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10章 影
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「んじゃ、次行ってみよう」
カタンと椅子に音をさせてお兄様が立ち上がった。
「次?」
「うん。多分、図書館より役立つ資料があると思うよ」
ダイニングを出て行くお兄様に、わたしは慌てて付いて行った。
図書館より役立つ資料なんて、我が家にあったかしら……?
だいたい、ミラー家に光の術者が生まれたのだって、初めてかも知れないと聞いていたのに、その光の本があるのかしら……。
黙ってお兄様について行くと、お兄様は二階への階段を上がる。
そして、奥から三番目のドアを開けると、そこはジーナが生前使っていた部屋だった。
「下の妹ジーナが使っていた部屋だ。学園で配布された光の教本などは、寮から持って帰ってきてある。そこに、ヒントがあるんじゃないか?」
わたしはお兄様に許可を得て、部屋の中に入る。
14年近く前のことだというのに、ジーナの部屋はわたしが使っていた当時のままだった。
本はわたしが読んでいたものが本棚にあり、そうそう、このベッドサイドのアロマキャンドルは、お友達のアンリエル様からお誕生日にいただいたものだわ。
ホコリも溜まっていない部屋。
まるで、まだ誰かが使っているように。
お兄様を振り返ると、懐かしげに微笑んでわたしを見ていた。
「ああ、やっぱり部屋というものは、誰かがそこにいて部屋の役目を果たすのだな。今まで、この部屋を見てもジーナの抜け殻がそこにあるような気がしていたが、ちゃんとここは部屋だったんだな」
お兄様は近付いてわたしの頭を撫でた。
「こ、ここは、ずっとこのままだったんですか?」
「そうだ。父上が誰かに家督を譲るまではこのままにしておこうと、家族みんなで決めた。オレか親類のものが子爵を継いだ時に、部屋を新しくしようと」
部屋をそのままにしていただけじゃない。
きちんと掃除がされ、ベッドのシーツも取り替えられているようだ。
まるで、ジーナがいつ帰ってきてもいいように、設えられている。
「さあ、おチビちゃん。参考になるものはあるかい?」
お兄様に言われて、わたしは慌てて本棚に駆け寄った。
そうでないと、感傷的になり、涙が溢れてきそうだったからだ。
本棚から、学園でつかっていた光の教本を取り出し、パラパラと中を読んで確認する。
確かに図書館で借りたものよりは実用的だけど、これだけで光の祝福ができるようになるかと言われると、ちょっと、いや、かなりあやしい。
教本は講師が不足分を説明することを前提として作られているからだ。
それでも、ちゃんとやり方が書いてあるだけ、図書館の本よりは、役に立つ。
わたしは、しっかりと内容を頭に刻み込み、教本を棚に返した。
後ろを振り返ると、お兄様は待ちくたびれたのか、部屋のベッドに腰掛けて、ぼんやりとこちらを見ていた。
「オリバー様。貴重なものを見せていただき、ありがとうございました。」
わたしはペコリと頭を下げた。
「いや、かまわない。それに、もともとおまえの物だしな」
「えっ」
お兄様、今なんて言った?
おまえの物って、どういうこと?
訳がわからず、何も言えなくてお兄様を見ていると、お兄様はふっと笑いを漏らす。
「いいよ、もう。そんな芝居しなくても。おまえ、ジーナだろ?」
カタンと椅子に音をさせてお兄様が立ち上がった。
「次?」
「うん。多分、図書館より役立つ資料があると思うよ」
ダイニングを出て行くお兄様に、わたしは慌てて付いて行った。
図書館より役立つ資料なんて、我が家にあったかしら……?
だいたい、ミラー家に光の術者が生まれたのだって、初めてかも知れないと聞いていたのに、その光の本があるのかしら……。
黙ってお兄様について行くと、お兄様は二階への階段を上がる。
そして、奥から三番目のドアを開けると、そこはジーナが生前使っていた部屋だった。
「下の妹ジーナが使っていた部屋だ。学園で配布された光の教本などは、寮から持って帰ってきてある。そこに、ヒントがあるんじゃないか?」
わたしはお兄様に許可を得て、部屋の中に入る。
14年近く前のことだというのに、ジーナの部屋はわたしが使っていた当時のままだった。
本はわたしが読んでいたものが本棚にあり、そうそう、このベッドサイドのアロマキャンドルは、お友達のアンリエル様からお誕生日にいただいたものだわ。
ホコリも溜まっていない部屋。
まるで、まだ誰かが使っているように。
お兄様を振り返ると、懐かしげに微笑んでわたしを見ていた。
「ああ、やっぱり部屋というものは、誰かがそこにいて部屋の役目を果たすのだな。今まで、この部屋を見てもジーナの抜け殻がそこにあるような気がしていたが、ちゃんとここは部屋だったんだな」
お兄様は近付いてわたしの頭を撫でた。
「こ、ここは、ずっとこのままだったんですか?」
「そうだ。父上が誰かに家督を譲るまではこのままにしておこうと、家族みんなで決めた。オレか親類のものが子爵を継いだ時に、部屋を新しくしようと」
部屋をそのままにしていただけじゃない。
きちんと掃除がされ、ベッドのシーツも取り替えられているようだ。
まるで、ジーナがいつ帰ってきてもいいように、設えられている。
「さあ、おチビちゃん。参考になるものはあるかい?」
お兄様に言われて、わたしは慌てて本棚に駆け寄った。
そうでないと、感傷的になり、涙が溢れてきそうだったからだ。
本棚から、学園でつかっていた光の教本を取り出し、パラパラと中を読んで確認する。
確かに図書館で借りたものよりは実用的だけど、これだけで光の祝福ができるようになるかと言われると、ちょっと、いや、かなりあやしい。
教本は講師が不足分を説明することを前提として作られているからだ。
それでも、ちゃんとやり方が書いてあるだけ、図書館の本よりは、役に立つ。
わたしは、しっかりと内容を頭に刻み込み、教本を棚に返した。
後ろを振り返ると、お兄様は待ちくたびれたのか、部屋のベッドに腰掛けて、ぼんやりとこちらを見ていた。
「オリバー様。貴重なものを見せていただき、ありがとうございました。」
わたしはペコリと頭を下げた。
「いや、かまわない。それに、もともとおまえの物だしな」
「えっ」
お兄様、今なんて言った?
おまえの物って、どういうこと?
訳がわからず、何も言えなくてお兄様を見ていると、お兄様はふっと笑いを漏らす。
「いいよ、もう。そんな芝居しなくても。おまえ、ジーナだろ?」
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