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6章 再生
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お父さんはびっくりした顔でわたしを見た。
「ニ、ニーナ……」
お母さんは慌ててハンカチをわたしに差し出す。
「ニーナ、そんなに行きたくないなら、行かなくていいのよ? ニーナを差し出さなきゃ侯爵家との取引を停止するとか言われた訳じゃないんだから」
「え?」
ハンカチを受け取って、お母さんの顔を見ると、自分の腕に何かが落ちた。
そちらの方に視線を向けると、腕が濡れている。
あ……。
わたし、泣いている。
「ニーナ、この話はお断りしましょうね」
お母さんがにっこり笑う。
「だ、だめっ! わたし、デイヴィス侯爵家に行く! 絶対行くから、断っちゃだめ!」
わたしは慌ててお母さんの腕を掴む。
お母さんとお父さんが戸惑って顔を見合わせていると、ルフィがお風呂から出てきた。
「お姉ちゃん何泣いてんの? お母さんに怒られてるの?」
ルフィはわたしの前に立つ。
「お父さん、お母さん、お姉ちゃんを怒っちゃだめだよ。お姉ちゃん、とっても優しいんだ。だから、悪いことなんかしないよ。きっと誤解だよ」
そして、持っていたタオルで、わたしの顔を拭いてくれた。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ」
「ルフィ……」
家族の暖かさが嬉しかった。
「ルフィ、ありがとう。お姉ちゃんね、今度住み込みで働くことになったの。だから、このおうちを出て行くことになってね。だから、その話をしていて泣いちゃっただけなのよ」
ルフィは大きく目を見開いた。
「えっ、うちってお姉ちゃんが出稼ぎに行かないといけないくらい苦しいの? だったら、ぼくもお菓子とかごはんとか我慢するから、だからお姉ちゃんをどこにもやらないで!」
ルフィはわたしにぎゅっと抱きついた。
お父さんとお母さんは顔を見合わせて、二人ともわたしたちの側に来た。
「ルフィ、うちにお金がないから出稼ぎに行くわけじゃないんだ」
「そうよ。ニーナはね、侯爵家に行儀見習いの侍女として行くだけなのよ。だから、自由に帰って来られるし、嫌になったら辞めたっていいの」
ルフィはわたしの顔を見る。
「お姉ちゃん、ほんと?」
眉をハの字にして、わたしのことを見るルフィは、ほんとお父さんそっくり。
「ほんとよ。ちょっとだけ寂しくなるけど大丈夫。ちょくちょく帰ってくるから」
そしてわたしはルフィを抱きしめる。
そんなわたし達の上から、両親がわたし達二人をいっぺんに抱きしめる。
あぁ。
わたしはこの家族が大好きだ。
前世のお父様とお母様を思い出す。
二人とも、たくさんの愛情をわたしに注いでくれた。
前世の兄姉を思い出す。
二人とも、とてもわたしを可愛がってくれた。
今、わたしははっきりと前世を思い出した。
あんなに愛情を注いでくれた家族は、わたしが死んでどんなに悲しんだだろう。
そして、ルーク様。
ルーク様が、わたしが死んでしまった時の絶叫が耳に蘇る。
あんなに悲痛な叫びを、前世今世合わせても、わたしは聞いたことがない。
あの後、ルーク様はどうなったのだろう。
そして、ローゼリア様と婚約、結婚って、どういうことなんだろう……。
「ニ、ニーナ……」
お母さんは慌ててハンカチをわたしに差し出す。
「ニーナ、そんなに行きたくないなら、行かなくていいのよ? ニーナを差し出さなきゃ侯爵家との取引を停止するとか言われた訳じゃないんだから」
「え?」
ハンカチを受け取って、お母さんの顔を見ると、自分の腕に何かが落ちた。
そちらの方に視線を向けると、腕が濡れている。
あ……。
わたし、泣いている。
「ニーナ、この話はお断りしましょうね」
お母さんがにっこり笑う。
「だ、だめっ! わたし、デイヴィス侯爵家に行く! 絶対行くから、断っちゃだめ!」
わたしは慌ててお母さんの腕を掴む。
お母さんとお父さんが戸惑って顔を見合わせていると、ルフィがお風呂から出てきた。
「お姉ちゃん何泣いてんの? お母さんに怒られてるの?」
ルフィはわたしの前に立つ。
「お父さん、お母さん、お姉ちゃんを怒っちゃだめだよ。お姉ちゃん、とっても優しいんだ。だから、悪いことなんかしないよ。きっと誤解だよ」
そして、持っていたタオルで、わたしの顔を拭いてくれた。
「お姉ちゃん、大丈夫だよ」
「ルフィ……」
家族の暖かさが嬉しかった。
「ルフィ、ありがとう。お姉ちゃんね、今度住み込みで働くことになったの。だから、このおうちを出て行くことになってね。だから、その話をしていて泣いちゃっただけなのよ」
ルフィは大きく目を見開いた。
「えっ、うちってお姉ちゃんが出稼ぎに行かないといけないくらい苦しいの? だったら、ぼくもお菓子とかごはんとか我慢するから、だからお姉ちゃんをどこにもやらないで!」
ルフィはわたしにぎゅっと抱きついた。
お父さんとお母さんは顔を見合わせて、二人ともわたしたちの側に来た。
「ルフィ、うちにお金がないから出稼ぎに行くわけじゃないんだ」
「そうよ。ニーナはね、侯爵家に行儀見習いの侍女として行くだけなのよ。だから、自由に帰って来られるし、嫌になったら辞めたっていいの」
ルフィはわたしの顔を見る。
「お姉ちゃん、ほんと?」
眉をハの字にして、わたしのことを見るルフィは、ほんとお父さんそっくり。
「ほんとよ。ちょっとだけ寂しくなるけど大丈夫。ちょくちょく帰ってくるから」
そしてわたしはルフィを抱きしめる。
そんなわたし達の上から、両親がわたし達二人をいっぺんに抱きしめる。
あぁ。
わたしはこの家族が大好きだ。
前世のお父様とお母様を思い出す。
二人とも、たくさんの愛情をわたしに注いでくれた。
前世の兄姉を思い出す。
二人とも、とてもわたしを可愛がってくれた。
今、わたしははっきりと前世を思い出した。
あんなに愛情を注いでくれた家族は、わたしが死んでどんなに悲しんだだろう。
そして、ルーク様。
ルーク様が、わたしが死んでしまった時の絶叫が耳に蘇る。
あんなに悲痛な叫びを、前世今世合わせても、わたしは聞いたことがない。
あの後、ルーク様はどうなったのだろう。
そして、ローゼリア様と婚約、結婚って、どういうことなんだろう……。
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