もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
109 / 255
11章 光を探して

7

しおりを挟む
「アロン様のご親切なんだから、アロン様の気が済むまで魔法を教えていただいたらいいじゃない」

サリーさんに相談したら、あっけらかんとそう言われた。

「はい?」
「だって、ニーナは魔法を練習したいのでしょう? わたしから見たら、ニーナの魔法力は全然不足していないと思うけど。洗濯物もよく乾かしてくれるし。でも、ニーナがもっと魔法を伸ばしたいと思うのなら、アロン様に教わるべきよ。アロン様は風魔法では、この王都で5本の指に入る使い手だから」

サリーさんとわたしは作業室で、ルーク様のお召しになるシャツやベッドシーツなどにアイロンを掛けていた。
サリーさんはその手を止めることなく、わたしの話を聞いている。

「でも、侯爵家の御子息様に教わるなんて、そんな……。また、玉の輿狙いなんて噂を立てられるのもいやです」
「それは大丈夫でしょう。子爵様ならともかく、侯爵家の御子息と平民は結婚なんてできないから」
「それはそうですけど……」

わたしはサリーさんがアイロンをかけたものを、綺麗にたたんで積み上げた。

「それに、ルーク様と噂が立つならともかく、アロン様なら大丈夫じゃない?」
「どうしてアロン様なら大丈夫なんですか?」
「アロン様は次男だもの。爵位はルーク様がお継ぎになられるから、アロン様は然るべき家に入婿なさるでしょう。入婿に愛人を持たせる心の広いご令嬢は滅多にいないわ。アロン様を誘惑しても、正妻になるのは難しいし、愛人になってもいい待遇は期待できないでしょう」

サリーさんの言うことは正しいだろう。

「そこいくと、ミラー様は子爵家とはいえご長男だから将来ご当主となることが決まっているじゃない。王女様が降嫁なさるデイヴィス侯爵家のルーク様から覚えめでたいし。それに子爵なら平民なら正妻を迎えることもあるし、愛人に収まっても悪い待遇にはならないでしょう。だから、使用人から人気のあるのはミラー様なのよ」

そういうもんなのか。
アロン様よりお兄様の方が人気なんて。
世の中がわからない。

だけど、妹の立場で言わせて貰えば、確かにうちのお兄様はイチオシだ。
カッコいいかと聞かれれば、妹であるわたしは微妙な答えしか言えないが、素敵なお兄様であることは間違いない。
お兄様は優しいから、結婚したら奥様は幸せだと思う。

考え事をしながらでも、単純作業はできるもので、2人で話しながらやっていたにも関わらず、あっという間に全ての洗濯物にアイロンをかけ終わった。

たたんだものを抱えて、2人で棚やクローゼットに仕舞い込む。

「サリーさん。わたし、アロン様に魔法を教わります。だから、もしまた何か噂が立ったりしたら教えてくださいね」

なんとなく、面倒だから流れに身を任せてみようと思った。
サリーさんもぴっちりとたたまれたシーツを抱えて返事をする。

「そうね。アロン様が気が済むまで、付き合っていただいたらいいわ」



その後は、ルーク様が帰ってくるのでお出迎えの準備をする。今日は定刻通りに、ルーク様は別館にお帰りになられるらしい。

定刻に集まれる使用人が玄関に集まり、ルーク様を迎える。
「おかえりなさいませ。ルーク様」
「ああ」

ルーク様は外套をわたしに手渡し、疲れた目でチロリと目線を向けた。

「すぐ夕食にしてくれ。部屋に持ってくるように」
「はい。かしこまりました」

わたしはルーク様がお部屋に入られるのを見送った後、急いで夕食の準備に取り掛かった。





コンコン。
「失礼します」

ゼンに急いで用意してもらったディナーをワゴンに乗せて、サリーさんと2人でルーク様の部屋へと入室する。

サリーさんはある程度テーブル周りを整えると、一度ルーク様に視線を向けて、浅くうなずきルーク様に一礼して部屋を出て行った。

給仕は、2人でやることもあれば、静かにしていたいルーク様のご希望で1人でやることもある。
今日はきっと、ルーク様は静かに過ごしたい日なのだろう。

わたしもテキパキと終わらせて、早く退散した方が良さそうだ。

食事が終わったあとのデザートをすぐにお出しできるようにして、紅茶のおかわりを先にお出しした。

お食事が終わったので、サッとデザートを出す。
今日は水菓子だ。いつも美味しそうだなあ。

それも食べ終わったので、空いたお皿をワゴンに乗せて、紅茶を飲み終わった後でテーブルクロスもお取り替えした。

ふう。
今日の仕事はこれで終わりだ。

「では、ルーク様。これで失礼いたします」
わたしも一礼して部屋を出ようとすると、ルーク様は笑顔でわたしを引き留める。

「ニーナ待て。今夜は晩酌をする。ブランデーを用意してくれないか」
「は……はい。かしこまりました」
わたしは焦って返事をした。

だって、ルーク様の笑顔は、また目だけが笑っていないあの笑顔だったんだもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...