もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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11章 光を探して

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わたしは慌てて自分の部屋に戻り、いつものお仕着せ戦闘服に着替えた。

厨房に行くと、ルーク様の夕食を準備していたサリーさんが目を丸くする。

「ニーナ、どうしたの? 今日お休みじゃなかったの?」
「お休みだったんですけど……」

主人から命令されたら、使用人の休みなんて吹っ飛ぶんです。

力なく苦笑いを浮かべると、サリーさんが用意してくれた夕食をワゴンに乗せて、ルーク様のお部屋へと向かった。

コンコン。

ノックをすると、ルーク様の声が中から響く。
「入れ」
「失礼いたします」

ワゴンを押してゆっくりとルーク様のお部屋に入った。

ゆったりとした白いシャツとベージュのトラウザーズに着替えたルーク様が、座っていた机から立ち上がり、テーブルについた。

わたしはゆっくりとルーク様に近付き、給餌を始める。
カトラリーを置いてから、前菜、スープを並べる。

いつルーク様からお兄様についての質問が飛んでくるのか、びくびくしながらルーク様の食事に合わせてお皿を並べて行く。
クロッシュ(銀色の丸い蓋)を開ける手が少し震える。

そんなわたしの状況を他所に、ルーク様は黙々と夕食を片付けて行った。

最後に、氷の入った入れ物からデザートの一口ムースをお出しして、ルーク様がそれを食べたらサッサと下げて部屋を出ようと決意する。
でも、ルーク様はムースに手をつけなかった。

不思議に思ってルーク様のお顔を見ると、ルーク様は手招きをした。

「こっちに来い」

ルーク様にそう言われてしまえば、わたしに拒否権はない。
「……はい」

大人しく、ルーク様の側へと足を進める。

ルーク様は椅子の向きを変えて、わたしの方へ体を向けた。

「……で、今日義兄上、ミラー子爵子息と会ってたというのは本当か?」

真っ直ぐにわたしを見るルーク様の視線に、嘘をつくことはできない。

「……はい」
「なんの用があったのだ?」
「あの、わたしが上手く魔法を使えないので、練習の場をお借りしていました。暴走を考えると、広いところでなくてはできないので」

本当のことなので、嘘をついているようには見えないだろう。

「うちでやればいいじゃないか」
「侯爵家のお庭を荒らすなんてできません! ミラー子爵御子息は、ミラー家の庭なら大丈夫だからと、お庭の隅を貸してくださったのです」

ルーク様はじっとわたしの目を見る。

「ミラー子爵子息、オリバー殿とはいつ仲良くなったのだ?」
「ミラー子爵御子息様は、ルーク様がデイヴィス侯爵家へお連れになった時に、ご挨拶をさせていただきました。それで、お声をかけていただくようになったのです」

ルーク様は軽くため息を吐くと、わたしを手招きした。
わたしは恐る恐るルーク様に近付くと
ルーク様はスプーンでムースをすくい、わたしの口元へと持ってきた。
わたしは、うっかり口を開けてしまう。

ぱくり。
もぐもぐ。

はっ、ルーク様のお食事を奪ってしまった!!

「ル、ルーク様??」
「ぷっ、くくくくく」

ルーク様は何故か吹き出していた。

「おまえ、オレがスプーン差し出したからって、なんの疑いもなく口を開けたらダメだろう」
「でも、だって、ルーク様が!」

わたしは顔を真っ赤にして、でも、だってと言い訳を続けた。
ルーク様が悪いと思うのよ!

「オリバー殿とはオレが話をしておく。もうオリバー殿には近付くな」
「そんなっ!」
「練習ならうちの庭を貸してやるし、ニーナは風魔法はそこそこ使えるだろう。洗濯物を乾かしているのを見かけたぞ」
「それは……そうですけど……」

だけど、練習したいのは風魔法ではないんです。

でも、わたしは頷くことしかできなかった。
「はい。かしこまりました……」

わたしが返事をしたのを見ると、ルーク様は満足そうに笑みを浮かべた。
今度は、ちゃんと瞳も笑っている笑みだ。

こうして、わたしは唯一の練習場所を失った。
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