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11章 光を探して
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「愛しきもののために、祝福を」
わたしが空に向かって両手を伸ばすと、そこからひゅーっと風が吹いた。
「何度やっても光じゃなくて風魔法が出るな」
それを見ていたオリバーお兄様が言う。
ここはミラー子爵家の庭。
最近、お兄様はわたしの休みに合わせてお休みを取ってくれていて、可能な限りミラー子爵家の庭を貸してくれる。
わたしと向かい合って剣を捧げ、祝福の練習に付き合ってくれるのだ。
ちなみに、あれから数回お庭を借りて魔法の練習をしているが、まだ暴走させたことはないので庭は無事だ。
……暴走はさせていないけど、ちょっとだけ突風が吹いたことがあるので、部分的にハゲてしまった木があるけど、ご愛敬。
「お兄様、ローゼリア様が剣を祝福する時ってどんな感じなんですか?」
「詠唱は教えた通り、今おまえが言ったものと変わらない。他の術者は剣にキスを贈ることもあるが、あの女は絶対にルーク様の剣にキスを贈ったりはしない」
腕を組んで無表情でそう言うお兄様は、本当にローゼリア様が嫌いなんだろう。
「お兄様……王女様を“あの女“だなんて。不敬で捕らえられても知りませんよ」
「ふん」
お兄様は改める気はないようだ。
わたしが呆れてお兄様を見ていると、お母様が白いパラソルを片手にこちらに歩いてきた。
「ふたりとも、お茶が入りましたよ。そろそろ休憩してはどうですか」
わたし達ふたりは同時に振り返り返事をする。
「「はーい」」
それを見たお母様は、目を丸くしていた。
「……14年前に返ったみたい。でも、オリバーは歳を取ったわね」
「母上!」
「ほほほ。ごめんなさい」
お母様はくるりと後ろを向いて、屋敷の方へ歩き出した。
それを見たお兄様が目を細めてつぶやく。
「母上、おまえが亡くなった後、めっきり元気がなくなってな。急に老けたような気がしてたんだが、最近はその分を取り返すように若くなったな。ニーナが遊びに来てくれるおかげだ」
わたしのおかげなんて、そんなことない。
だって、お母様が老けたのはわたしのせいなんだから。
「……お兄様。わたしは遊びに来ているのではなく、光の修行に来ておりますわ」
暗くなりそうな空気を払い除けるため、わたしはわざと憎まれ口をたたく。
それがわかっているお兄様は、ふんっと鼻で笑って祝福練習用の剣をしまった。
ミラー子爵家でお母様が用意してくださったお茶をいただいて、そのあとも少し練習したけれど成果は見られず、今日は帰ることとなった。
お兄様がミラー子爵家の馬車でデイヴィス侯爵家まで送ってくれる。
本館の横を通り、ルーク様のお住まいである別館の近くまで馬車を乗り入れた。
馬車が止まると、お兄様は手を差し伸べてわたしを馬車から降ろしてくれる。
「ニーナ、次の休みはどうしても合わせることができなかったから、練習はまたその次になる」
「わかりましたわ、お兄様。では、次に練習できるときまで、また何か役立つ文献がないか探してみます」
お兄様は笑顔でわたしの頭をひと撫でして、また馬車に乗り込み帰って行った。
門の向こうに馬車が消えるまで見送ったあと、わたしも別館の中に入ろうとしたとき、入り口の人影に気付く。
わたしが顔を上げると、そこには背の低いルーク様がいた。
ん?
ルーク様、じゃない……。
「……アロン様……?」
わたしがそう口にすると、背の低いルーク様は不機嫌そうに応えた。
「ほう。オレのことを知っているのか」
ルーク様にそっくりなその方は、ルーク様の弟君だった。
*****************
長らく間があいてしまい、大変申し訳ありませんでした。
いろいろなことがあり、お話が一切書けない状態になっていました。
ゆっくりお休みをして、またもう一度、お話を書き始めることができました。
もし、よろしければ、またお読みいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
わたしが空に向かって両手を伸ばすと、そこからひゅーっと風が吹いた。
「何度やっても光じゃなくて風魔法が出るな」
それを見ていたオリバーお兄様が言う。
ここはミラー子爵家の庭。
最近、お兄様はわたしの休みに合わせてお休みを取ってくれていて、可能な限りミラー子爵家の庭を貸してくれる。
わたしと向かい合って剣を捧げ、祝福の練習に付き合ってくれるのだ。
ちなみに、あれから数回お庭を借りて魔法の練習をしているが、まだ暴走させたことはないので庭は無事だ。
……暴走はさせていないけど、ちょっとだけ突風が吹いたことがあるので、部分的にハゲてしまった木があるけど、ご愛敬。
「お兄様、ローゼリア様が剣を祝福する時ってどんな感じなんですか?」
「詠唱は教えた通り、今おまえが言ったものと変わらない。他の術者は剣にキスを贈ることもあるが、あの女は絶対にルーク様の剣にキスを贈ったりはしない」
腕を組んで無表情でそう言うお兄様は、本当にローゼリア様が嫌いなんだろう。
「お兄様……王女様を“あの女“だなんて。不敬で捕らえられても知りませんよ」
「ふん」
お兄様は改める気はないようだ。
わたしが呆れてお兄様を見ていると、お母様が白いパラソルを片手にこちらに歩いてきた。
「ふたりとも、お茶が入りましたよ。そろそろ休憩してはどうですか」
わたし達ふたりは同時に振り返り返事をする。
「「はーい」」
それを見たお母様は、目を丸くしていた。
「……14年前に返ったみたい。でも、オリバーは歳を取ったわね」
「母上!」
「ほほほ。ごめんなさい」
お母様はくるりと後ろを向いて、屋敷の方へ歩き出した。
それを見たお兄様が目を細めてつぶやく。
「母上、おまえが亡くなった後、めっきり元気がなくなってな。急に老けたような気がしてたんだが、最近はその分を取り返すように若くなったな。ニーナが遊びに来てくれるおかげだ」
わたしのおかげなんて、そんなことない。
だって、お母様が老けたのはわたしのせいなんだから。
「……お兄様。わたしは遊びに来ているのではなく、光の修行に来ておりますわ」
暗くなりそうな空気を払い除けるため、わたしはわざと憎まれ口をたたく。
それがわかっているお兄様は、ふんっと鼻で笑って祝福練習用の剣をしまった。
ミラー子爵家でお母様が用意してくださったお茶をいただいて、そのあとも少し練習したけれど成果は見られず、今日は帰ることとなった。
お兄様がミラー子爵家の馬車でデイヴィス侯爵家まで送ってくれる。
本館の横を通り、ルーク様のお住まいである別館の近くまで馬車を乗り入れた。
馬車が止まると、お兄様は手を差し伸べてわたしを馬車から降ろしてくれる。
「ニーナ、次の休みはどうしても合わせることができなかったから、練習はまたその次になる」
「わかりましたわ、お兄様。では、次に練習できるときまで、また何か役立つ文献がないか探してみます」
お兄様は笑顔でわたしの頭をひと撫でして、また馬車に乗り込み帰って行った。
門の向こうに馬車が消えるまで見送ったあと、わたしも別館の中に入ろうとしたとき、入り口の人影に気付く。
わたしが顔を上げると、そこには背の低いルーク様がいた。
ん?
ルーク様、じゃない……。
「……アロン様……?」
わたしがそう口にすると、背の低いルーク様は不機嫌そうに応えた。
「ほう。オレのことを知っているのか」
ルーク様にそっくりなその方は、ルーク様の弟君だった。
*****************
長らく間があいてしまい、大変申し訳ありませんでした。
いろいろなことがあり、お話が一切書けない状態になっていました。
ゆっくりお休みをして、またもう一度、お話を書き始めることができました。
もし、よろしければ、またお読みいただけたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。
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