もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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12章 とまどい

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「アロン様、ちょっとそこで見ててください」

わたしはアロン様に声を掛けて立ち上がる。

「風よ、吹け!」
言葉と共に、両手を噴水の方に向けた。

わたしの手の動きに合わせるように、噴水がゆらりと、落とす水の形を変えた。

「どうです? アロン様」

自慢げにアロン様を振り向くと、アロン様はぽかんと口を開けていた。

「どうって……。おまえ、オレに魔法は教わらないんじゃなかったのか?」
「教えてもらっていません。わたしが魔法をお見せしただけです」
「それって……」

アロン様はマジマジとわたしの顔を見ると、次の瞬間笑い出した。

「ははっ、そうか。教わらなきゃいいのか。では、オレは教えなきゃいいんだな。ニーナ、おまえの魔法はまだまだだ。威力と精度がダメだ」
「威力と精度ですか?」
「ああ。風が弱いし、的に当たり切っていない。噴水の水と一緒に、その奥の木が揺らめいた。的を噴水にしたのに、溢れた魔法があったということだ」

なるほど……。
今まで気にしたこともなかった。
思ったところには当たっていたんだし。

「もっと、魔法を絞ってかけないとダメってことですか?」
わたしが首を傾げると、アロン様は一つ咳払いをしてから答えた。

「これはオレの独り言だ。広範囲にかけると魔力が散らばってしまうから、狙った的だけに集中できるようにするんだ。魔力が散らばれば、それだけ無駄にエネルギーを使い、その分威力が下がる」
「なるほど……」

これって、光の魔法にも言えることじゃない?
もしかしたら、光の魔法も広範囲にかけてしまっていて、精度が下がっているのかも知れない。

わたしはアロン様に向かって、頭を下げた。

「アロン様、ありがとうございます。なんか、ヒントが掴めたような気がします」
「バカ者。オレは教えておらんぞ。だから、お礼など言うな」

アロン様がそっぽを向いてそう言った。
でも、わたしから顔を背けても、耳が赤くなっているのが見える。

「ええ! アロン様は教えてくださっていません! でも、ありがとうございました!」

この日のことは、光の魔法を使う、大きな一歩となったのだった。





その日の夜、ルーク様はオリバーお兄様を伴ってご帰宅なさった。

「お帰りなさいませ。ルーク様」
フランクさんやサリーさんと一緒に玄関に並び、お出迎えをする。

外套をわたしに渡しながら、ルーク様はお兄様に応接室へ行くように促した。

「義兄上、着替えてくるまで少し待っていてください」

フランクさんがお兄様を応接室へご案内している間に、サリーさんはお茶とお菓子の用意をし、わたしはルーク様と共にルーク様のお部屋に向かった。

わたしはルーク様に部屋着をお出しして、渡された隊服にブラシをかける。
わたしが隊服を手入れしている間に、ルーク様は部屋を出て行かれた。

隊服をきちんとハンガーにかけてクローゼットに仕舞う。
わたしも部屋を出て行こうとすると、ルーク様の机の引き出しに少し隙間があることに気がついた。

本当は、ご主人様の机を勝手に開けるなんていけないんだけど、歪んでるのが気になる。
気がつかなければいいくらいの小さなことなんだけど、気になっちゃうとずっと気にしてしまうのがわたしだ。

スッと引き出しを引くと、何かが挟まっていたようで、ガタンと音を立てて引き出しが開いた。

「ルーク様、書類入れ過ぎですよ~。もう!」

引き出しの中には小箱があり、引き出しが歪んでいた原因はそれだと知る。
書類の上に小箱が乗っていたから、その分厚みが出て引き出しが歪んでいたらしい。
小箱の下から書類を抜き出し、小箱を置こうとしたけど、その小箱には見覚えがあった。

「これはジーナわたしがルーク様にお渡ししたものだわ」

そっと箱を開けると、ヘタクソな刺繍でルーク様のお名前が記されたハンカチが出てきた。

「懐かしいー。これは初めてルーク様にプレゼントしたお手製刺繍のハンカチ! ルーク様、まだ大切に持っていてくれたんだ」

広げて見ると、なんでこんなものプレゼントできたんだと言うくらい、刺繍は拙いものだった。

ただでさえヘタクソなのに、もう端の部分がほつれてしまっていた。
糸の始末が甘かったんだな。これは。

直したいけど、今はお兄様がいらしているし、応接室に待機していないといけないので、そっとハンカチを箱に戻し、机の引き出しを閉めた。

まあ、機会があったら直しておきましょう。
早く応接室に行かないと、サリーさんが一人で大変だし。

そうして、わたしはルーク様の部屋を後にした。
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