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11章 光を探して
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あの後は、わたしは黙ってルーク様の支度をお手伝いし、ルーク様も黙って着替えをしてわたしが再度厨房に行って持ってきた朝食を食べて、出仕された。
お見送りをした後、ルーク様のお部屋を掃除してリネンなどもお洗濯に出してお昼休みになった。
わたしは昼食を取った後で、別館の庭の隅に来ている。
あれだけ言われたのだから、少しでも魔法の練習をしなければならないからだ。
魔法の練習をしているふりをするために、わたしは2、3回風魔法を使って、庭の木の葉を舞い上げた。
風魔法なら、普通レベルには使いこなせるから、これくらいなら余裕だ。
そして、舞い上がった木の葉が地面に落ちたのを見届けて、わたしも木の根元に腰を下ろした。
仕事をしている時は仕事に集中できたけど、手が空くと思い出す。
ルーク様の笑っていない微笑みを。
何か怒っていらっしゃるのだろうか。
やはり、オリバーお兄様にご迷惑をお掛けしていることを怒ってる?
わたしは昨日の夜と、今朝見たルーク様が少し怖かった。
あんなルーク様を見たのは、前世も含めて初めてだ。
だって、ルーク様はもっと素直に表現される方で、不機嫌な時はそれを隠さず顔に現れていた。
不機嫌、もしくは怒っているのに微笑むなんて、見たことがなかった。
「それが大人になったってことなのかしら……」
木陰から見える噴水をぼんやり眺める。
あそこで一緒に遊んだルーク様は、可愛かったな。
「大人になるって、なんなのかしら」
「おまえはバカか。子どもが生意気言うんじゃない」
ひとりでいたはずなのに、上から降ってきた声に、顔を上げると、そこにはルーク様にそっくりのアロン様がいた。
「アロン様、すみません。独り言です。失礼しました!」
わたしが急いで立ち上がるも、アロン様は手でそれを制す。
「いい。座れ。今日は謝りに来たのだ」
アロン様はわたしを座らせると、ご自分もわたしの隣に腰を下ろした。
「アロン様、あの、お洋服が汚れます。何か、敷くものを持って参ります」
「いい。座れと言ったことも理解できんのか」
「……申し訳ありません」
わたしはしゅんと、俯いてしまった。
アロン様はそれを見て、慌ててわたしの顔を覗き込む。
「いや、違う。オレが悪かった。子ども相手に大人気なかった。昨日のことも含めて、済まなかった」
「昨日のこと、ですか」
アロン様は木に寄りかかり、空を見上げる。
「兄上に叱られた。事実関係をしっかり確認しろと。だから、噂のもとを辿ってみた。そうしたら、ただ単におまえとミラー卿が親しくしているのを見て、嫉妬した本館のメイドが立てた噂だった。おまえが誘惑をしたところは見ていないと言っていた。まあ、ミラー卿はモテるから仕方のないことだが、そのメイドにはいい加減な噂を流さないように注意しておいた。オレも、兄上の管理責任能力を疑われるのではないかと焦って、おまえを処分しようとしてしまった。申し訳なかった」
アロン様はわたしに向かって頭を下げる。
「やっ、やめてください、アロン様。わたしなんかに頭を下げてはいけません」
「ここは誰も見ていない。身分によって区別されることもない。誰にも見られていないのならば、悪いことに対して頭を下げるのは当たり前のことだ」
「アロン様……」
頭を下げたアロン様は、低い姿勢のまま、上目遣いにわたしを見る。
「許して、もらえるだろうか……?」
うっ、ルーク様によく似た顔で、上目遣いなんてやめて欲しい。
これでは、何をされても許してしまいそうになる。
「……許すも何も、怒っていません」
「では、許すと言ってくれ」
「わかりました。許します」
わたしの言葉にアロン様はにっこりと笑った。
「そうか。ありがとう」
その笑顔を見てから、わたしは一番気になっていることをアロン様に尋ねた。
「あの、ミラー子爵御子息様は、そんなにモテるんですか?」
お見送りをした後、ルーク様のお部屋を掃除してリネンなどもお洗濯に出してお昼休みになった。
わたしは昼食を取った後で、別館の庭の隅に来ている。
あれだけ言われたのだから、少しでも魔法の練習をしなければならないからだ。
魔法の練習をしているふりをするために、わたしは2、3回風魔法を使って、庭の木の葉を舞い上げた。
風魔法なら、普通レベルには使いこなせるから、これくらいなら余裕だ。
そして、舞い上がった木の葉が地面に落ちたのを見届けて、わたしも木の根元に腰を下ろした。
仕事をしている時は仕事に集中できたけど、手が空くと思い出す。
ルーク様の笑っていない微笑みを。
何か怒っていらっしゃるのだろうか。
やはり、オリバーお兄様にご迷惑をお掛けしていることを怒ってる?
