もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
122 / 255
13章 確信

ジーナの遺したもの

しおりを挟む
オレは再度立ち上がる。

「王女の思い違いでしょう。隊士達は光の術者ともうまく連携して、退魔の剣は威力を発揮しています」

オレが座ると、今度は王太子は立ち上がらず座って腕組みをしたまま、オレを睨んだ。

「剣技の問題ではない。隊長、いや英雄たるルーク・デイヴィスの剣が未熟で、破魔の剣が使えていないと聞いているが?」

あいつが座ったままなら、オレも立ち上がる必要はないと、オレも座ったままで答える。

「いいえ。問題ありません。剣はこれ以上ないくらい仕上がっています」

これ以上ないくらい。
つまり、オレとローゼリアは今の剣以上に寄り添うことはないってことだ。

オレの態度に王太子がピクリと眉を上げる。

「では、出撃の用意を。それが終わり次第、出撃でいいな?」
「はい」

今のままで討伐に向かうということは、かなり苦しい戦いを強いられることになるだろう。
それでも、こちらがこれ以上光との連携が取れる可能性がないならば、まだ魔物が成長し切っていない今叩かなければ、勝機は完全になくなってしまうだろう。
オレの読みだと、勝敗は五分五分といったところか。


やるせない気持ちを抱えて帰宅すると、ニーナ達が笑顔で迎え入れてくれる。

ああ。
帰ってきたな。
あの、薄汚れた場所から。

心の底からほっと息を吐く。

その後も、長くニーナの顔を見ていたくて、飲みたくもない酒を飲むことにした。
オレは元々、酒に強くないので、すぐに意識が混濁してくる。
ただ、何か柔らかいものを抱き込んだ記憶はあった。
何よりも愛しいものを抱きしめたら、こんな感じだろうかと、よく回らない頭で考えた。

次の日、少し重い頭をかかえて出仕すると、義兄上が心配そうにオレの様子を伺いにきた。
だが、ニーナに晩酌を付き合ってもらったからか、気持ちはそんなに重くなかった。

午後、隊士と訓練をしていると、義兄上が走ってこちらにやって来る。

「義兄上。昼休み長くないか? もう午後の訓練は始まってますよ」

のんびりやの義兄上に苦言を呈すと、そんなことを気にしない義兄上がオレに剣を差し出した。
剣の鞘には、ブラウンのリボンが巻かれていた。

「いいから。ルーク様、ちょっとこの剣を振ってみてくれないか? 破魔の気を含んで」

義兄上から剣を受け取り構えると、リボンがふわりと手の甲を撫でていく。

これは……まさか……。

まさかまさかと思いながら、破魔の気を剣に纏わせ、一気に剣を振り抜いた。

-その瞬間、切先から轟音を唸らせて炎が立ち上り、演習場の空に霧散する。


「す、すげぇ……。オレが振り下ろしたのとは比べ物にならないくらい、ルーク様の破魔の気と剣が連携できている……!」


他の隊士や義兄上が口をポカンと開けて、炎が立ち上った後の空を見ていた。

「いやあ、ルーク様。剣先に人がいなくて良かったな」
ヘラヘラと笑う義兄上に駆け寄り、その両腕を掴む。

「義兄上! このリボンはジーナのっ」
ジーナの物なのか? その一言が声が詰まって言えず、義兄上の瞳をじっと見る。

「あ、ああ。そうだよ。ジーナの物だ」
「こんなっ、ジーナが居なくなってから随分と経つのに、それでもオレを護ってくれるなんて……!」

熱いものが込み上げ、オレの瞳から涙が溢れ出てくる。

死してなお、オレに愛情をもたらしてくれるジーナを想って。

リボンの付く剣を胸に抱き、目を閉じるオレに義兄上が暖かく肩を叩く。

「ルーク様、ジーナの遺した物はそう多くはない。討伐の時には何本か剣を用意して交換しながら戦うしかないだろう」

魔法を掛けた剣の威力はずっと続くわけではない。
およそ数時間ごとに、魔法を掛け直さなくてはならないのだ。
剣一本はそんなに軽いものではないが、腰に何本も振る下げて戦うことは難しいだろう。

「リボンを持っておいて、巻き変えればいいのでは?」
「あー、リボンを巻いただけじゃないんだ。剣にリボンを巻いて、しばらく剣と馴染ませないといけないんだ」

なるほど……。
それならジーナのリボンだけを持っていればいいとはならないか。

「これで、あの女とではないが、ルーク様も光の術者と連携できたことになるな」

義兄上は笑う。

オレ達剣士が光の加護を纏った剣を振るう時、連携されなければ光の魔法と属性魔法、オレで言うと火の魔法が反発しあってお互いを打ち消してしまう。
しかし、双方の魔法が馴染めばその威力はかけ算される。

それが、オレとローゼリアの魔法は全く馴染まず、それどころか打ち消しあってマイナスの効果を発揮していた。
オレの剣は、一般騎士の剣にも及ばないものになっていたのだ。



ジーナ。
空の上から見ていてくれ。
オレはジーナの力を借りて、君が大事にしていたものを守るよ。

君の家族や、君が好きだった大地に咲く花々を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

処理中です...