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14章 氷解
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「ちょっ、ちょっと待ってください! わたしはデイヴィス家を辞めるなんて一言も」
慌てるわたしに、フランクさんはニコリと笑う。
「ルーク様の想い人に使用人の仕事をさせるなんてできません」
「そんなことはありません。できます! 使用人ですから、お仕事できます!!」
勢いをつけて立ち上がると、ルーク様がわたしの腕を引き、座らせる。
「落ち着け、ニーナ。オレもそうしてもらえると助かる。フランクやサリーは仕事が増えるので申し訳ないが」
「いえ、当然のことでございます」
なんか、ルーク様とフランクさんサリーさんの3人で話が進んでしまってわたしは慌てる。
「待ってください! ここをクビになったら、わたしはデイヴィス家を出ていかなきゃならないんです。だから、今日は図々しいお願いをしようと思っていました」
ルーク様はじっと、わたしの目を見る。
「よし。ではニーナの意見を聞こう」
うまく説明しなくちゃと思うと、ごくりと喉が鳴った。
「わたし、ルーク様の侍女のお仕事は続けて行きたいと思ってます。お部屋を整えたり、お支度を手伝ったり。今もサリーさんにも一緒にやってもらうことがありますが、今後もサリーさんに協力をしてもらえたらと思います。そして、仕事中に申し訳ないのですが、昼間にたくさん休憩時間が欲しいです。その分、夜働きますから……」
「昼間、時間を作って何をするんだ? 光の魔法の練習か?」
ルーク様の問いに、わたしはフランクさんとサリーしんに向けていた視線をルーク様に向ける。
「いえ、討伐が近いと聞きました。一人で練習していたのでは、討伐に間に合いません。わたしもルーク様がいらっしやる演習場に行き、剣に加護を付与する練習がしたいです」
わたしの申し出にルーク様は目を丸くする。
「演習場に来るだって!? 正気か、ニーナ。あそこにはローゼリアも来るんだぞ。見つかったら、どうなるかわからない!」
「でも! 演習場で付与してちゃんと効果を確かめながらでないと、意味がありません。見つからないようにしますから、だから、お願いします。ルーク様」
わたしはルーク様に頭を下げる。
そしてその後、フランクさんとサリーさんにも頭を下げた。
「お願いです。わたしは、ルーク様に討伐で命をなくして欲しくないんです。ローゼリア様の魔法とは、合わないと聞きました。でしたら、わたしがルーク様の剣を、ルーク様を御守りしたいんです。演習場から戻ってきたら、その分のお仕事はします。だから、デイヴィス家に居させてください」
頭を下げたまま、なんと言われるかじっと沙汰を待つ。
すると、フランクさんのため息が聞こえてきた。
もしかして、だめ、なの?
恐る恐る顔を上げると、呆れたような表情のフランクさんが見えた。
やっぱり、ムシが良すぎるかな……。ちゃんと働きもしないで、デイヴィス家に置いてください、なんて……。
「ニーナ、わたしとサリーはあなたの今後をちゃんと話し合って、退職してもらう方向で準備をすることとしていました。それは、クビと言う意味ではなく、表向きは雇用継続したまま、実務的にだけ退職にしようとしていたのです」
「え……、表向きって」
「討伐までもうすぐだとルーク様はおっしゃいました。それならば、ニーナにはやることがたくさんあると、推察されます。ですから、デイヴィス家にいるために、表向き使用人の籍は置いたまま、仕事からは外れていただく予定でした」
サリーさんも微笑んでわたしに告げる。
「そうよ、まさか、演習場に行くと言い出すとは思っていなかったけど、お守りの刺繍をしたり、ルーク様がお帰りになったらルーク様のお側にいたり、討伐までにやることはたくさんあるはずだわ。だから、侍女としての仕事は任せて、ニーナはルーク様の力になって」
どうしよう。嬉しくてまた泣きそう。
わたしの上司はとてもいい人達だ。
主人によく仕えていて、部下のこともよく考えてくれて。
「サリーさん、フランクさん、ありがとうございます……!」
わたしとフランクさん達で話が纏まりそうなところに、ルーク様が慌てて入ってきた。
「ちょっと待ってくれ。いや、表向き使用人で実際退職というのはオレも賛成だ。二人とも礼を言う。本当に、感謝する。しかし、ニーナの演習場の話はダメだ」
「ダメじゃないです。わたしは行きます。わたしが行くのがダメというのなら、ルーク様はローゼリア様の魔法と合わせる方法を考えてください」
「ローゼリアとは何をやっても合わない。それは断言できる」
ルーク様はきっぱりと言い放った。
「だったら、わたしを連れて行ってください!」
「ダメだ」
話し合いは平行線。
それを見ていたフランクさんが、わたし達の間に割って入ってくれる。
「では、ミラー卿に相談なさってはいかがですかな。演習場にニーナを連れて行ける方法を考えてくださるかもしれません」
そうよ! お兄様!
「いや、義兄上はおそらくなんとかしてニーナを演習場に連れて行ってしまうだろう。オレは方法がないからダメとは言っていない。心配だから来るなと言っているんだ」
「しかし、ルーク様。ニーナが光の加護を付与できると言うのなら、それは討伐では有利になるのではないですか? 勝利の確率が上がるのであれば、わたし達はニーナの考えに賛同します」
「くっ、オレの味方が誰もいない……」
こうして、わたしはルーク様と一緒に演習場に行くことになったのだった。
慌てるわたしに、フランクさんはニコリと笑う。
「ルーク様の想い人に使用人の仕事をさせるなんてできません」
「そんなことはありません。できます! 使用人ですから、お仕事できます!!」
勢いをつけて立ち上がると、ルーク様がわたしの腕を引き、座らせる。
「落ち着け、ニーナ。オレもそうしてもらえると助かる。フランクやサリーは仕事が増えるので申し訳ないが」
「いえ、当然のことでございます」
なんか、ルーク様とフランクさんサリーさんの3人で話が進んでしまってわたしは慌てる。
「待ってください! ここをクビになったら、わたしはデイヴィス家を出ていかなきゃならないんです。だから、今日は図々しいお願いをしようと思っていました」
ルーク様はじっと、わたしの目を見る。
「よし。ではニーナの意見を聞こう」
うまく説明しなくちゃと思うと、ごくりと喉が鳴った。
「わたし、ルーク様の侍女のお仕事は続けて行きたいと思ってます。お部屋を整えたり、お支度を手伝ったり。今もサリーさんにも一緒にやってもらうことがありますが、今後もサリーさんに協力をしてもらえたらと思います。そして、仕事中に申し訳ないのですが、昼間にたくさん休憩時間が欲しいです。その分、夜働きますから……」
「昼間、時間を作って何をするんだ? 光の魔法の練習か?」
ルーク様の問いに、わたしはフランクさんとサリーしんに向けていた視線をルーク様に向ける。
「いえ、討伐が近いと聞きました。一人で練習していたのでは、討伐に間に合いません。わたしもルーク様がいらっしやる演習場に行き、剣に加護を付与する練習がしたいです」
わたしの申し出にルーク様は目を丸くする。
「演習場に来るだって!? 正気か、ニーナ。あそこにはローゼリアも来るんだぞ。見つかったら、どうなるかわからない!」
「でも! 演習場で付与してちゃんと効果を確かめながらでないと、意味がありません。見つからないようにしますから、だから、お願いします。ルーク様」
わたしはルーク様に頭を下げる。
そしてその後、フランクさんとサリーさんにも頭を下げた。
「お願いです。わたしは、ルーク様に討伐で命をなくして欲しくないんです。ローゼリア様の魔法とは、合わないと聞きました。でしたら、わたしがルーク様の剣を、ルーク様を御守りしたいんです。演習場から戻ってきたら、その分のお仕事はします。だから、デイヴィス家に居させてください」
頭を下げたまま、なんと言われるかじっと沙汰を待つ。
すると、フランクさんのため息が聞こえてきた。
もしかして、だめ、なの?
恐る恐る顔を上げると、呆れたような表情のフランクさんが見えた。
やっぱり、ムシが良すぎるかな……。ちゃんと働きもしないで、デイヴィス家に置いてください、なんて……。
「ニーナ、わたしとサリーはあなたの今後をちゃんと話し合って、退職してもらう方向で準備をすることとしていました。それは、クビと言う意味ではなく、表向きは雇用継続したまま、実務的にだけ退職にしようとしていたのです」
「え……、表向きって」
「討伐までもうすぐだとルーク様はおっしゃいました。それならば、ニーナにはやることがたくさんあると、推察されます。ですから、デイヴィス家にいるために、表向き使用人の籍は置いたまま、仕事からは外れていただく予定でした」
サリーさんも微笑んでわたしに告げる。
「そうよ、まさか、演習場に行くと言い出すとは思っていなかったけど、お守りの刺繍をしたり、ルーク様がお帰りになったらルーク様のお側にいたり、討伐までにやることはたくさんあるはずだわ。だから、侍女としての仕事は任せて、ニーナはルーク様の力になって」
どうしよう。嬉しくてまた泣きそう。
わたしの上司はとてもいい人達だ。
主人によく仕えていて、部下のこともよく考えてくれて。
「サリーさん、フランクさん、ありがとうございます……!」
わたしとフランクさん達で話が纏まりそうなところに、ルーク様が慌てて入ってきた。
「ちょっと待ってくれ。いや、表向き使用人で実際退職というのはオレも賛成だ。二人とも礼を言う。本当に、感謝する。しかし、ニーナの演習場の話はダメだ」
「ダメじゃないです。わたしは行きます。わたしが行くのがダメというのなら、ルーク様はローゼリア様の魔法と合わせる方法を考えてください」
「ローゼリアとは何をやっても合わない。それは断言できる」
ルーク様はきっぱりと言い放った。
「だったら、わたしを連れて行ってください!」
「ダメだ」
話し合いは平行線。
それを見ていたフランクさんが、わたし達の間に割って入ってくれる。
「では、ミラー卿に相談なさってはいかがですかな。演習場にニーナを連れて行ける方法を考えてくださるかもしれません」
そうよ! お兄様!
「いや、義兄上はおそらくなんとかしてニーナを演習場に連れて行ってしまうだろう。オレは方法がないからダメとは言っていない。心配だから来るなと言っているんだ」
「しかし、ルーク様。ニーナが光の加護を付与できると言うのなら、それは討伐では有利になるのではないですか? 勝利の確率が上がるのであれば、わたし達はニーナの考えに賛同します」
「くっ、オレの味方が誰もいない……」
こうして、わたしはルーク様と一緒に演習場に行くことになったのだった。
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