わたしは昨日の夜と、今朝見たルーク様が少し怖かった。
あんなルーク様を見たのは、前世も含めて初めてだ。
だって、ルーク様はもっと素直に表現される方で、不機嫌な時はそれを隠さず顔に現れていた。
不機嫌、もしくは怒っているのに微笑むなんて、見たことがなかった。
「それが大人になったってことなのかしら……」
木陰から見える噴水をぼんやり眺める。
あそこで一緒に遊んだルーク様は、可愛かったな。
「大人になるって、なんなのかしら」
「おまえはバカか。子どもが生意気言うんじゃない」
ひとりでいたはずなのに、上から降ってきた声に、顔を上げると、そこにはルーク様にそっくりのアロン様がいた。
「アロン様、すみません。独り言です。失礼しました!」
わたしが急いで立ち上がるも、アロン様は手でそれを制す。
「いい。座れ。今日は謝りに来たのだ」
アロン様はわたしを座らせると、ご自分もわたしの隣に腰を下ろした。
「アロン様、あの、お洋服が汚れます。何か、敷くものを持って参ります」
「いい。座れと言ったことも理解できんのか」
「……申し訳ありません」
わたしはしゅんと、俯いてしまった。
アロン様はそれを見て、慌ててわたしの顔を覗き込む。
「いや、違う。オレが悪かった。子ども相手に大人気なかった。昨日のことも含めて、済まなかった」
「昨日のこと、ですか」
アロン様は木に寄りかかり、空を見上げる。
「兄上に叱られた。事実関係をしっかり確認しろと。だから、噂のもとを辿ってみた。そうしたら、ただ単におまえとミラー卿が親しくしているのを見て、嫉妬した本館のメイドが立てた噂だった。おまえが誘惑をしたところは見ていないと言っていた。まあ、ミラー卿はモテるから仕方のないことだが、そのメイドにはいい加減な噂を流さないように注意しておいた。オレも、兄上の管理責任能力を疑われるのではないかと焦って、おまえを処分しようとしてしまった。申し訳なかった」
アロン様はわたしに向かって頭を下げる。
「やっ、やめてください、アロン様。わたしなんかに頭を下げてはいけません」
「ここは誰も見ていない。身分によって区別されることもない。誰にも見られていないのならば、悪いことに対して頭を下げるのは当たり前のことだ」
「アロン様……」
頭を下げたアロン様は、低い姿勢のまま、上目遣いにわたしを見る。
「許して、もらえるだろうか……?」
うっ、ルーク様によく似た顔で、上目遣いなんてやめて欲しい。
これでは、何をされても許してしまいそうになる。
「……許すも何も、怒っていません」
「では、許すと言ってくれ」
「わかりました。許します」
わたしの言葉にアロン様はにっこりと笑った。
「そうか。ありがとう」
その笑顔を見てから、わたしは一番気になっていることをアロン様に尋ねた。
「あの、ミラー子爵御子息様は、そんなにモテるんですか?」
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