90 / 255
9章 一筋の光は
9
しおりを挟む
「えーっと、お茶、飲みますか?」
ルーク様はわたしにチラリと視線を移したが、すぐにまた食事に戻る。
「バカか。まだ食事の最中だ」
「ははは。そうですよねぇ」
えーん。
サリーさん、手持ち無沙汰だよー。
どうしてわたしを置いて行ったんですかぁ?
することもなくて、わたしはルーク様が食事をするのをじっと見ていた。
「……なんだ? 見られると気が散る」
ルーク様が不機嫌そうに、わたしを見る。
「いえ、あの、えーと、足りますか? お夕飯」
「これだけあれば、充分だろう?」
テーブルに乗っているのは、サラダ、スープ、お肉、バターロールだ。
確かに、普通の人なら充分だけど……。
「もっと食べるかと思っていました。幼馴染みのパン屋の男の子は、そのバターロールにお肉やハムを挟んで17.8個は食べますし、あと、誰だったかな? 覚えていないんですけど、ステーキとスープとパスタとサンドイッチを一度にテーブルに置いて、全部食べた男の子もいるんですよ~。どこにそんなにたくさんの食べ物が入るのかと、感心しました」
ルーク様はわたしが大袈裟に言っていると思ったのか、ぷっと、吹き出した。
「それは成長期の男はそれくらい食べるもんだからな。成長期が終われば自然と減る。そのまま食べ続けたら、剣など振るえないくらい太ってしまうよ」
ああ、そうか。
育ち盛りだから、男の子はたくさん食べるのか。
「ルーク様も食べましたか?」
「ああ、ジーナが呆れるくらい……」
何故かルーク様は途中で言葉を切って、じっと、何かを考えているようだった。
「ルーク様?」
「あ、いや。なんでもない。もう食べ終わるから、紅茶を入れてくれないか」
「はい。かしこまりました」
わたしはルーク様に新しくお茶を入れ直した。
茶葉をちゃんと蒸すくらい時間を置いて、ルーク様に紅茶を出すと、ちょうど食事を全部食べ終わったところだった。
「全部食べてくださったんですね。嬉しいです。ありがとうございます」
わたしがにこにこと笑ってそう言うと、ルーク様は紅茶を飲みながらくすりと笑った。
「なんでおまえがお礼を言うんだよ」
「だって、ルーク様がちゃんと食べてくれるのが嬉しいんですもの。専属侍女といたしましては、ご主人様の健康が一番嬉しいです」
「何言ってんだ、いつもちゃんと食べて……。いや、そういえば、食べてなかったな。ローゼリアと会った日は……」
ルーク様は空になったお皿を見て、それからわたしの顔を見た。
?
「なんですか? ルーク様」
わたしが首を傾げると、ルーク様がピクリとした。
「いや、オレは……そんなバカな。同じに見えるなんて、そんなバカなことが……」
突然狼狽え出したルーク様に、わたしもどうしたらいいかわからない。
「ルーク様?」
ルーク様に手を伸ばしたら、伸ばしたら手を振り払われた。
「っ!」
今までそんなことをされたことがないので、わたしはびっくりして手を引っ込めた。
「あ……。すまん。ニーナ、オレが悪かった。もう、下がってくれ。早く休みたい」
「あ、はい。気が利かなくて申し訳ありませんでした」
わたしは急いで食器を片付けて、それらを持ってきたワゴンを乗せて、部屋を出ようとした。
「ニーナ」
ルーク様に呼び止められて、振り向くと、ルーク様がわたしのすぐ後ろに立っていた。
「オレは、おまえの明るさに救われているのかもしれない。能天気なおまえの顔を見ると、ローゼリアのことも、くだらない、どうでもいいことのように思えてくる」
それは……、褒められてるのかな……?
「ありがとうございます?」
ルーク様はまたくすりと笑う。
「なんで笑うんですか」
「いや、おまえこそ、なんで疑問形」
「なんとなく……褒められてるのかなって」
ルーク様はくしゃりとわたしの頭を撫でた。
「もう戻って早く寝ろ」
「あ、そうですよね。ルーク様、早くお休みになりたいんでしたもんね。失礼しました。おやすみなさいませ」
「……ああ、おやすみ」
ワゴンを押してルーク様の部屋を出たわたしに、ルーク様の独り言は聞こえなかった。
「それでも、オレの光はただ一人なんだ」
ルーク様はわたしにチラリと視線を移したが、すぐにまた食事に戻る。
「バカか。まだ食事の最中だ」
「ははは。そうですよねぇ」
えーん。
サリーさん、手持ち無沙汰だよー。
どうしてわたしを置いて行ったんですかぁ?
