もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
97 / 255
10章 影

6

しおりを挟む
「んじゃ、次行ってみよう」
カタンと椅子に音をさせてお兄様が立ち上がった。

「次?」
「うん。多分、図書館より役立つ資料があると思うよ」
ダイニングを出て行くお兄様に、わたしは慌てて付いて行った。

図書館より役立つ資料なんて、我が家にあったかしら……?
だいたい、ミラー家に光の術者が生まれたのだって、初めてかも知れないと聞いていたのに、その光の本があるのかしら……。

黙ってお兄様について行くと、お兄様は二階への階段を上がる。

そして、奥から三番目のドアを開けると、そこはジーナわたしが生前使っていた部屋だった。

「下の妹ジーナが使っていた部屋だ。学園で配布された光の教本などは、寮から持って帰ってきてある。そこに、ヒントがあるんじゃないか?」

わたしはお兄様に許可を得て、部屋の中に入る。

14年近く前のことだというのに、ジーナわたしの部屋はわたしが使っていた当時のままだった。
本はわたしが読んでいたものが本棚にあり、そうそう、このベッドサイドのアロマキャンドルは、お友達のアンリエル様からお誕生日にいただいたものだわ。

ホコリも溜まっていない部屋。
まるで、まだ誰かが使っているように。

お兄様を振り返ると、懐かしげに微笑んでわたしを見ていた。

「ああ、やっぱり部屋というものは、誰かがそこにいて部屋の役目を果たすのだな。今まで、この部屋を見てもジーナの抜け殻がそこにあるような気がしていたが、ちゃんとここは部屋だったんだな」
お兄様は近付いてわたしの頭を撫でた。

「こ、ここは、ずっとこのままだったんですか?」
「そうだ。父上が誰かに家督を譲るまではこのままにしておこうと、家族みんなで決めた。オレか親類のものが子爵を継いだ時に、部屋を新しくしようと」

部屋をそのままにしていただけじゃない。
きちんと掃除がされ、ベッドのシーツも取り替えられているようだ。
まるで、ジーナわたしがいつ帰ってきてもいいように、設えられている。

「さあ、おチビちゃん。参考になるものはあるかい?」
お兄様に言われて、わたしは慌てて本棚に駆け寄った。

そうでないと、感傷的になり、涙が溢れてきそうだったからだ。

本棚から、学園でつかっていた光の教本を取り出し、パラパラと中を読んで確認する。
確かに図書館で借りたものよりは実用的だけど、これだけで光の祝福ができるようになるかと言われると、ちょっと、いや、かなりあやしい。
教本は講師が不足分を説明することを前提として作られているからだ。
それでも、ちゃんとやり方が書いてあるだけ、図書館の本よりは、役に立つ。

わたしは、しっかりと内容を頭に刻み込み、教本を棚に返した。

後ろを振り返ると、お兄様は待ちくたびれたのか、部屋のベッドに腰掛けて、ぼんやりとこちらを見ていた。
「オリバー様。貴重なものを見せていただき、ありがとうございました。」
わたしはペコリと頭を下げた。

「いや、かまわない。それに、もともとおまえの物だしな」
「えっ」

お兄様、今なんて言った?
おまえの物って、どういうこと?

訳がわからず、何も言えなくてお兄様を見ていると、お兄様はふっと笑いを漏らす。

「いいよ、もう。そんな芝居しなくても。おまえ、ジーナだろ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...