98 / 255
10章 影
7
しおりを挟む
「なっ、」
なんでそれをーー!
と、言ってしまったら、もう取り返しがつかなくなる。
ぐっと、言葉を飲み込んだ。
「何をおっしゃっているのかわかりません。ジーナ、様はオリバー様の妹様ですよね?」
わたしがそう言うと、お兄様はため息をついた。
「あのなぁ、とぼけるんなら、もっと上手くやらなきゃダメだぞ。端々にジーナが滲み出ている。ジーナのことを知っている者なら、誰もが存在に引っ掛かりを覚えるほどだ」
えっ、そんなに滲み出てた?
いいえ。これは誘導尋問よ。
だって、その証拠にルーク様は何もおっしゃらないもの。
「あ、ルーク様が何も言わないっていうのはまた別問題だからな。ルーク様の場合は、思うところがあっても、気持ち的に否定したいからだろうよ。生涯ジーナただ一人と誓いを立てた身の上で、万が一ニーナがジーナでなければジーナに合わせる顔がないと思っているだろうからな」
ニーナがジーナでなければ?
「それは、どういう意味でしょうか……」
「中身がジーナなら、ルーク様が惹かれない訳がないんだ。で、ニーナのことが気になっていても、ジーナでないから惹かれてはいけないと思い込んでいるだろう。ジーナでない者に、ルーク様は決して惹かれようとしない。だから、ルーク様は事実から眼を逸らしているんだ」
わたしは、次の言葉が思い浮かばず、黙り込んでしまった。
そんなわたしを愛しげに見て、お兄様は丁寧に言葉を紡ぐ。
「馬車に乗る時、無意識にすぐ掴まれる場所を探す。これはジーナが5歳の時に、馬車に乗ろうとして馬車から落ち、大怪我をしたことがあるからだ。ミラー家のダイニングに案内した時、ジーナの定位置だった場所に、すぐに向かって座った。客であるならば、真ん中か一番端に腰掛けるだろう。だが、おまえは入り口近くの端から二番目の席になんの迷いもなく座った。それから、この部屋に入った時、入り口からは死角になっている本棚に真っ直ぐに近付いて行った。まだまだあるぞ」
わたしってば、懐かしいジーナの時の我が家に来て、気が緩んでしまったらしい。
そんなに、わかりやすかったなんて。
「極め付けはエマへのお祝いだ」
わたしは首を傾げた。
「お祝いはルーク様が選んでお贈りになった物です。何も不思議なことはないはずですが……」
「バカジーナ。おくるみに薄紫を選んだだろう? エマが好きな色と知ってたからだろうが。それに、ハンカチ」
「おくるみとハンカチは抱き合わせ販売品です」
「そうだとしても、名前を刺繍なんて洒落た真似、ルーク様には無理だ。しかも、エマのファミリーネームは刺繍されていなかった。ジーナはどこにエマが嫁いだか知らなかっただろうからな」
そうだ。
お兄様の言う通り、お姉様がどこに嫁いだか知らなかった。
配送先の名前で確認しようとしたら、ルーク様は荷物をデイヴィス家への配送にして、フランクさんに言って荷物を送ってしまった。
だから、わたしはお姉様がどこに嫁いだか、知る方法がなかったんだ。
「……お姉様は、どちらに嫁がれたのですか?」
わたしがポツリと呟くようにお兄様に訊ねると、お兄様は泣き笑いを浮かべて、両手を広げながらわたしに教えてくれた。
「ターナー伯爵家だよ」
「お兄様!」
わたしは、お兄様の腕の中に飛び込んだ。
お兄様はわたしをきゅっと強く抱きしめ、呟く。
「おかえり。ジーナ」
なんでそれをーー!
と、言ってしまったら、もう取り返しがつかなくなる。
ぐっと、言葉を飲み込んだ。
「何をおっしゃっているのかわかりません。ジーナ、様はオリバー様の妹様ですよね?」
わたしがそう言うと、お兄様はため息をついた。
「あのなぁ、とぼけるんなら、もっと上手くやらなきゃダメだぞ。端々にジーナが滲み出ている。ジーナのことを知っている者なら、誰もが存在に引っ掛かりを覚えるほどだ」
えっ、そんなに滲み出てた?
いいえ。これは誘導尋問よ。
だって、その証拠にルーク様は何もおっしゃらないもの。
「あ、ルーク様が何も言わないっていうのはまた別問題だからな。ルーク様の場合は、思うところがあっても、気持ち的に否定したいからだろうよ。生涯ジーナただ一人と誓いを立てた身の上で、万が一ニーナがジーナでなければジーナに合わせる顔がないと思っているだろうからな」
ニーナがジーナでなければ?
「それは、どういう意味でしょうか……」
「中身がジーナなら、ルーク様が惹かれない訳がないんだ。で、ニーナのことが気になっていても、ジーナでないから惹かれてはいけないと思い込んでいるだろう。ジーナでない者に、ルーク様は決して惹かれようとしない。だから、ルーク様は事実から眼を逸らしているんだ」
わたしは、次の言葉が思い浮かばず、黙り込んでしまった。
そんなわたしを愛しげに見て、お兄様は丁寧に言葉を紡ぐ。
「馬車に乗る時、無意識にすぐ掴まれる場所を探す。これはジーナが5歳の時に、馬車に乗ろうとして馬車から落ち、大怪我をしたことがあるからだ。ミラー家のダイニングに案内した時、ジーナの定位置だった場所に、すぐに向かって座った。客であるならば、真ん中か一番端に腰掛けるだろう。だが、おまえは入り口近くの端から二番目の席になんの迷いもなく座った。それから、この部屋に入った時、入り口からは死角になっている本棚に真っ直ぐに近付いて行った。まだまだあるぞ」
わたしってば、懐かしいジーナの時の我が家に来て、気が緩んでしまったらしい。
そんなに、わかりやすかったなんて。
「極め付けはエマへのお祝いだ」
わたしは首を傾げた。
「お祝いはルーク様が選んでお贈りになった物です。何も不思議なことはないはずですが……」
「バカジーナ。おくるみに薄紫を選んだだろう? エマが好きな色と知ってたからだろうが。それに、ハンカチ」
「おくるみとハンカチは抱き合わせ販売品です」
「そうだとしても、名前を刺繍なんて洒落た真似、ルーク様には無理だ。しかも、エマのファミリーネームは刺繍されていなかった。ジーナはどこにエマが嫁いだか知らなかっただろうからな」
そうだ。
お兄様の言う通り、お姉様がどこに嫁いだか知らなかった。
配送先の名前で確認しようとしたら、ルーク様は荷物をデイヴィス家への配送にして、フランクさんに言って荷物を送ってしまった。
だから、わたしはお姉様がどこに嫁いだか、知る方法がなかったんだ。
「……お姉様は、どちらに嫁がれたのですか?」
わたしがポツリと呟くようにお兄様に訊ねると、お兄様は泣き笑いを浮かべて、両手を広げながらわたしに教えてくれた。
「ターナー伯爵家だよ」
「お兄様!」
わたしは、お兄様の腕の中に飛び込んだ。
お兄様はわたしをきゅっと強く抱きしめ、呟く。
「おかえり。ジーナ」
13
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜
白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人の心は結ばれるのか?
➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる