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7章 こぼれ落ちた運命は再び拾えるか?
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デイヴィス侯爵家に到着すると、わたしはすぐに
別棟へ案内された。
建物は少しだけ年季が入ったが、さすが侯爵家だけあり、きちんと手入れされている。
フランクさんから紹介された侍女は、サリーさんだった。
ふわふわのくせ毛を肩に付かない長さで切り揃えているサリーさんは、とても30歳近いとは思えない。
「初めまして。わたしはサリーといいます。デイヴィス侯爵家には、15年前から勤めています。わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「はい。よろしくお願いします」
昔、会ったことがあるとはおくびにも出さずに、12歳の少女らしく挨拶をした。
サリーさんに連れられて、わたしが働く別棟と本館の間にある使用人棟へとやってきた。
一階の角部屋のドアを開けると、サリーさんはここがわたしに与えられた部屋だと言った。
二階三階は、主に本館の使用人が使っているそうで、別棟の使用人は一階と二階の一部を使っているらしい。
……また一階角部屋か…。
前世の学園の寮もそうだったな。
ルーク様が忍び込んで来たっけ。
だから、防犯対策が必要だってば!
こっそりと、暴漢撲滅用の棍棒でも用意しようと心に決めた。
学園でもらった部屋とは違い、2メートル×1メートルくらいの小さな部屋で、ベッドと机、小さなクローゼットで部屋の中はいっぱいになっていた。
やっぱり、子爵家は貴族だったんだなとこんな時改めて思う。
「今日は持ってきた荷物の整理があるでしょう。仕事は明日からでいいわ。食堂はこの使用人棟の食堂を使ってちょうだい」
「わかりました」
「何かわからないことがあったら、二階の一番端がわたしの部屋だから、訪ねてきてもいいわよ」
サリーさんはそう言うと、鮮やかなウインクを残して部屋を出て行った。
サリーさん、お茶目な人だったんだ……。
前世では、貴族と使用人の立場だったから知らなかったよ。
「……ふぅ」
わたしは一人になって、ベッドに腰掛けた。
窓の外を見ると、懐かしい風景が広がっている。
「ルーク様。わたし、やっとここまで来たよ。あなたを遺して逝ってしまってから、ここまで還って来たよ」
ぽつりと独り言を言うけれど、その声はジーナのものではなく、当然ニーナの声だ。
体も、当然ジーナのものではない。
ルーク様に会いたいけど、ニーナの姿では対等に口をきくこともできない。
前も身分の差はあったけれど、所詮は貴族同士だった。
でも、今は侯爵家嫡男と平民の小娘だ。
遠くから、お姿を見られるだけでも、良しとするべき。
「よし! 明日から仕事と、ルーク様探しがんばるぞ!」
せめて、元気なお姿を見られるように……!
こうして、わたしのデイヴィス侯爵家使用人としての第一歩は始まったのだった。
別棟へ案内された。
建物は少しだけ年季が入ったが、さすが侯爵家だけあり、きちんと手入れされている。
フランクさんから紹介された侍女は、サリーさんだった。
ふわふわのくせ毛を肩に付かない長さで切り揃えているサリーさんは、とても30歳近いとは思えない。
「初めまして。わたしはサリーといいます。デイヴィス侯爵家には、15年前から勤めています。わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「はい。よろしくお願いします」
昔、会ったことがあるとはおくびにも出さずに、12歳の少女らしく挨拶をした。
サリーさんに連れられて、わたしが働く別棟と本館の間にある使用人棟へとやってきた。
一階の角部屋のドアを開けると、サリーさんはここがわたしに与えられた部屋だと言った。
二階三階は、主に本館の使用人が使っているそうで、別棟の使用人は一階と二階の一部を使っているらしい。
……また一階角部屋か…。
前世の学園の寮もそうだったな。
ルーク様が忍び込んで来たっけ。
だから、防犯対策が必要だってば!
こっそりと、暴漢撲滅用の棍棒でも用意しようと心に決めた。
学園でもらった部屋とは違い、2メートル×1メートルくらいの小さな部屋で、ベッドと机、小さなクローゼットで部屋の中はいっぱいになっていた。
やっぱり、子爵家は貴族だったんだなとこんな時改めて思う。
「今日は持ってきた荷物の整理があるでしょう。仕事は明日からでいいわ。食堂はこの使用人棟の食堂を使ってちょうだい」
「わかりました」
「何かわからないことがあったら、二階の一番端がわたしの部屋だから、訪ねてきてもいいわよ」
サリーさんはそう言うと、鮮やかなウインクを残して部屋を出て行った。
サリーさん、お茶目な人だったんだ……。
前世では、貴族と使用人の立場だったから知らなかったよ。
「……ふぅ」
わたしは一人になって、ベッドに腰掛けた。
窓の外を見ると、懐かしい風景が広がっている。
「ルーク様。わたし、やっとここまで来たよ。あなたを遺して逝ってしまってから、ここまで還って来たよ」
ぽつりと独り言を言うけれど、その声はジーナのものではなく、当然ニーナの声だ。
体も、当然ジーナのものではない。
ルーク様に会いたいけど、ニーナの姿では対等に口をきくこともできない。
前も身分の差はあったけれど、所詮は貴族同士だった。
でも、今は侯爵家嫡男と平民の小娘だ。
遠くから、お姿を見られるだけでも、良しとするべき。
「よし! 明日から仕事と、ルーク様探しがんばるぞ!」
せめて、元気なお姿を見られるように……!
こうして、わたしのデイヴィス侯爵家使用人としての第一歩は始まったのだった。
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