もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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14章 氷解

やっと

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狭い馬車の中で、オレはニーナの隣に腰をおろし、ニーナの方へとにじり寄った。
もちろん、狭い中では逃げる事はできないだろうが、その上で逃げられないように腰に手を回す。

そんなオレの顔を見つめて、驚きと怯えでニーナの目が見開かれる。

オレはじっとニーナの顔を見るが、雰囲気こそジーナと似ているものの、顔の作りはまるで違う。
それでも、オレはこの娘がジーナであると確信していた。


いつでも違和感はあったのだ。

ジーナと同じ仕草。
トマト入りのサンドイッチ。ホットケーキ。
直されたハンカチの刺繍。

ニーナが直したハンカチの刺繍だが、よく見ると糸の始末の仕方に癖があった。
それは、ジーナにもらったハンカチと同じ癖だ。
多分、ニーナが直したハンカチも、数年も使わないうちに糸は解けるだろう。
ニーナ自身はそれに気が付いていないようだが。

そして、今日渡されたジーナが遺したハンカチ。
家族ですら見つけられなかったものを、ニーナは見つけて義兄上に渡した。
おそらく、ジーナは不出来なハンカチをどこかに隠していたに違いない。
だから、家族でも見つけられなかったのだろう。
それをニーナはいとも簡単に見つけた。

渡されたハンカチの糸の始末を見て、オレは目を細めた。

ジーナの手で成ったものだと実感すると同時に、ニーナはジーナであると確信したからだ。

しかし、ジーナは何故オレに言ってくれないんだ。

不満に思ったオレは、ジーナにカマをかける。

「また川に入って遊んだのか?」

ニーナの実家の近くには川はない。
もっと細かく言えば、子どもが入って遊べるような大きな穏やかな川はミラー子爵家領内にしかないのだ。

オレの思惑に気付かず、ジーナは子どもの頃の話を披露する。

それを聞き終わったオレは、ジーナが逃げられないように囲い込んだ。



「覚えていないのか? ニーナの家の近くには川は流れていないよ。前にニーナに連れられて買い物に行った時、それと今日ニーナを迎えに使いをやる時にもきちんと地域を調べた。では、その口が語る川遊びは誰がしたものだろうか」

ニーナが話しやすいよう、無理矢理微笑んで見せる。
それなのにニーナは、一層怯えてオレから距離を取ろうとした。

ダメだよ。
逃がさない。

ニーナの腰に回した手に力を入れる。

「さぁ、話してもらおうか? ジーナ」




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