もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
87 / 255
9章 一筋の光は

6

しおりを挟む
二階の席で見ていると、ルーク様は模擬剣を使った剣の訓練をしていて、隊員相手にうまく剣を捌いている。

何人か、相手を替えて訓練をしているが、相手とルーク様の実力差がすごい。
前世で学園の剣術大会では、一回生ながら優秀な成績を収めたルーク様。
あれからも、かなり努力をしたに違いない。

そこに、下に降りたお兄様がやってくる。
何かルーク様と話した後、ルーク様に手袋を渡してくれていた。
そして、ルーク様とお兄様で訓練を始めた。

お兄様は副隊長をやっていると聞いていたけど、納得の実力だ。
他の隊員相手の時と、ルーク様の動きが違う。
さっきは、ルーク様が手加減していたのがわかる。

わたしが練習を眺めていると、闘技場がザワザワし始めた。
光の討伐隊が中に入ってくる。

白い修道服のようなものを着た男女30人くらいの先頭に、足首より上の丈のドレスを着た女性が堂々と歩いてきた。
闘技場に不似合いなアクセサリーをつけた、あの人がローゼリア様だろう。

前世ではわたしの一つ年下だったから、幼いイメージでいたけれど、大人になったローゼリア様はとてもお美しくなられていた。
……ただ、その濃い化粧とアクセサリーは、訓練には相応しくないだろうに。

ルーク様は、表情を失くして、ローゼリア様に跪いた。
「本日も訓練にご参加頂き、ありがとうございます」
「うむ。今日はしっかりと光の力と連携させるよう精進せよ」
「……はい」

ルーク様とローゼリア様のやり取りは、とても婚約者同士とは思えなかった。

その後、ルーク様達討伐隊は、真剣に持ち替えて光の討伐隊の前に並んだ。
10人ずつ、5列に並んだ討伐隊に、光の討伐隊が近づいて行く。
そして、一人一人の剣に祝福をしていた。
光の討伐隊の方が人数が少ないので、二回祝福を授ける人もいた。

そして、10人の討伐隊は、誰もいない方向に向かって、一列ずつ剣を振った。

すると、剣はそれぞれの魔法を取り込み、闘技場の空を切った。

祝福された剣がうまく光の魔法と連携できたものは、剣筋が光でキラキラとして、火の魔法保持者は火が、風の魔法保持者は風が、水の魔法保持者は水が、威力を増して剣から放たれた。
一度連携できた者は列から離れ、連携できなかった者は再度列に並ぶ。
また別の人から剣に祝福を受けて、連携させようとしている。

ルーク様はローゼリア様から祝福を受けるが、以前聞いていた通り、何度やっても連携はされなかった。

何度目かの祝福をもらおうと、ルーク様がローゼリア様に近付いた時、バシッと鋭い音が闘技場に響き渡った。

「何故、ちゃんとできないの! わたくしが祝福をしているのだから、できて当たり前。できないのはルーク、おまえの怠慢です!」

激昂するローゼリア様に、頬を打たれたルーク様は、表情の抜け落ちた顔で淡々と答える。

「でしたら、ご協力いただかなくても構いませんが。ついでに婚約も解消いたしましょうか」

ぱしん!

再度、ローゼリア様がルーク様の頬を叩く音が響き渡る。

「不愉快です! わたくしは帰ります!」

1人、踵を返し引き返すローゼリア様に、光の討伐隊は狼狽えながら後をついて帰って行った。

わたしは、取り残されるルーク様を見て、胸が締め付けられる思いだった。

ほとんどの人が連携ができている中、どうしてルーク様だけうまくいかないんだろう。

わたしが代わりに剣に祝福をしたら、うまくいくのかな。
でも、前世でも祝福の勉強をしてる最中に死んでしまったから、勉強しないとできないし、光の魔法が使えることは誰に言っていないし……。

こうなったら祝福の勉強をして、できるようになったら、こっそりルーク様の剣に祝福をさせてもらおう。

教会に行けば祝福の仕方は教えてもらえるのかな。
それとも、図書館とかで本に載ってたりしないかな。

どうやって勉強しようかを考えていたら、ぽんっと肩を叩かれた。

「よお。どうだった? 見学は」
声をかけられて振り返ると、困ったような顔で笑っている、オリバーお兄様が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...