もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
82 / 255
9章 一筋の光は

1

しおりを挟む
光の術者と連携ができない。

それはどういうことなのか。
残念なことに、前世のわたしにもその知識はない。
だって、まだ12歳だったから、加護の与え方や祝福の仕方を習っている最中だったのだ。

きっと、その後に連携を教わるはずだったんだ。

こっそりと、わたしがこの光の力を使って、付与することができればいいんだけど、使い方がわからない。
二属性の魔法を持っていることは誰にも言ってないから、誰かに教わることもできない。
これを機に言ってもいいんだけど、そうしたら教会に引き取られて、ルーク様のお屋敷で働くことができなくなってしまうかもしれない。

何か、いい方法があればいいんだけど……。

「…ナ。ニーナ!」
「はいっ!」
ルーク様の声で、わたしは思考の旅から現実世界に帰ってきた。

今は、ルーク様のお部屋のお掃除をしてたんだった。
パタパタと宙を舞うハタキは、ただ指揮棒のように舞っているだけだった。
「ぼんやりと仕事をするとは、いい度胸だな」
「もっ、申し訳ありませんっ」
わたしは勢いよく頭を下げた。

ルーク様はドアにもたれかかり、腕を組んで鼻で笑った。
「まあ、無償労働だから、別に上の空でもいいっちゃ、いいんだけどな。物さえ壊さなきゃ」

「へ? 無償労働?」
「おまえは今日は休暇だと、サリーから聞いているが?」
「あっ!」
そうだった。

そういえば、さっきサリーさんと会った時に、今日はどうしたのかと聞かれた。
そうか、何を聞くんだろうと思っていたけど、お休みの日だったから、なんでお仕着せを着てるのか聞いてきたんだ。

「ルーク様、失礼しました。わたしはこれで帰ります」
ハタキを手に、そのまま部屋を出て行こうとすると、ルーク様に呼び止められた。

「おまえ、暇なら付き合え。買い物に行くぞ」

いや、だからお休みの日ですってば。
ルーク様と一緒に居たいのは山々だけど、何か光の魔法を知るいい方法がないかを考えたいんだけど。
一刻も早く、光の魔法と連携できないといけないんでしょ?

「いや、なのか?」
いつも偉そうなルーク様が、眉を下げてこちらを見る。
そんな顔を見たら、断れるわけがない。

「では、着替えてきますので、少しお待ちいただけますか?」

ルーク様の了承を得て、わたしは着替えに部屋に戻った。



ルーク様とお出かけなので、いつもよりちょっと可愛いワンピースを着る。
肩と腰の部分にレースがついていて、お気に入りの1着だ。
着替えを済ませてルーク様の部屋まで戻り、今わたしはルーク様の馬車に揺られている。
「どこへいくんですか?」
「買い物だと言っただろう。ニーナには、子どもに贈る品を見立ててもらえたら助かるんだが」
「子ども、ですか? いくつの子なんでしょう?」

わたしがそう言うと、ルーク様は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「まだ生まれたばかりだ。一昨日、手紙が来て生まれたことを知った。可愛い女の子だそうだ」
「誰の赤ちゃんですか?」
「うん。遠くに嫁いでしまった義姉上の子どもだ」

義姉上?
ってことは、エマお姉様の赤ちゃん?

揺れる馬車の中で、手をギュッと握りしめる。
「ルーク様には姉上様はいらっしゃらなかったですよね? どちらの方なのでしょうか?」
探るようにわたしが聞く。

「ん? ああ、オレの生涯の伴侶の姉上なんだ。エマ義姉上というとてもお優しい方が、オレの義姉上なんだ」

ああ!
やっぱり、エマお姉様の赤ちゃんなんだ!!

わたしも嬉しくて涙が出そうになる。
エマお姉様、お幸せなんだわ。
ルーク様が嬉しそうに言うくらいですもの。
ご結婚なさって、可愛い赤ちゃんに恵まれて。

よかった……。
前世の家族が、幸せになったという話を聞くのは嬉しい。
本当によかった。

「ルーク様、差し出がましい上に、いやらしい気がしないでもないのですが、うちの実家の商会に行きませんか? ルーク様がお買い求めになるようなブランド物ではありませんが、実用的な赤ちゃんグッズも取り揃えています。王都から遠くにいらっしゃるのであれば、王都で買える実用品がいいのではないでしょうか?」

エマお姉様の赤ちゃんのものなら、わたしも選びたい。
うちの商会で買えば、こっそりルーク様の贈り物に追加で贈ることができるかもしれない。
それに、お高いお店では、何を買ったらいいかわからないけど、うちの商会なら赤ちゃんグッズの人気商品とかもわかるしね。

ルーク様は少し考えてから、わたしの実家に行くことを、了承してくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...