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15章 加護
オレのニーナが言うことを聞かない
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フランクとサリーの有難い申し出通り、ニーナは表向き雇用継続、実際は退職ということになった。
あの後、またニーナとフランクは言い争いをしていた。
フランクは雇用継続している限りは、給金は発生すると言っていたが、ニーナが仕事をしないのに受け取れないと言い出したのだ。
そんなことはどーでもいいから、雇用継続するならちゃんと屋敷で働かせてくれ。
演習場には来させないでくれ。そう言ったオレの訴えは、3人に却下された。
3人がワイのワイのと話しているうちに、オレはダイニングテーブルに戻り、一人もそもそと朝食を食べて部屋を出ようとした。
その頃には決着がついていたようで、ニーナがにこやかに、オレを送るために外套を手に持ってオレの後をついて来た。
ははん。頑固なニーナにフランクが折れたな。
玄関ホールに行くと、何人かの使用人が送りのために出てきていた。
別棟は専属の使用人は少ないが、本館から通いで何人かはいつも来ている。
昨日の騒ぎを聞きつけてか、いつもより心持ち人数が多い気がする。野次馬たちめ!
「ルーク様」
ニーナに声を掛けられ、立ち止まって外套を羽織る。
使用人達の興味津々な視線が注がれるが、普段通りにニーナに接する。
「「「いってらっしゃいませ」」」
使用人達に送られて玄関を出ると、馬車が待っていた。
……何故か、うちの馬車ではなく、ミラー子爵家の馬車が。
オリバー義兄上は、馬車の扉を開けてオレが来るのを待っていた。
「ルーク様、おはよう」
あまりにも爽やかにそう言うので、オレは苦虫を噛み潰したように挨拶を返した。
「……おはようございます」
オレがその馬車に乗り込むと、ニーナが走り寄ってきた。
「お兄様、おはようございます。申し訳ありませんが、今日はお仕事帰りに少しデイヴィス家に寄っていただけませんか?」
馬車を覗き込みながら言うニーナに、義兄上は笑顔で頷いた。
「もちろん、寄らせてもらうよ。夕飯は分厚いステーキがいいなぁ」
「もぉっ! お兄様ったら図々しい。でも、かしこまりました。お肉、ご馳走いたしますわ。お早くお帰りになってくださいね」
……フランクに言っておかないとな。ご馳走するとニーナが言うのは、多分、義兄上のステーキのお金は、ニーナが自分の給金から出す気だからだろう。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ニーナが頭を下げると同時に、ミラー家の御者が馬車の扉を閉めて馬車を発車させた。
オレは向かいに座る義兄上に、恨みがましい目を向ける。
「……どうして今まで黙っておられたのですか? ニーナがジーナであることを」
この聡い兄の昨日の行動は、オレにニーナがジーナであるとわからせる行動であった。
故に、オレはさまざまな説明を省き、単刀直入に質問する。
「いきなり言っても信じられなかっただろう? それどころか、多分ニーナを拒絶していたんじゃないかな。『ジーナじゃない』って」
まぁ、確かにその可能性はある。
ジーナはあのジーナが唯一だと思い込んでいたから。
「それにしても、もっと早く教えてくれても……。なんですか、剣にリボンって」
「オレだって他に思いつかなかったんだよ。でも、一瞬騙されたろう? 剣にリボン、いい方法だと思うんだが。実際に、このリボンはジーナのだしな」
「そーですか……」
小さく遠目から見たらあまり目立たないので
オレは剣のリボンはそのまま結んでいる。ジーナのだしな。
「ところで、今日デイヴィス家に呼ばれたのは、討伐の話だろう? ニーナはどうするって?」
身を乗り出す義兄上に、ため息をつく。
「それ以前の問題ですよ。ニーナは訓練にも参加すると言い出しています」
「ああ、そうだな。訓練に参加した方が、より高い効果が出るだろう。よし、任せとけ」
「いやいや、義兄上。止めてくださいよ。お宅の
跳ねっ返りはローゼリアの怖さを知らない」
オレがそう言うと、義兄上は複雑そうな顔をした。
「いや、多分ジーナはわかってるぞ。大丈夫だ。それより、王家から討伐が近いので婚礼の日取りを決めたいと進言があったと聞いたが、そっちは大丈夫なのか?」
そう言えば、父上から呼ばれてそんなことを言われたな。
「今は討伐の事で頭がいっぱいです。そんな話は後にしてください、と父には言ってありますよ」
ローゼリアと結婚する気は毛頭ない。
しかし、断るにしても討伐前に揉めたくないので、そんな返答にした。
「それならいいが……」
「そんなことより、ニーナを止めてください」
「何度言われたって、オレの意見は変わらんぞ。オレはニーナは演習場に来て、ルーク様との連携をより深くさせた方がいいと思ってるからな。それに、あいつだってもう二度とルーク様の側を離れたくはないだろう。うまくやるさ」
「そーですかね……」
この妹にしてこの兄あり。
ミラー家の教育方針を一度問い詰めてみたい。
でもきっと、オレとニーナに子ができたら、ミラー家の教育方針に則って育てるんだろうけど……。
あの後、またニーナとフランクは言い争いをしていた。
フランクは雇用継続している限りは、給金は発生すると言っていたが、ニーナが仕事をしないのに受け取れないと言い出したのだ。
そんなことはどーでもいいから、雇用継続するならちゃんと屋敷で働かせてくれ。
演習場には来させないでくれ。そう言ったオレの訴えは、3人に却下された。
3人がワイのワイのと話しているうちに、オレはダイニングテーブルに戻り、一人もそもそと朝食を食べて部屋を出ようとした。
その頃には決着がついていたようで、ニーナがにこやかに、オレを送るために外套を手に持ってオレの後をついて来た。
ははん。頑固なニーナにフランクが折れたな。
玄関ホールに行くと、何人かの使用人が送りのために出てきていた。
別棟は専属の使用人は少ないが、本館から通いで何人かはいつも来ている。
昨日の騒ぎを聞きつけてか、いつもより心持ち人数が多い気がする。野次馬たちめ!
「ルーク様」
ニーナに声を掛けられ、立ち止まって外套を羽織る。
使用人達の興味津々な視線が注がれるが、普段通りにニーナに接する。
「「「いってらっしゃいませ」」」
使用人達に送られて玄関を出ると、馬車が待っていた。
……何故か、うちの馬車ではなく、ミラー子爵家の馬車が。
オリバー義兄上は、馬車の扉を開けてオレが来るのを待っていた。
「ルーク様、おはよう」
あまりにも爽やかにそう言うので、オレは苦虫を噛み潰したように挨拶を返した。
「……おはようございます」
オレがその馬車に乗り込むと、ニーナが走り寄ってきた。
「お兄様、おはようございます。申し訳ありませんが、今日はお仕事帰りに少しデイヴィス家に寄っていただけませんか?」
馬車を覗き込みながら言うニーナに、義兄上は笑顔で頷いた。
「もちろん、寄らせてもらうよ。夕飯は分厚いステーキがいいなぁ」
「もぉっ! お兄様ったら図々しい。でも、かしこまりました。お肉、ご馳走いたしますわ。お早くお帰りになってくださいね」
……フランクに言っておかないとな。ご馳走するとニーナが言うのは、多分、義兄上のステーキのお金は、ニーナが自分の給金から出す気だからだろう。
「では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
ニーナが頭を下げると同時に、ミラー家の御者が馬車の扉を閉めて馬車を発車させた。
オレは向かいに座る義兄上に、恨みがましい目を向ける。
「……どうして今まで黙っておられたのですか? ニーナがジーナであることを」
この聡い兄の昨日の行動は、オレにニーナがジーナであるとわからせる行動であった。
故に、オレはさまざまな説明を省き、単刀直入に質問する。
「いきなり言っても信じられなかっただろう? それどころか、多分ニーナを拒絶していたんじゃないかな。『ジーナじゃない』って」
まぁ、確かにその可能性はある。
ジーナはあのジーナが唯一だと思い込んでいたから。
「それにしても、もっと早く教えてくれても……。なんですか、剣にリボンって」
「オレだって他に思いつかなかったんだよ。でも、一瞬騙されたろう? 剣にリボン、いい方法だと思うんだが。実際に、このリボンはジーナのだしな」
「そーですか……」
小さく遠目から見たらあまり目立たないので
オレは剣のリボンはそのまま結んでいる。ジーナのだしな。
「ところで、今日デイヴィス家に呼ばれたのは、討伐の話だろう? ニーナはどうするって?」
身を乗り出す義兄上に、ため息をつく。
「それ以前の問題ですよ。ニーナは訓練にも参加すると言い出しています」
「ああ、そうだな。訓練に参加した方が、より高い効果が出るだろう。よし、任せとけ」
「いやいや、義兄上。止めてくださいよ。お宅の
跳ねっ返りはローゼリアの怖さを知らない」
オレがそう言うと、義兄上は複雑そうな顔をした。
「いや、多分ジーナはわかってるぞ。大丈夫だ。それより、王家から討伐が近いので婚礼の日取りを決めたいと進言があったと聞いたが、そっちは大丈夫なのか?」
そう言えば、父上から呼ばれてそんなことを言われたな。
「今は討伐の事で頭がいっぱいです。そんな話は後にしてください、と父には言ってありますよ」
ローゼリアと結婚する気は毛頭ない。
しかし、断るにしても討伐前に揉めたくないので、そんな返答にした。
「それならいいが……」
「そんなことより、ニーナを止めてください」
「何度言われたって、オレの意見は変わらんぞ。オレはニーナは演習場に来て、ルーク様との連携をより深くさせた方がいいと思ってるからな。それに、あいつだってもう二度とルーク様の側を離れたくはないだろう。うまくやるさ」
「そーですかね……」
この妹にしてこの兄あり。
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