もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
99 / 255
10章 影

8

しおりを挟む
懐かしいお兄様に甘えさせてもらい、お兄様はいつかしてくれたように、わたしの頭を撫でてくれた。

「大きくなって……と、言いたいとこだが、大きさはあんまり変わらないな。前の姿も12歳だった」
「お兄様、わたしは13歳になりましたから、前よりは一つ大きくなっているはずですよ」
「そうか」

お兄様の目からも温かい涙が溢れていたけど、わたしの目からもポロポロと涙が溢れた。

お兄様がそっとハンカチで拭ってくれた後、わたしはお兄様の隣に腰を下ろす。

「よく、また生まれてきてくれたな。しかも、こんな近くに」
「はい。本当は神様に遠くにやられそうだったんですけど、知らん顔してこっちにきちゃったんです」
「はは。運命に逆らったって、やつか。ジーナらしいな」


それから、わたしはここに来るまでのことを話した。
生まれ変わった時には、ジーナとしての記憶は朧げだったこと。
今世と前世に記憶の混濁があり、前世を小出しに思い出しつつも、前世の記憶を納得して辿たどれたのは、つい最近の話であること。

「ルーク様もお兄様も、大人になっていらっしゃって、びっくりしました!」
「ま、そりゃそーだよな。ジーナが天に隠れてから、13年。もうすぐ14年になる。ルーク様は26歳だし、オレに至っては30歳だからな。もう大人と言うより、オジサンだな」
「お兄様はご結婚は?」

街で会った時には、子爵を継がないかも、なんて話もしたけど、やっぱり嫡男だし、30歳だし、結婚していても不思議じゃないのに、この家にお兄様の伴侶の気配が感じられない。

「独身だよ。情けないけどな」
「お兄様、婚約者の方は……」
「あれは子どもの時に破談になった。というか、口約束だけで実際には結ばれていなかったものだし、相手のご令嬢とケンカしてそれっきりさ」

そうは言っても貴族なんだし、子爵家の嫡男がこの歳まで縁談がないというのもおかしな話じゃない?
でも、お兄様のお顔が、これ以上わたしに聞いて欲しくないと言っている気がしたので、この件については、もう何も言わなかった。

「それより、ちゃんと光の術者とルーク様の関係をより良くしないと、この国の未来がないぞ。オレの結婚はそれからだな。ジーナ、期待してるぞ」
お兄様はおどけて言う。

パラパラと教本をめくって、何かいい案は浮かんだかと、わたしに期待の目を向ける。

「いや、あの、その。見せていただいたのに申し訳ないけど、無理です。教本読んだだけじゃよくわかりませんでした」
「で、結局、ニーナは光の術者なのか?教会で、測定受けてるだろ? なんで登録されていないんだ?」

お兄様が疑問を口にする。
説明するより、見てもらった方が早いと、わたしは風魔法を使って、窓際のカーテンを揺らした。

「お兄様、前にも言いましたけど、わたしの属性は風です」
お兄様は眼を見開く。

「え、本当に風だったのか……。ははっ、そうだよな。そんなに都合よくいかないか。ニーナが光魔法を持ってる訳ないか……」
お兄様はかなり期待していたんだろう。
がっくりと肩を落とす。

「でもね、お兄様。見てて」
わたしへお兄様の手を取ると、訓練でかすり傷が残るそこをすーっと撫でる。

すると、そこにあったかすり傷が、跡形もなく消えていった。

「は? え、ジーナ、おまえ……。いや、有り得ない。今までそんなの見たことがない」

「でも、お兄様。現にわたしは使えるんです。だから、わたしの持つ魔法は二属性です」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...