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10章 影
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懐かしいお兄様に甘えさせてもらい、お兄様はいつかしてくれたように、わたしの頭を撫でてくれた。
「大きくなって……と、言いたいとこだが、大きさはあんまり変わらないな。前の姿も12歳だった」
「お兄様、わたしは13歳になりましたから、前よりは一つ大きくなっているはずですよ」
「そうか」
お兄様の目からも温かい涙が溢れていたけど、わたしの目からもポロポロと涙が溢れた。
お兄様がそっとハンカチで拭ってくれた後、わたしはお兄様の隣に腰を下ろす。
「よく、また生まれてきてくれたな。しかも、こんな近くに」
「はい。本当は神様に遠くにやられそうだったんですけど、知らん顔してこっちにきちゃったんです」
「はは。運命に逆らったって、やつか。ジーナらしいな」
それから、わたしはここに来るまでのことを話した。
生まれ変わった時には、ジーナとしての記憶は朧げだったこと。
今世と前世に記憶の混濁があり、前世を小出しに思い出しつつも、前世の記憶を納得して辿れたのは、つい最近の話であること。
「ルーク様もお兄様も、大人になっていらっしゃって、びっくりしました!」
「ま、そりゃそーだよな。ジーナが天に隠れてから、13年。もうすぐ14年になる。ルーク様は26歳だし、オレに至っては30歳だからな。もう大人と言うより、オジサンだな」
「お兄様はご結婚は?」
街で会った時には、子爵を継がないかも、なんて話もしたけど、やっぱり嫡男だし、30歳だし、結婚していても不思議じゃないのに、この家にお兄様の伴侶の気配が感じられない。
「独身だよ。情けないけどな」
「お兄様、婚約者の方は……」
「あれは子どもの時に破談になった。というか、口約束だけで実際には結ばれていなかったものだし、相手のご令嬢とケンカしてそれっきりさ」
そうは言っても貴族なんだし、子爵家の嫡男がこの歳まで縁談がないというのもおかしな話じゃない?
でも、お兄様のお顔が、これ以上わたしに聞いて欲しくないと言っている気がしたので、この件については、もう何も言わなかった。
「それより、ちゃんと光の術者とルーク様の関係をより良くしないと、この国の未来がないぞ。オレの結婚はそれからだな。ジーナ、期待してるぞ」
お兄様はおどけて言う。
パラパラと教本をめくって、何かいい案は浮かんだかと、わたしに期待の目を向ける。
「いや、あの、その。見せていただいたのに申し訳ないけど、無理です。教本読んだだけじゃよくわかりませんでした」
「で、結局、ニーナは光の術者なのか?教会で、測定受けてるだろ? なんで登録されていないんだ?」
お兄様が疑問を口にする。
説明するより、見てもらった方が早いと、わたしは風魔法を使って、窓際のカーテンを揺らした。
「お兄様、前にも言いましたけど、わたしの属性は風です」
お兄様は眼を見開く。
「え、本当に風だったのか……。ははっ、そうだよな。そんなに都合よくいかないか。ニーナが光魔法を持ってる訳ないか……」
お兄様はかなり期待していたんだろう。
がっくりと肩を落とす。
「でもね、お兄様。見てて」
わたしへお兄様の手を取ると、訓練でかすり傷が残るそこをすーっと撫でる。
すると、そこにあったかすり傷が、跡形もなく消えていった。
「は? え、ジーナ、おまえ……。いや、有り得ない。今までそんなの見たことがない」
「でも、お兄様。現にわたしは使えるんです。だから、わたしの持つ魔法は二属性です」
「大きくなって……と、言いたいとこだが、大きさはあんまり変わらないな。前の姿も12歳だった」
「お兄様、わたしは13歳になりましたから、前よりは一つ大きくなっているはずですよ」
「そうか」
お兄様の目からも温かい涙が溢れていたけど、わたしの目からもポロポロと涙が溢れた。
お兄様がそっとハンカチで拭ってくれた後、わたしはお兄様の隣に腰を下ろす。
「よく、また生まれてきてくれたな。しかも、こんな近くに」
「はい。本当は神様に遠くにやられそうだったんですけど、知らん顔してこっちにきちゃったんです」
「はは。運命に逆らったって、やつか。ジーナらしいな」
それから、わたしはここに来るまでのことを話した。
生まれ変わった時には、ジーナとしての記憶は朧げだったこと。
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「ルーク様もお兄様も、大人になっていらっしゃって、びっくりしました!」
「ま、そりゃそーだよな。ジーナが天に隠れてから、13年。もうすぐ14年になる。ルーク様は26歳だし、オレに至っては30歳だからな。もう大人と言うより、オジサンだな」
「お兄様はご結婚は?」
街で会った時には、子爵を継がないかも、なんて話もしたけど、やっぱり嫡男だし、30歳だし、結婚していても不思議じゃないのに、この家にお兄様の伴侶の気配が感じられない。
「独身だよ。情けないけどな」
「お兄様、婚約者の方は……」
「あれは子どもの時に破談になった。というか、口約束だけで実際には結ばれていなかったものだし、相手のご令嬢とケンカしてそれっきりさ」
そうは言っても貴族なんだし、子爵家の嫡男がこの歳まで縁談がないというのもおかしな話じゃない?
でも、お兄様のお顔が、これ以上わたしに聞いて欲しくないと言っている気がしたので、この件については、もう何も言わなかった。
「それより、ちゃんと光の術者とルーク様の関係をより良くしないと、この国の未来がないぞ。オレの結婚はそれからだな。ジーナ、期待してるぞ」
お兄様はおどけて言う。
パラパラと教本をめくって、何かいい案は浮かんだかと、わたしに期待の目を向ける。
「いや、あの、その。見せていただいたのに申し訳ないけど、無理です。教本読んだだけじゃよくわかりませんでした」
「で、結局、ニーナは光の術者なのか?教会で、測定受けてるだろ? なんで登録されていないんだ?」
お兄様が疑問を口にする。
説明するより、見てもらった方が早いと、わたしは風魔法を使って、窓際のカーテンを揺らした。
「お兄様、前にも言いましたけど、わたしの属性は風です」
お兄様は眼を見開く。
「え、本当に風だったのか……。ははっ、そうだよな。そんなに都合よくいかないか。ニーナが光魔法を持ってる訳ないか……」
お兄様はかなり期待していたんだろう。
がっくりと肩を落とす。
「でもね、お兄様。見てて」
わたしへお兄様の手を取ると、訓練でかすり傷が残るそこをすーっと撫でる。
すると、そこにあったかすり傷が、跡形もなく消えていった。
「は? え、ジーナ、おまえ……。いや、有り得ない。今までそんなの見たことがない」
「でも、お兄様。現にわたしは使えるんです。だから、わたしの持つ魔法は二属性です」
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