146 / 255
15章 加護
2
しおりを挟む
「義兄上、すまない。待たせたな」
ルーク様が部屋着(と言っても白いブラウスに濃紺のトラウザーズで、ザ・貴族! という感じの部屋着だけど)に着替えて、お兄様が先に座っている、長い長いテーブルに着いた。
この広いダイニングルーム、今日の給仕はわたし一人でやらせてもらうことになっている。
密談をするためだ。
別に、フランクさんとサリーさんになら聞かれても構わないけれど、何かあったときに、事情を全く知らない方がお二人にとっていいだろうと思ったので、こうしてもらった。
……何かあった時というのは、もちろん、わたしが王家から処罰される時だけど……。
ワゴンに食事を乗せて、わたしとサリーさんでダイニングに運ぶ。
運び終わったらサリーさんには退出してもらった。
一気にダイニングに食事を運んだら冷めてしまうけど、今日は許してもらおう。
……わたしのお給金叩いた分厚いステーキは温かいうちに出すけどね!
ワゴンからまずサラダを二人の前に並べ、順番めちゃくちゃだけど、次にステーキを出した。
お兄様はサラダに手をつける前に、まず肉にかぶりつく。
「……ああ、訓練の後のステーキは格別だな。それで、ニーナ。話を聞くからおまえも座れ」
「はい。先に、お食事を並べ終えたら座らせていただきますね」
わたしは急いでワゴンのものをテーブルに置いた。
普通は徐々に出していくものだが、今日は一気に並べて後は好き勝手に食べていただくことにした。
全部を並べ終えて、わたしは少し間を空けてルーク様の隣に腰掛ける。
「それで、お兄様にお願いがあるんですけど……」
言いにくいので、両手を膝の上でモゾモゾ動かしていると、お兄様がくすりと笑う。
「なーにモジモジしてるんだよ。ルーク様からある程度聞いている。演習場に来たいんだって?」
お腹が空いているのか、お兄様は食事の手を止めずに、わたしに話しかけた。
「はい。そうなんです。お兄様にご迷惑は(なるべく)おかけしません。だから、わたしもこっそり訓練に参加させてもらえないでしょうか」
「いいよ」
「無下に断らずにわたしの話も聞いてくださ……え? いいって言いました?」
わたしが立ち上がってお兄様を見ると、お兄様はステーキ肉で口をモゴモゴさせながら頷いた。
「あぁ。いいって言ったよ」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みでお兄様にお礼を言い、ルーク様を振り返ると、ブスッとしたお顔でサラダを食べていた。
「義兄上はニーナに甘い」
「大丈夫だって。王女は下々の者がいるところにはあんまり来ないだろ? それに、ニーナも光の魔法は練習した方がいい。ニーナ、いつから来る?」
お兄様の問いに、ぐっと握った両手に更に力を入れる。
「明日にでも!」
わたしの答えを聞いて、ルーク様はため息をこぼした。
「義兄上、ニーナの護衛だが」
「いや、護衛をつけたら返って怪しまれる。観覧席付近にいてもらった方がいいのではないか?」
わたしは首を傾げで二人に聞く。
「観覧席って、前にわたしが忘れ物を届けに行った時に座ってた二階の座席ですか?」
「そう。あの演習場はオレ達が使っていない時は近衛とかが訓練に使ったり、闘技場として使ったりするから、見物人が入ることがあるんだ。ルーク様率いる討伐隊は、実力重視だからオレ達が訓練する時はあまりいないけど、近衛は顔のいい奴が多いから、そういう奴らが訓練する時は座席が満席になるほどだぜ?」
ふーん。
ルーク様もお兄様もカッコいいのに。
なんかちょっと、ムッとした。
「じゃ、明日からニーナは演習場に来てもらって、光の連携の練習をしてくれ。ルーク様は訓練に集中して、フォローはオレに任せてくれ。言わなくてもわかってると思うが、服装は町人のような感じで。ニーナは風魔法はどれくらい使える?」
「風魔法ですか? 初級と中級の間くらいですかね」
「じゃ、何かあったら2階席から何か目印を飛ばせるように用意しとけ」
「紙飛行機とかですか?」
「そんなわかりやすいものはダメだ。小さいハンカチとかかな」
等々、その後は細かい打ち合わせをしてお兄様は帰って行った。
なんでも、明日からデイヴィス家までわたしを迎えに来てくれるというのだ。
ルーク様は目立つので、ルーク様と一緒の馬車で行くのはダメだと言われたから。
だったら、一人で辻馬車で行くと言ったら、遠慮するなと言われて、わたしを乗せてもらうことになった。
お兄様にしたら回り道になるので申し訳ないけれど……。
自分の部屋に帰り、打ち合わせの内容等を思い返すと自然と笑みが溢れる。
ああ、嬉しい。
やっと、ルーク様のお役に立てるんだ。
ルーク様が部屋着(と言っても白いブラウスに濃紺のトラウザーズで、ザ・貴族! という感じの部屋着だけど)に着替えて、お兄様が先に座っている、長い長いテーブルに着いた。
この広いダイニングルーム、今日の給仕はわたし一人でやらせてもらうことになっている。
密談をするためだ。
別に、フランクさんとサリーさんになら聞かれても構わないけれど、何かあったときに、事情を全く知らない方がお二人にとっていいだろうと思ったので、こうしてもらった。
……何かあった時というのは、もちろん、わたしが王家から処罰される時だけど……。
ワゴンに食事を乗せて、わたしとサリーさんでダイニングに運ぶ。
運び終わったらサリーさんには退出してもらった。
一気にダイニングに食事を運んだら冷めてしまうけど、今日は許してもらおう。
……わたしのお給金叩いた分厚いステーキは温かいうちに出すけどね!
