もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
76 / 255
8章 記憶

3

しおりを挟む
少し低い温度でお茶を入れる。
熱さで口が火傷しそうなお茶もいいけど、少しぬるいほうが疲れてる時にはいい。

長椅子に腰掛けているルーク様に、お茶を出す。
ルーク様は、ゆっくりと口をつけた。

「ふ、ぅー……。ああ、胃に染み渡って疲れが取れるようだな」
「ふふ。良かったです。今日は早く寝てくださいね」

わたしが笑ってそう言うと、ルーク様はわたしの顔を見てじっと見た。

「……? なんですか?」
わたしが首を傾げると、ルーク様もふっと笑った。
「オレも現金なものだな。胃が緩んだら、腹が減ってきた。食事は要らないと言ってしまったからなあ」

ルーク様は時計を見る。
もう、メイドは下がっている時間だ。
「あ、あの。簡単なもので良ければ、わたし作りましょうか?」

ルーク様が目を丸くして、わたしの顔をじっとみる。
「おまえ、サンドイッチの他にも、作れるものがあるのか?」
「えっ?」
わたしはまたサンドイッチを作ろうと思っていたので、ルーク様の期待に満ちた目に、なんて答えたらいいか、戸惑う。

「えーっと、出てきてからのお楽しみで……」
わたしは笑って誤魔化して、ルーク様の部屋を出た。

わたしの前世は貴族令嬢だったし、現世は裕福な商家の娘だ。
料理なんてあまりやったことはない。

サンドイッチはくらいは作れたが、他にレパートリーはなかった。

うーん。
どうしよう……。
お菓子なら少し作れるんだけどな。

あ! ホットケーキなら作れる!

厨房の中を探して、材料を揃える。
あまり甘すぎないように、注意して材料を計る。

そして、焦げないように気をつけて両面を焼いて、急いでルーク様のところに戻った。

「ルーク様! お待たせしました」
わたしはルーク様の前に、ホットケーキとナイフ、フォーク、それにバターと蜂蜜を置いた。
「あまり甘くなり過ぎないようにしてありますが、甘味が足りなければ蜂蜜を多めに掛けてくださいね」

わたしがどうぞと促しても、ルーク様はじっとホットケーキを見つめるだけだ。
あれ? ホットケーキ、嫌いなのかな……。
子どもの頃は召し上がってらしたと思うけど……。

「ルーク様?」
わたしはお盆を抱えて、不安になってルーク様に声を掛けた。
はっと、わたしが不安そうに見ていると気がついたルーク様は、すぐにナイフとフォークを持って、最初に何も掛けずにホットケーキを一口食べた。
その後、バターと蜂蜜を掛けて食べてから、またわたしの顔を見た。

……味見はしたはずなんだけど、お口に合わなかったのかな……。

「あの、どうかなさいましたか?」
「いや、……なんでもない」
「あの、まずかった…ですか?」
「いや、美味いよ。あの頃と同じように美味い」

わたしはホッとした。
ホットケーキだけに。なんちゃって。

ニコニコとルーク様が食べ終わるのを待って、食器を片付ける。
「お風呂はすぐ入られますか? お支度しましょうか?」
ルーク様は疲れた顔で少し笑った。
「おまえ、もう帰れ。風呂の支度もサリーがしてくれてある。オレもすぐに済ませて寝るから」

わたしは食器をワゴンに乗せた。
「はい。ルーク様」
そして、ワゴンを押してルーク様のお部屋を出る。

「ルーク様、おやすみなさいませ」
「ああ、ニーナ。おやすみ」

パタン。
わたしはドアを閉めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...