105 / 255
11章 光を探して
3
しおりを挟む
わたしは慌てて自分の部屋に戻り、いつものお仕着せに着替えた。
厨房に行くと、ルーク様の夕食を準備していたサリーさんが目を丸くする。
「ニーナ、どうしたの? 今日お休みじゃなかったの?」
「お休みだったんですけど……」
主人から命令されたら、使用人の休みなんて吹っ飛ぶんです。
力なく苦笑いを浮かべると、サリーさんが用意してくれた夕食をワゴンに乗せて、ルーク様のお部屋へと向かった。
コンコン。
ノックをすると、ルーク様の声が中から響く。
「入れ」
「失礼いたします」
ワゴンを押してゆっくりとルーク様のお部屋に入った。
ゆったりとした白いシャツとベージュのトラウザーズに着替えたルーク様が、座っていた机から立ち上がり、テーブルについた。
わたしはゆっくりとルーク様に近付き、給餌を始める。
カトラリーを置いてから、前菜、スープを並べる。
いつルーク様からお兄様についての質問が飛んでくるのか、びくびくしながらルーク様の食事に合わせてお皿を並べて行く。
クロッシュ(銀色の丸い蓋)を開ける手が少し震える。
そんなわたしの状況を他所に、ルーク様は黙々と夕食を片付けて行った。
最後に、氷の入った入れ物からデザートの一口ムースをお出しして、ルーク様がそれを食べたらサッサと下げて部屋を出ようと決意する。
でも、ルーク様はムースに手をつけなかった。
不思議に思ってルーク様のお顔を見ると、ルーク様は手招きをした。
「こっちに来い」
ルーク様にそう言われてしまえば、わたしに拒否権はない。
「……はい」
大人しく、ルーク様の側へと足を進める。
ルーク様は椅子の向きを変えて、わたしの方へ体を向けた。
「……で、今日義兄上、ミラー子爵子息と会ってたというのは本当か?」
真っ直ぐにわたしを見るルーク様の視線に、嘘をつくことはできない。
「……はい」
「なんの用があったのだ?」
「あの、わたしが上手く魔法を使えないので、練習の場をお借りしていました。暴走を考えると、広いところでなくてはできないので」
本当のことなので、嘘をついているようには見えないだろう。
「うちでやればいいじゃないか」
「侯爵家のお庭を荒らすなんてできません! ミラー子爵御子息は、ミラー家の庭なら大丈夫だからと、お庭の隅を貸してくださったのです」
ルーク様はじっとわたしの目を見る。
「ミラー子爵子息、オリバー殿とはいつ仲良くなったのだ?」
「ミラー子爵御子息様は、ルーク様がデイヴィス侯爵家へお連れになった時に、ご挨拶をさせていただきました。それで、お声をかけていただくようになったのです」
ルーク様は軽くため息を吐くと、わたしを手招きした。
わたしは恐る恐るルーク様に近付くと
ルーク様はスプーンでムースをすくい、わたしの口元へと持ってきた。
わたしは、うっかり口を開けてしまう。
ぱくり。
もぐもぐ。
はっ、ルーク様のお食事を奪ってしまった!!
「ル、ルーク様??」
「ぷっ、くくくくく」
ルーク様は何故か吹き出していた。
「おまえ、オレがスプーン差し出したからって、なんの疑いもなく口を開けたらダメだろう」
「でも、だって、ルーク様が!」
わたしは顔を真っ赤にして、でも、だってと言い訳を続けた。
ルーク様が悪いと思うのよ!
「オリバー殿とはオレが話をしておく。もうオリバー殿には近付くな」
「そんなっ!」
「練習ならうちの庭を貸してやるし、ニーナは風魔法はそこそこ使えるだろう。洗濯物を乾かしているのを見かけたぞ」
「それは……そうですけど……」
だけど、練習したいのは風魔法ではないんです。
でも、わたしは頷くことしかできなかった。
「はい。かしこまりました……」
わたしが返事をしたのを見ると、ルーク様は満足そうに笑みを浮かべた。
今度は、ちゃんと瞳も笑っている笑みだ。
こうして、わたしは唯一の練習場所を失った。
厨房に行くと、ルーク様の夕食を準備していたサリーさんが目を丸くする。
「ニーナ、どうしたの? 今日お休みじゃなかったの?」
「お休みだったんですけど……」
主人から命令されたら、使用人の休みなんて吹っ飛ぶんです。
力なく苦笑いを浮かべると、サリーさんが用意してくれた夕食をワゴンに乗せて、ルーク様のお部屋へと向かった。
コンコン。
ノックをすると、ルーク様の声が中から響く。
「入れ」
「失礼いたします」
ワゴンを押してゆっくりとルーク様のお部屋に入った。
ゆったりとした白いシャツとベージュのトラウザーズに着替えたルーク様が、座っていた机から立ち上がり、テーブルについた。
わたしはゆっくりとルーク様に近付き、給餌を始める。
カトラリーを置いてから、前菜、スープを並べる。
いつルーク様からお兄様についての質問が飛んでくるのか、びくびくしながらルーク様の食事に合わせてお皿を並べて行く。
クロッシュ(銀色の丸い蓋)を開ける手が少し震える。
そんなわたしの状況を他所に、ルーク様は黙々と夕食を片付けて行った。
最後に、氷の入った入れ物からデザートの一口ムースをお出しして、ルーク様がそれを食べたらサッサと下げて部屋を出ようと決意する。
でも、ルーク様はムースに手をつけなかった。
不思議に思ってルーク様のお顔を見ると、ルーク様は手招きをした。
「こっちに来い」
ルーク様にそう言われてしまえば、わたしに拒否権はない。
「……はい」
大人しく、ルーク様の側へと足を進める。
ルーク様は椅子の向きを変えて、わたしの方へ体を向けた。
「……で、今日義兄上、ミラー子爵子息と会ってたというのは本当か?」
真っ直ぐにわたしを見るルーク様の視線に、嘘をつくことはできない。
「……はい」
「なんの用があったのだ?」
「あの、わたしが上手く魔法を使えないので、練習の場をお借りしていました。暴走を考えると、広いところでなくてはできないので」
本当のことなので、嘘をついているようには見えないだろう。
「うちでやればいいじゃないか」
「侯爵家のお庭を荒らすなんてできません! ミラー子爵御子息は、ミラー家の庭なら大丈夫だからと、お庭の隅を貸してくださったのです」
ルーク様はじっとわたしの目を見る。
「ミラー子爵子息、オリバー殿とはいつ仲良くなったのだ?」
「ミラー子爵御子息様は、ルーク様がデイヴィス侯爵家へお連れになった時に、ご挨拶をさせていただきました。それで、お声をかけていただくようになったのです」
ルーク様は軽くため息を吐くと、わたしを手招きした。
わたしは恐る恐るルーク様に近付くと
ルーク様はスプーンでムースをすくい、わたしの口元へと持ってきた。
わたしは、うっかり口を開けてしまう。
ぱくり。
もぐもぐ。
はっ、ルーク様のお食事を奪ってしまった!!
「ル、ルーク様??」
「ぷっ、くくくくく」
ルーク様は何故か吹き出していた。
「おまえ、オレがスプーン差し出したからって、なんの疑いもなく口を開けたらダメだろう」
「でも、だって、ルーク様が!」
わたしは顔を真っ赤にして、でも、だってと言い訳を続けた。
ルーク様が悪いと思うのよ!
「オリバー殿とはオレが話をしておく。もうオリバー殿には近付くな」
「そんなっ!」
「練習ならうちの庭を貸してやるし、ニーナは風魔法はそこそこ使えるだろう。洗濯物を乾かしているのを見かけたぞ」
「それは……そうですけど……」
だけど、練習したいのは風魔法ではないんです。
でも、わたしは頷くことしかできなかった。
「はい。かしこまりました……」
わたしが返事をしたのを見ると、ルーク様は満足そうに笑みを浮かべた。
今度は、ちゃんと瞳も笑っている笑みだ。
こうして、わたしは唯一の練習場所を失った。
4
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

転生したら災難にあいましたが前世で好きだった人と再会~おまけに凄い力がありそうです
はなまる
恋愛
現代世界で天鬼組のヤクザの娘の聖龍杏奈はある日父が連れて来たロッキーという男を好きになる。だがロッキーは異世界から来た男だった。そんな時ヤクザの抗争に巻き込まれて父とロッキーが亡くなる。杏奈は天鬼組を解散して保育園で働くが保育園で事件に巻き込まれ死んでしまう。
そしていきなり異世界に転性する。
ルヴィアナ・ド・クーベリーシェという女性の身体に入ってしまった杏奈はもうこの世界で生きていくしかないと心を決める。だがルヴィアナは嫉妬深く酷い女性で婚約者から嫌われていた。何とか関係を修復させたいと努力するが婚約者に好きな人が出来てあえなく婚約解消。そしてラノベで読んだ修道院に行くことに。けれどいつの間にか違う人が婚約者になって結婚話が進んで行く。でもその人はロッキーにどことなく似ていて気になっていた人で…
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる