。
なんかちょっと、ムッとした。
「じゃ、明日からニーナは演習場に来てもらって、光の連携の練習をしてくれ。ルーク様は訓練に集中して、フォローはオレに任せてくれ。言わなくてもわかってると思うが、服装は町人のような感じで。ニーナは風魔法はどれくらい使える?」
「風魔法ですか? 初級と中級の間くらいですかね」
「じゃ、何かあったら2階席から何か目印を飛ばせるように用意しとけ」
「紙飛行機とかですか?」
「そんなわかりやすいものはダメだ。小さいハンカチとかかな」
等々、その後は細かい打ち合わせをしてお兄様は帰って行った。
なんでも、明日からデイヴィス家までわたしを迎えに来てくれるというのだ。
ルーク様は目立つので、ルーク様と一緒の馬車で行くのはダメだと言われたから。
だったら、一人で辻馬車で行くと言ったら、遠慮するなと言われて、わたしを乗せてもらうことになった。
お兄様にしたら回り道になるので申し訳ないけれど……。
自分の部屋に帰り、打ち合わせの内容等を思い返すと自然と笑みが溢れる。
ああ、嬉しい。
やっと、ルーク様のお役に立てるんだ。
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