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14章 氷解
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馬車が停まると、ルーク様はわたしを抱きかかえて屋敷の中に入って行った。
って、ちょっと待ってよ!
なんでわたし抱っこされてるの?
「ルーク様! 下ろしてください。わたし、自分で歩きます」
「いや、ニーナの足よりオレの方が早い」
「もうディヴイス家ですよ? そんなに急ぐ意味あります?」
「早く部屋に行く」
その問答の後は無言になってしまったルーク様。
長い足でさっさか歩いていってしまう。
出迎えに出てきた屋敷にいたメイドや、執事のフランクさんやサリーさんが目を丸くしてこちらを見ていた。
はっと我に帰ったサリーさんがこちらに走り寄ってくる。
「お帰りなさいませ、ルーク様。あの、ニーナが何かしましたでしょうか?」
サリーさんは部下であるわたしが、ルーク様に抱えられているのを見て、慌てたようだ。
「サリー、問題ない。別に折檻をしようとしているわけではないから心配するな」
「でもっ、」
サリーさんは走るようにルーク様の後を追いかけてくる。
「心配ない。それより、ニーナの荷物がまだ馬車の中だ。それをニーナの部屋に入れておいてやってくれ」
「……かしこまりました」
歩くスピードを落とさないルーク様に、サリーさんの方が諦めたようだ。
そのまま二階に上がり、ルーク様の部屋に到達する。
ルーク様はソファにわたしを下ろすとドアまで戻り、鍵をかけた。
使用人とご主人様という名目があっても、若い未婚の男女が二人きりで部屋にいるなら、ドアは少し開けておくものだ。
今までだって、わたしがルーク様のお部屋に入る時は、少しドアを開けていた。
「あの、ルーク様。ドア……」
わたしがおずおずとルーク様に声を掛けると、ルーク様はニヤリと笑った。
「ニーナ、ちゃんと分かっているのか。あぁ、そうか。ジーナの記憶か?」
「い、い、え。違います! ニーナであるわたしはれっきとしたレディです。一般常識として、存じております! 男女7歳にして、席を同じゅうせずと申しますのよ」
「んで? その意味は?」
「え?」
「なんだ意味も知らずに使っているのか。席とはソファの事だ。横にもなれるから、大きくなったら男女ふたりきりで同じソファにいてはいけない、つまり一緒に寝てはならないということだな」
「は、はあ……そうですか」
意味までは知りませんでした。
なんで席を同じくして座っちゃいけないのかと、密かに思ってました。
ジーナの記憶があっても、知らない事は知らないわよ!
「でも、何にせよ、年頃の男女が密室の中で二人きりになってはいけません。少しドア開けますよ」
わたしは立ち上がり、ドアの方へ行こうとした。
しかし、すぐにルーク様に捕まってしまう。
「待て」
ルーク様はわたしの腕を掴むと、思い切り自分の方へ引っ張った。
「きゃっ!」
わたしはそのままルーク様の膝の上に倒れ込む。
「ひどいです。何するんですか、ルーク様」
「別に開けなくてもいいだろう。ニーナはもう縁談を探す必要がない」
縁談を探す必要がない?
「は? ルーク様、何を言って……」
わたしがびっくりしてルーク様の顔を覗き込むと、ルーク様は薄く笑う。
「まさか、オレというものがありながら、別の男と結婚しようなどと考えてはいないだろうな?」
「いえ、あの、まだわたしは結婚なんて考えていませんが、ルーク様はすでに婚約者様がおられる身で、わたしなんかと噂が立ってはいけないと……」
ふっ、
ルーク様は鼻で笑った。
「誰と誰が婚約してるって?」
「ルーク様とローゼリア様です」
「オレは了承していない。それにおそらく、もし万が一ローゼリアと結婚することになったとしても、普通に仮面夫婦だろうな。紙だけのもので、しかもオレのサインは偽物だろう」
偽物?
「何故偽物なんですか?」
「オレは絶対にサインしないからさ。そしてオレは討伐が終わったら、勝とうが負けようが廃嫡をしてもらい、領地に引っ込むつもりだ」
って、ちょっと待ってよ!
なんでわたし抱っこされてるの?
「ルーク様! 下ろしてください。わたし、自分で歩きます」
「いや、ニーナの足よりオレの方が早い」
「もうディヴイス家ですよ? そんなに急ぐ意味あります?」
「早く部屋に行く」
その問答の後は無言になってしまったルーク様。
長い足でさっさか歩いていってしまう。
出迎えに出てきた屋敷にいたメイドや、執事のフランクさんやサリーさんが目を丸くしてこちらを見ていた。
はっと我に帰ったサリーさんがこちらに走り寄ってくる。
「お帰りなさいませ、ルーク様。あの、ニーナが何かしましたでしょうか?」
サリーさんは部下であるわたしが、ルーク様に抱えられているのを見て、慌てたようだ。
「サリー、問題ない。別に折檻をしようとしているわけではないから心配するな」
「でもっ、」
サリーさんは走るようにルーク様の後を追いかけてくる。
「心配ない。それより、ニーナの荷物がまだ馬車の中だ。それをニーナの部屋に入れておいてやってくれ」
「……かしこまりました」
歩くスピードを落とさないルーク様に、サリーさんの方が諦めたようだ。
そのまま二階に上がり、ルーク様の部屋に到達する。
ルーク様はソファにわたしを下ろすとドアまで戻り、鍵をかけた。
使用人とご主人様という名目があっても、若い未婚の男女が二人きりで部屋にいるなら、ドアは少し開けておくものだ。
今までだって、わたしがルーク様のお部屋に入る時は、少しドアを開けていた。
「あの、ルーク様。ドア……」
わたしがおずおずとルーク様に声を掛けると、ルーク様はニヤリと笑った。
「ニーナ、ちゃんと分かっているのか。あぁ、そうか。ジーナの記憶か?」
「い、い、え。違います! ニーナであるわたしはれっきとしたレディです。一般常識として、存じております! 男女7歳にして、席を同じゅうせずと申しますのよ」
「んで? その意味は?」
「え?」
「なんだ意味も知らずに使っているのか。席とはソファの事だ。横にもなれるから、大きくなったら男女ふたりきりで同じソファにいてはいけない、つまり一緒に寝てはならないということだな」
「は、はあ……そうですか」
意味までは知りませんでした。
なんで席を同じくして座っちゃいけないのかと、密かに思ってました。
ジーナの記憶があっても、知らない事は知らないわよ!
「でも、何にせよ、年頃の男女が密室の中で二人きりになってはいけません。少しドア開けますよ」
わたしは立ち上がり、ドアの方へ行こうとした。
しかし、すぐにルーク様に捕まってしまう。
「待て」
ルーク様はわたしの腕を掴むと、思い切り自分の方へ引っ張った。
「きゃっ!」
わたしはそのままルーク様の膝の上に倒れ込む。
「ひどいです。何するんですか、ルーク様」
「別に開けなくてもいいだろう。ニーナはもう縁談を探す必要がない」
縁談を探す必要がない?
「は? ルーク様、何を言って……」
わたしがびっくりしてルーク様の顔を覗き込むと、ルーク様は薄く笑う。
「まさか、オレというものがありながら、別の男と結婚しようなどと考えてはいないだろうな?」
「いえ、あの、まだわたしは結婚なんて考えていませんが、ルーク様はすでに婚約者様がおられる身で、わたしなんかと噂が立ってはいけないと……」
ふっ、
ルーク様は鼻で笑った。
「誰と誰が婚約してるって?」
「ルーク様とローゼリア様です」
「オレは了承していない。それにおそらく、もし万が一ローゼリアと結婚することになったとしても、普通に仮面夫婦だろうな。紙だけのもので、しかもオレのサインは偽物だろう」
偽物?
「何故偽物なんですか?」
「オレは絶対にサインしないからさ。そしてオレは討伐が終わったら、勝とうが負けようが廃嫡をしてもらい、領地に引っ込むつもりだ」
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