もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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14章 氷解

逢えた

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ニーナは怯えながらも顔を上げてオレの目を見つめた。

「ルーク様、わたしをよく見てください。わたしはニーナですよ?」

この期に及んでまだ否定をするニーナ。

「うん。ニーナだ。わかっているよ。だけど、ジーナだ」

オレが幼い頃から想い続けたオレの唯一。ジーナだ。

オレは我慢できずに、その小さな身体をこの両腕で抱きしめた。

「ニーナ。君に初めて会った時から感じていたんだ。君の中のジーナを。姿形が変わっても、オレの唯一が君なのは変わらない。死が二人を別つわかつとも、オレはジーナと共にいる」

ニーナの耳元で、オレが恋想うのは過去も未来もジーナだという気持ちを込めて告げる。
苦しい想いを告げたために、掠れた声になってしまったが。

ニーナはオレの想いを聞くと、身体をぴんくとさせた後、おそるおそるオレの背中に手を回した。

「ルーク様……。黙っていてごめんなさい。一人にさせてしまってごめんなさい。あなたを遺して先に逝ってしまって、ご…めんなさい……」

きゅっとオレを抱きしめる手に力が入り、震えながらそう言うニーナの声は潤んでいた。

そっと身体を離し、ニーナの顔を見ると、大きな瞳からこれまた大きな粒の涙がポロポロと溢れ出ていた。

「……ジーナ?」
小さく低く呟き、オレはニーナを覗き込む。

「はい、ルーク様。ジーナです」

ニーナは微笑みながら、オレの頬に手を伸ばした。
そのまま、ニーナの指はオレの頬をスルッと撫でる。いや、拭う。

オレの顔からニーナの指が離れるのを見ると、その指先は濡れていた。

「あ……!」

知らず知らずのうちに、オレの目からも涙が溢れていたのだ。


いい歳をして泣くなんて恥ずかしすぎる。

かぁ~っと赤くなる頬を隠すように腕を上げた。

「ルーク様。こんなに近くでお顔を見られるなんて、15年ぶりです。隠さないで見せてくださいな」

ジーナが静かにオレの腕に触れ、それを下ろす。

濡れた瞳と瞳がぶつかり合う。

「ふっ、」
「ははっ」

思わず二人で吹き出した。

そして、何がおもしろかったのか、オレ達二人はずっとずっと笑っていた。


オレはジーナが亡くなってから、心の底から笑ったことなどなかった。
それが、今日は思い切り、心の底から笑った。
ただただ笑った。



ああ。
ジーナ。
君がいない世界を生きるのは辛かったよ。
だけど、こんな日が来るのなら、あの辛い日々は無駄ではなかったんだな。

ああ。
生きていてよかった。

君の後を追わなくてよかった。

また、君に逢えて、よかった。
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