することもなくて、わたしはルーク様が食事をするのをじっと見ていた。
「……なんだ? 見られると気が散る」
ルーク様が不機嫌そうに、わたしを見る。
「いえ、あの、えーと、足りますか? お夕飯」
「これだけあれば、充分だろう?」
テーブルに乗っているのは、サラダ、スープ、お肉、バターロールだ。
確かに、普通の人なら充分だけど……。
「もっと食べるかと思っていました。幼馴染みのパン屋の男の子は、そのバターロールにお肉やハムを挟んで17.8個は食べますし、あと、誰だったかな? 覚えていないんですけど、ステーキとスープとパスタとサンドイッチを一度にテーブルに置いて、全部食べた男の子もいるんですよ~。どこにそんなにたくさんの食べ物が入るのかと、感心しました」
ルーク様はわたしが大袈裟に言っていると思ったのか、ぷっと、吹き出した。
「それは成長期の男はそれくらい食べるもんだからな。成長期が終われば自然と減る。そのまま食べ続けたら、剣など振るえないくらい太ってしまうよ」
ああ、そうか。
育ち盛りだから、男の子はたくさん食べるのか。
「ルーク様も食べましたか?」
「ああ、ジーナが呆れるくらい……」
何故かルーク様は途中で言葉を切って、じっと、何かを考えているようだった。
「ルーク様?」
「あ、いや。なんでもない。もう食べ終わるから、紅茶を入れてくれないか」
「はい。かしこまりました」
わたしはルーク様に新しくお茶を入れ直した。
茶葉をちゃんと蒸すくらい時間を置いて、ルーク様に紅茶を出すと、ちょうど食事を全部食べ終わったところだった。
「全部食べてくださったんですね。嬉しいです。ありがとうございます」
わたしがにこにこと笑ってそう言うと、ルーク様は紅茶を飲みながらくすりと笑った。
「なんでおまえがお礼を言うんだよ」
「だって、ルーク様がちゃんと食べてくれるのが嬉しいんですもの。専属侍女といたしましては、ご主人様の健康が一番嬉しいです」
「何言ってんだ、いつもちゃんと食べて……。いや、そういえば、食べてなかったな。ローゼリアと会った日は……」
ルーク様は空になったお皿を見て、それからわたしの顔を見た。
?
「なんですか? ルーク様」
わたしが首を傾げると、ルーク様がピクリとした。
「いや、オレは……そんなバカな。同じに見えるなんて、そんなバカなことが……」
突然狼狽え出したルーク様に、わたしもどうしたらいいかわからない。
「ルーク様?」
ルーク様に手を伸ばしたら、伸ばしたら手を振り払われた。
「っ!」
今までそんなことをされたことがないので、わたしはびっくりして手を引っ込めた。
「あ……。すまん。ニーナ、オレが悪かった。もう、下がってくれ。早く休みたい」
「あ、はい。気が利かなくて申し訳ありませんでした」
わたしは急いで食器を片付けて、それらを持ってきたワゴンを乗せて、部屋を出ようとした。
「ニーナ」
ルーク様に呼び止められて、振り向くと、ルーク様がわたしのすぐ後ろに立っていた。
「オレは、おまえの明るさに救われているのかもしれない。能天気なおまえの顔を見ると、ローゼリアのことも、くだらない、どうでもいいことのように思えてくる」
それは……、褒められてるのかな……?
「ありがとうございます?」
ルーク様はまたくすりと笑う。
「なんで笑うんですか」
「いや、おまえこそ、なんで疑問形」
「なんとなく……褒められてるのかなって」
ルーク様はくしゃりとわたしの頭を撫でた。
「もう戻って早く寝ろ」
「あ、そうですよね。ルーク様、早くお休みになりたいんでしたもんね。失礼しました。おやすみなさいませ」
「……ああ、おやすみ」
ワゴンを押してルーク様の部屋を出たわたしに、ルーク様の独り言は聞こえなかった。
「それでも、オレの光はただ一人なんだ」
4
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる