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12章 とまどい
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はっ!
これって、この体勢の時に誰かが入ってきたら、大変な誤解をされる格好じゃない?
冷静に自分の姿を見てみる。
広いルーク様のお部屋の片隅のソファ部分。
酔ってソファに身を預ける主人と、主人に覆い被さるメイド。
どう考えても、主人を誘惑しているメイドにしか見えない!
そんな安い三文小説のような誤解をされたら、ルーク様の沽券にかかわる。
「ル、ルーク様。酔っていらっしゃるのはわかりますが、お願いですから手を離してください。動けないのでしたら、フランクさんを呼んできますから」
焦ってルーク様の胸を押し、離れようとするわたしに、ルーク様の腕の力が強くなる。
その腰に回した手に力を入れないでくださいよ。
離れられないじゃないですかー!?
顔を上げてルーク様を見ると、変わらず深い緑色の瞳でわたしをずっと見つめていた。
わたしはどうすることもできずに、魅入られたようにその瞳を見続ける。
言葉なく見つめあったわたしたちだが、不意にルーク様が口を開く。
「ニーナ。もし、オレの顔に黒く醜いアザがあったら、おまえはどうする?」
アザ?
ルーク様は子どもの頃のことを言っているんだろうか……。
「どうって、別に……。痛そうだったら手当てしますけど……」
ふっ、とルーク様は笑った。
「そうか。どうもしないか」
それだけ言うと、ルーク様はわたしの腰に回した手を解いた。
再び掴まる前に、わたしはサッと身を起こす。
「国王は何を考えているのかわからない。訓練を見に来て、オレに顔に傷をつけるなと言う。隊士が傷をつけずに戦えるわけがない。国王は魔物の恐ろしさをわかっていないんだ」
聞こえるか聞こえないかの声でそう言うと、ルーク様はそのまま目を閉じてしまった。
すぅすぅと寝息を立てるルーク様。
お酒を召し上がると言うから、何かあったのだろうとは思ったけど、今日は国王と話す機会があったんだ。
もしかしたら、ローゼリア様や王太子様も一緒だったのかもしれない。
ルーク様を起こさないように注意をしながら、ソファの上から降りて、フランクさんを呼びに行った。
次の日、ルーク様はやっぱり頭を押さえながら起きてきた。
ほら見ろ。と、言いたいところをぐっと堪える。
ほほほ。わたしはできるメイドですからね。
ルーク様のお部屋を訪れたわたしは、ルーク様の前にグラスを差し出した。
「ルーク様、こちらレモン水にはちみつを入れたものです。二日酔いにはスッキリするものがいいかと思ってご用意しました。お食事の前にお飲みください」
ルーク様は頭を押さえながら、ジロリとわたしを見る。
「いらん」
「ダメですよ、水分補給しないと」
ルーク様、お酒に弱いのわかってるんだから、加減して飲めばいいのに。
わたしは無理矢理ルーク様にグラスを押し付けると、すぐに隊服や靴をご用意し、洗面台にお湯を用意した。
「では、ルーク様。朝食をご用意して参ります。今日は……」
わたしが様子を伺うように上目遣いでルーク様を見ると、不貞腐れたようにそっぽを向いてルーク様が答える。
「軽くしてくれ。フルーツだけでいい」
「かしこまりました」
ほら! やっぱり二日酔いで食欲がないんじゃない。
その後、ルーク様のお食事が終わると、わたしは一旦退出する。
そして、お出掛けの時間に合わせて再度ルーク様のお部屋に行き、外套を持って部屋を出るルーク様について行った。
ルーク様は使用人が見送りの為にならんでいる玄関まで来ると、わたしを振り返る。
わたしは手に持っていた外套をルーク様に着せ掛けた。
「今日は定刻通りに帰宅する」
あら、今日は残業も打ち合わせもないのね。
「かしこまりました」
ルーク様が前へ一歩踏み出すと、侍従さんがドアを開ける。
「行ってらっしゃいませ」
わたしは、フランクさんやサリーさんと合わせて腰を折り、ルーク様を見送った。
これって、この体勢の時に誰かが入ってきたら、大変な誤解をされる格好じゃない?