ワゴンからまずサラダを二人の前に並べ、順番めちゃくちゃだけど、次にステーキを出した。
お兄様はサラダに手をつける前に、まず肉にかぶりつく。
「……ああ、訓練の後のステーキは格別だな。それで、ニーナ。話を聞くからおまえも座れ」
「はい。先に、お食事を並べ終えたら座らせていただきますね」
わたしは急いでワゴンのものをテーブルに置いた。
普通は徐々に出していくものだが、今日は一気に並べて後は好き勝手に食べていただくことにした。
全部を並べ終えて、わたしは少し間を空けてルーク様の隣に腰掛ける。
「それで、お兄様にお願いがあるんですけど……」
言いにくいので、両手を膝の上でモゾモゾ動かしていると、お兄様がくすりと笑う。
「なーにモジモジしてるんだよ。ルーク様からある程度聞いている。演習場に来たいんだって?」
お腹が空いているのか、お兄様は食事の手を止めずに、わたしに話しかけた。
「はい。そうなんです。お兄様にご迷惑は(なるべく)おかけしません。だから、わたしもこっそり訓練に参加させてもらえないでしょうか」
「いいよ」
「無下に断らずにわたしの話も聞いてくださ……え? いいって言いました?」
わたしが立ち上がってお兄様を見ると、お兄様はステーキ肉で口をモゴモゴさせながら頷いた。
「あぁ。いいって言ったよ」
「ありがとうございますっ!」
満面の笑みでお兄様にお礼を言い、ルーク様を振り返ると、ブスッとしたお顔でサラダを食べていた。
「義兄上はニーナに甘い」
「大丈夫だって。王女は下々の者がいるところにはあんまり来ないだろ? それに、ニーナも光の魔法は練習した方がいい。ニーナ、いつから来る?」
お兄様の問いに、ぐっと握った両手に更に力を入れる。
「明日にでも!」
わたしの答えを聞いて、ルーク様はため息をこぼした。
「義兄上、ニーナの護衛だが」
「いや、護衛をつけたら返って怪しまれる。観覧席付近にいてもらった方がいいのではないか?」
わたしは首を傾げで二人に聞く。
「観覧席って、前にわたしが忘れ物を届けに行った時に座ってた二階の座席ですか?」
「そう。あの演習場はオレ達が使っていない時は近衛とかが訓練に使ったり、闘技場として使ったりするから、見物人が入ることがあるんだ。ルーク様率いる討伐隊は、実力重視だからオレ達が訓練する時はあまりいないけど、近衛は顔のいい奴が多いから、そういう奴らが訓練する時は座席が満席になるほどだぜ?」
ふーん。
ルーク様もお兄様もカッコいいのに。
なんかちょっと、ムッとした。
「じゃ、明日からニーナは演習場に来てもらって、光の連携の練習をしてくれ。ルーク様は訓練に集中して、フォローはオレに任せてくれ。言わなくてもわかってると思うが、服装は町人のような感じで。ニーナは風魔法はどれくらい使える?」
「風魔法ですか? 初級と中級の間くらいですかね」
「じゃ、何かあったら2階席から何か目印を飛ばせるように用意しとけ」
「紙飛行機とかですか?」
「そんなわかりやすいものはダメだ。小さいハンカチとかかな」
等々、その後は細かい打ち合わせをしてお兄様は帰って行った。
なんでも、明日からデイヴィス家までわたしを迎えに来てくれるというのだ。
ルーク様は目立つので、ルーク様と一緒の馬車で行くのはダメだと言われたから。
だったら、一人で辻馬車で行くと言ったら、遠慮するなと言われて、わたしを乗せてもらうことになった。
お兄様にしたら回り道になるので申し訳ないけれど……。
自分の部屋に帰り、打ち合わせの内容等を思い返すと自然と笑みが溢れる。
ああ、嬉しい。
やっと、ルーク様のお役に立てるんだ。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜
白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます!
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる