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12章 とまどい
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キラキラとした光は剣全体を包み、そしてそのまま剣に吸われるように消えて行った。
「かかったのか?」
「……おそらく」
確かな手応えがあった。
多分かかっている、と思う。
「ニーナ、もう一度かけることはできるか?」
「まだ魔力はありますから大丈夫ですけど……」
お兄様はわたしの答えを聞くと、剣を構えて空を切った。
ヒュン、と音がしたかと思ったら、剣先にあった噴水の水が、一瞬断ち切れる。
そしてそのすぐ後に、噴水の後ろにあった木がすごい突風に煽られたかのように、さざめいて葉を落とした。
「……すげぇ……」
お兄様は呆然とその結果を見ている。
「あの、お兄様? これって、すごいんですか?」
わたしは剣に加護を与える勉強をしてきたが、その加護を与えられた剣がどのよくに作用するかはあまり知らなかった。
「ああ。オレの属性はニーナと同じ風だから、振った剣からは風が吹く。光の加護の付いた風は魔獣や魔物を傷付けることができるが、あの威力なら相当なダメージが与えられるはずだ。もし、これをルーク様が振ったら、もっと凄い結果になると思う。ニーナ、早速だがもう一度魔法をかけてくれ。この剣を持ってルーク様のところへ帰る」
「あ、はい。わかりました」
お兄様はもう一度剣を胸の前に掲げ、わたしももう一度魔法をかけた。
今度は、さっきよりももっとキラキラが多く剣に降り注いだような気がする。
「サンキュー、ニーナ。また度々頼みに来るから、しっかり精進してくれ」
「わかってますよ」
お兄様は笑顔で剣を鞘におさめ、走って去って行った。
1人になったわたしは、じっと自分の手のひらを見つめる。
使えるようになった?
光の魔法。
ルーク様のために、わたしは役に立つのだろうか。
胸のあたりがほかほかと温かくなる。
やっと、ルーク様のお役に立てる。
わたしはウキウキとした気分で仕事に戻った。
洗濯から戻ってきた洗いたてのシーツを持ってルーク様のお部屋に行く。
ふふふ。
デイヴィス家の洗剤、とってもいい香りがするのよね。
今日はお天気も良くすぐ乾いたから、お日様の香りにも包まれて、ルーク様は良く眠れるかな。
あ、そうだ。
さっきポケットに入れたハンカチも直してアイロンをかけておこう。
わたしはテキパキと部屋のお掃除をして、すぐに休憩室に戻った。
休憩室には、お掃除メイドのおばさん達もいて、ビスケットをつまみながら、話に花を咲かせていた。
「あら、ニーナも休憩?」
その中のひとりがわたしに話しかける。
お掃除メイドのおばさん達は、みんな50代。
元々は本館で働いていたけど、ルーク様が別館に移動された時に、子育てをするために業務の軽い別館に回ってきた人たちばかりだ。
やっぱり、業務的に本館よりはこちらの方が軽いらしい。
日常のお掃除は別館メイドでやるけれど、年に何回かは掃除専門の本館のメイドが来て大掃除をしていってくれるし。
「いえ、ちょっと繕い物がしたくって。お裁縫箱貸してもらえますか?」
「いいわよ。ちょっと待ってて」
おばさんは休憩室の棚に行くと、大きな取手のついた箱を持ってきた。
「二段になっているけど、上が針と縫い糸。下には色々な種類の糸があるから、糸はそこから選ぶのよ」
「はい。ありがとうございます」
早速、わたしはおばさん達がお茶を飲んでいるテーブルから離れて、作業台のようになっているスペースに腰掛けた。
解けている刺繍糸を少し引っ張る。
あら~。
なんて甘い処理。
ダメじゃん、ジーナ。
こんなものをルーク様にお渡ししてたなんて。
前世のわたしの時は、これでも上手くできたと思ったものをルーク様にあげてたんだけどな。
ほつれた糸を針に通し、なんとか修繕していく。
ハンカチーフ自体は色褪せてしまったけれど、あの時の記憶が蘇ってくる。
ルーク様の喜ぶ顔が見たくて、一針一針丁寧に刺した。
じっとしていることが苦手なわたしが、大人しく座っているなんて、お母様とお姉様がびっくりしてたっけ。
そして、お渡しした時のルーク様の嬉しそうな顔を見た時、もっともっとルーク様のために自分のできることはすべてやってあげたいと思うようになったんだ。
刺繍の修繕が終わると、わたしは丁寧にアイロンもかけて、ルーク様の机の引き出しにそれを戻した。
「かかったのか?」
「……おそらく」
確かな手応えがあった。
多分かかっている、と思う。
「ニーナ、もう一度かけることはできるか?」
「まだ魔力はありますから大丈夫ですけど……」
お兄様はわたしの答えを聞くと、剣を構えて空を切った。
ヒュン、と音がしたかと思ったら、剣先にあった噴水の水が、一瞬断ち切れる。
そしてそのすぐ後に、噴水の後ろにあった木がすごい突風に煽られたかのように、さざめいて葉を落とした。
「……すげぇ……」
お兄様は呆然とその結果を見ている。
「あの、お兄様? これって、すごいんですか?」
わたしは剣に加護を与える勉強をしてきたが、その加護を与えられた剣がどのよくに作用するかはあまり知らなかった。
「ああ。オレの属性はニーナと同じ風だから、振った剣からは風が吹く。光の加護の付いた風は魔獣や魔物を傷付けることができるが、あの威力なら相当なダメージが与えられるはずだ。もし、これをルーク様が振ったら、もっと凄い結果になると思う。ニーナ、早速だがもう一度魔法をかけてくれ。この剣を持ってルーク様のところへ帰る」
「あ、はい。わかりました」
お兄様はもう一度剣を胸の前に掲げ、わたしももう一度魔法をかけた。
今度は、さっきよりももっとキラキラが多く剣に降り注いだような気がする。
「サンキュー、ニーナ。また度々頼みに来るから、しっかり精進してくれ」
「わかってますよ」
お兄様は笑顔で剣を鞘におさめ、走って去って行った。
1人になったわたしは、じっと自分の手のひらを見つめる。
使えるようになった?
光の魔法。
ルーク様のために、わたしは役に立つのだろうか。
胸のあたりがほかほかと温かくなる。
やっと、ルーク様のお役に立てる。
わたしはウキウキとした気分で仕事に戻った。
洗濯から戻ってきた洗いたてのシーツを持ってルーク様のお部屋に行く。
ふふふ。
デイヴィス家の洗剤、とってもいい香りがするのよね。
今日はお天気も良くすぐ乾いたから、お日様の香りにも包まれて、ルーク様は良く眠れるかな。
あ、そうだ。
さっきポケットに入れたハンカチも直してアイロンをかけておこう。
わたしはテキパキと部屋のお掃除をして、すぐに休憩室に戻った。
休憩室には、お掃除メイドのおばさん達もいて、ビスケットをつまみながら、話に花を咲かせていた。
「あら、ニーナも休憩?」
その中のひとりがわたしに話しかける。
お掃除メイドのおばさん達は、みんな50代。
元々は本館で働いていたけど、ルーク様が別館に移動された時に、子育てをするために業務の軽い別館に回ってきた人たちばかりだ。
やっぱり、業務的に本館よりはこちらの方が軽いらしい。
日常のお掃除は別館メイドでやるけれど、年に何回かは掃除専門の本館のメイドが来て大掃除をしていってくれるし。
「いえ、ちょっと繕い物がしたくって。お裁縫箱貸してもらえますか?」
「いいわよ。ちょっと待ってて」
おばさんは休憩室の棚に行くと、大きな取手のついた箱を持ってきた。
「二段になっているけど、上が針と縫い糸。下には色々な種類の糸があるから、糸はそこから選ぶのよ」
「はい。ありがとうございます」
早速、わたしはおばさん達がお茶を飲んでいるテーブルから離れて、作業台のようになっているスペースに腰掛けた。
解けている刺繍糸を少し引っ張る。
あら~。
なんて甘い処理。
ダメじゃん、ジーナ。
こんなものをルーク様にお渡ししてたなんて。
前世のわたしの時は、これでも上手くできたと思ったものをルーク様にあげてたんだけどな。
ほつれた糸を針に通し、なんとか修繕していく。
ハンカチーフ自体は色褪せてしまったけれど、あの時の記憶が蘇ってくる。
ルーク様の喜ぶ顔が見たくて、一針一針丁寧に刺した。
じっとしていることが苦手なわたしが、大人しく座っているなんて、お母様とお姉様がびっくりしてたっけ。
そして、お渡しした時のルーク様の嬉しそうな顔を見た時、もっともっとルーク様のために自分のできることはすべてやってあげたいと思うようになったんだ。
刺繍の修繕が終わると、わたしは丁寧にアイロンもかけて、ルーク様の机の引き出しにそれを戻した。
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