冷静に自分の姿を見てみる。
広いルーク様のお部屋の片隅のソファ部分。
酔ってソファに身を預ける主人と、主人に覆い被さるメイド。
どう考えても、主人を誘惑しているメイドにしか見えない!
そんな安い三文小説のような誤解をされたら、ルーク様の沽券にかかわる。
「ル、ルーク様。酔っていらっしゃるのはわかりますが、お願いですから手を離してください。動けないのでしたら、フランクさんを呼んできますから」
焦ってルーク様の胸を押し、離れようとするわたしに、ルーク様の腕の力が強くなる。
その腰に回した手に力を入れないでくださいよ。
離れられないじゃないですかー!?
顔を上げてルーク様を見ると、変わらず深い緑色の瞳でわたしをずっと見つめていた。
わたしはどうすることもできずに、魅入られたようにその瞳を見続ける。
言葉なく見つめあったわたしたちだが、不意にルーク様が口を開く。
「ニーナ。もし、オレの顔に黒く醜いアザがあったら、おまえはどうする?」
アザ?
ルーク様は子どもの頃のことを言っているんだろうか……。
「どうって、別に……。痛そうだったら手当てしますけど……」
ふっ、とルーク様は笑った。
「そうか。どうもしないか」
それだけ言うと、ルーク様はわたしの腰に回した手を解いた。
再び掴まる前に、わたしはサッと身を起こす。
「国王は何を考えているのかわからない。訓練を見に来て、オレに顔に傷をつけるなと言う。隊士が傷をつけずに戦えるわけがない。国王は魔物の恐ろしさをわかっていないんだ」
聞こえるか聞こえないかの声でそう言うと、ルーク様はそのまま目を閉じてしまった。
すぅすぅと寝息を立てるルーク様。
お酒を召し上がると言うから、何かあったのだろうとは思ったけど、今日は国王と話す機会があったんだ。
もしかしたら、ローゼリア様や王太子様も一緒だったのかもしれない。
ルーク様を起こさないように注意をしながら、ソファの上から降りて、フランクさんを呼びに行った。
次の日、ルーク様はやっぱり頭を押さえながら起きてきた。
ほら見ろ。と、言いたいところをぐっと堪える。
ほほほ。わたしはできるメイドですからね。
ルーク様のお部屋を訪れたわたしは、ルーク様の前にグラスを差し出した。
「ルーク様、こちらレモン水にはちみつを入れたものです。二日酔いにはスッキリするものがいいかと思ってご用意しました。お食事の前にお飲みください」
ルーク様は頭を押さえながら、ジロリとわたしを見る。
「いらん」
「ダメですよ、水分補給しないと」
ルーク様、お酒に弱いのわかってるんだから、加減して飲めばいいのに。
わたしは無理矢理ルーク様にグラスを押し付けると、すぐに隊服や靴をご用意し、洗面台にお湯を用意した。
「では、ルーク様。朝食をご用意して参ります。今日は……」
わたしが様子を伺うように上目遣いでルーク様を見ると、不貞腐れたようにそっぽを向いてルーク様が答える。
「軽くしてくれ。フルーツだけでいい」
「かしこまりました」
ほら! やっぱり二日酔いで食欲がないんじゃない。
その後、ルーク様のお食事が終わると、わたしは一旦退出する。
そして、お出掛けの時間に合わせて再度ルーク様のお部屋に行き、外套を持って部屋を出るルーク様について行った。
ルーク様は使用人が見送りの為にならんでいる玄関まで来ると、わたしを振り返る。
わたしは手に持っていた外套をルーク様に着せ掛けた。
「今日は定刻通りに帰宅する」
あら、今日は残業も打ち合わせもないのね。
「かしこまりました」
ルーク様が前へ一歩踏み出すと、侍従さんがドアを開ける。
「行ってらっしゃいませ」
わたしは、フランクさんやサリーさんと合わせて腰を折り、ルーク様を見送った。
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