もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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11章 光を探して

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「もちろんでございます。アロン様。」
わたしはアロン様に腰を折った。

アロン様はルーク様の歳の離れた弟だ。
デイヴィス夫妻はどう扱っていいかわからない長男を別館で育て、弟は自らの手元に置いてお育てになった。
どう扱っていいかわからない長男の婚約者であるわたしは、デイヴィス夫妻とも弟のアロン様ともあまり会うことはなく、アロン様のお顔さえあまり知らなかった。

それは、生まれ変わってルーク様の侍女になっても変わらない。

「よい。顔を上げよ」

アロン様から許しを得て顔を上げる。
確か、アロン様は今年19歳になったはず。ルーク様と比べて少し幼く見える。
精悍なお顔はルーク様とそっくりだが、ルーク様の方が背が高い。
髪色や瞳の色も、ルーク様は金糸の髪に深い緑の瞳をお持ちだが、アロン様は髪こそルーク様と同じ金髪だが、瞳の色はブラウンだ。
きっと、デイヴィス侯爵様に似たのだろう。

「そなたが兄上の侍女ニーナで間違いないな」
「はい。左様でございます」

アロン様はツカツカとわたしの目の前までやってきた。

「兄上の管理下にある侍女でありながら、ミラー子爵家嫡男と恋仲になるとは何事だ!」

……?

「へ……?」
「噂になっているから確かめようとやってくれば、噂は本当だったということか!?」
「なんのことでしょうか……」

訳がわからず首を傾げると、アロン様は不機嫌そうに腕を組んでわたしを睨む。

「本館の方でメイド達が言っていた。兄上の部下であるミラー子爵嫡男をたらし込んでいるメイドが別館にいると。子爵といえど、立派な貴族だ。平民のメイドの身分では普通望めないような縁談だ。デイヴィス家で雇ったメイドがそのような下品な真似をするなどと、黙って見過ごすことはできん! メイド長に話して即刻処罰してくれる」
「そ、そんな……」

まったくの誤解なのに、アロン様にそんなことを言われるなんて。

「違うんです。わたし、ミラー子爵の御子息とは、ほんとに何もないんです」
「今、ミラー子爵家の馬車から降りてきたのが何よりの証拠だろうが」
「そんな! それだけで!?」

不毛な言い争いをしていると、カタリと裏口が開く音がした。

「アロン、うちのメイドが何かしたか?」

「兄上!」
「ルーク様!」

もうお帰りになったんだ。
ああ、早くお夕食の支度を……って、わたし今日休みだった。

まだ討伐隊の隊服に身を包んだままのルーク様は、わたしの前に庇うように立つ。

「アロン、別館こんなところになんの用があってやってきた?」

わたしからはルーク様の背中しか見えないけど、とても怒っているのがわかる。

アロン様は半歩身を引く。
「オ、オレは本館で立っている噂を確かめに」
「余計な世話だ。別館のことはオレが責任を持つ」
「兄上の名誉にかかわることです! 兄上の管理下にあるものが、玉の輿を狙っているなどと!」
「うるさい」

ルーク様の声が冷たく響く。

その声に、アロン様の体が固く震えた。

「オレが責任を持つと言っている。さっさと本館に戻れ」
「ですが!」

なおも言いつのるアロン様に、ルーク様がにじり寄る。
「聞こえなかったか?」
「!!」

アロン様は顔色を青くして、踵を返しその場を去っていった。


ふぅ~。
クビは免れたのだろうか……。

思い切り息を吐くわたしを、ルーク様が振り返った。

「……で? ニーナ。ゆっくり訳を聞かせてもらおうか?」
「ひっ!」

ルーク様は、とてもとても麗しい笑顔を浮かべていた。
でも、その笑顔には青筋が立っていて、怒っているのがわかる、とてもオソロシイ笑顔だった。

「着替えをしたら、夕食を取る。今日夕飯を持ってくるのはニーナに頼もう」
「で、ですが、わたしは今日はお休みで」
「ニーナに頼みたい」

笑っていない瞳の笑顔をわたしに向けるルーク様。

「……は、はい。かしこまりました」

わたしはそう返事をするしかなかった。
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