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6章 再生
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翌日、お城から第二王女殿下の婚約が恙無く整ったと発表があった。
お相手はひとつ歳上の侯爵令息で、将来は魔物討伐の英雄になることが決まっている人だそうだ。
本来なら、バルコニーでお二人そろってのお披露目が予定されていたらしいけど、お相手が魔物討伐前の大事なお身体のため、お披露目は魔物討伐後、またはご結婚後に延期になったとお父さんが話していた。
なんでも、幼い頃から何度か魔獣に狙われているそうなので、挨拶にバルコニーなどに立ったら格好の的になってしまうということらしい。
美男美女と評判のお二人の姿を見られなくて、街の人たちはガッカリしていたようだけど、それでもお祭りは開催され、うちのお父さんもお母さんも、忙しそうに露店と通常店舗を行ったり来たりしていた。
夕方になると、風船も花束も全部売り切れて、露店は店じまい。
店舗も合わせていつもより早めにお店を閉めた。
片付けも終わり、今日お祭りなのに働いてもらった従業員たちに心付けを渡して、今日のお仕事は終わる。
わたしたちは家族3人は夜の食卓を囲んでいた。
「いやあ、今日は忙しかったなあ。でも、王女様の婚約者が見られなかったのは残念だったな」
お父さんはソーセージを摘みながら、豪快にビールを飲んだ。
「そうね。でも、ローゼリア様もお美しいけれど、お相手の方もとても美しい方と噂よ。美しい男の人って、どんな人なのかしらね」
お母さんはわたしに柔らかく煮たポトフのお芋を食べさせながら、自分もポトフを食べている。
「そうだな。でも、前は酷い火傷が顔にあったらしいぞ。それを光の術者が婚約者だからと光の魔法を使って治してもらったらしいぞ」
「王女様が?」
「そうなんじゃないか? 婚約したのは今日だから、ちょっとその話は時間の辻褄が合わないけど、婚約するのがわかっていたから、婚約前に治して差し上げたのかもなあ」
"その火傷のせいで、×××は寂しい思いも、悲しい思いもしてきた。
だから、それをできるだけ取り除いてあげたかった"
わたしの頭の中に、浮かんだ言葉。
うん。きっと、王女様もそんな気持ちで治してあげたんだろうな。
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はニンジンよ」
お母さんはわたしの口にニンジンを入れてくれる。
おいしい。
「うちも、デイヴィス侯爵様のお屋敷に、商品を卸しているけど、チラッとでも一度お顔を見てみたいな。王女様の婚約者を」
ビールを飲んでいい気分になったお父さんが顔を赤くして言う。
「あなた、うちが入れるのは裏口だけでしょう。ご子息を見られるわけないじゃないの」
「そうだよなぁ。ま、ご結婚される時は、幸せそうなお二人が見られるだろうから、それまで待つか」
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はタマネギね」
お母さんに口に入れてもらったごはんは、どれも美味しかった。
それなのに、何故かお腹が痛くなった。
ううん。違う。
お腹じゃない。痛いのは胸だ。
王女様と英雄の婚約の話を聞いただけなのに。
どうして胸が痛いんだろう。
わたしは何が悲しいんだろう。
理由のわからない胸の痛みや、時々泣きながら目を覚ますのは何年も続いた。
前世の家族のことも、記憶は薄れず、セピア色ではあるけれど、わたしの中にしっかりと残った。
でも、わたしは今のお父さんもお母さんも大好きだし、わたしと4歳違いで生まれた弟も大好き。
弟は、またお父さんとお母さんの名前を取ってルフィと名付けられた。
今の家族も大事なのだ。
だから、今の日々を大切に生きることを決めて、元気に暮らしている。
わたしはもうすぐ、10歳になり、来年学校に通うことになる。
お相手はひとつ歳上の侯爵令息で、将来は魔物討伐の英雄になることが決まっている人だそうだ。
本来なら、バルコニーでお二人そろってのお披露目が予定されていたらしいけど、お相手が魔物討伐前の大事なお身体のため、お披露目は魔物討伐後、またはご結婚後に延期になったとお父さんが話していた。
なんでも、幼い頃から何度か魔獣に狙われているそうなので、挨拶にバルコニーなどに立ったら格好の的になってしまうということらしい。
美男美女と評判のお二人の姿を見られなくて、街の人たちはガッカリしていたようだけど、それでもお祭りは開催され、うちのお父さんもお母さんも、忙しそうに露店と通常店舗を行ったり来たりしていた。
夕方になると、風船も花束も全部売り切れて、露店は店じまい。
店舗も合わせていつもより早めにお店を閉めた。
片付けも終わり、今日お祭りなのに働いてもらった従業員たちに心付けを渡して、今日のお仕事は終わる。
わたしたちは家族3人は夜の食卓を囲んでいた。
「いやあ、今日は忙しかったなあ。でも、王女様の婚約者が見られなかったのは残念だったな」
お父さんはソーセージを摘みながら、豪快にビールを飲んだ。
「そうね。でも、ローゼリア様もお美しいけれど、お相手の方もとても美しい方と噂よ。美しい男の人って、どんな人なのかしらね」
お母さんはわたしに柔らかく煮たポトフのお芋を食べさせながら、自分もポトフを食べている。
「そうだな。でも、前は酷い火傷が顔にあったらしいぞ。それを光の術者が婚約者だからと光の魔法を使って治してもらったらしいぞ」
「王女様が?」
「そうなんじゃないか? 婚約したのは今日だから、ちょっとその話は時間の辻褄が合わないけど、婚約するのがわかっていたから、婚約前に治して差し上げたのかもなあ」
"その火傷のせいで、×××は寂しい思いも、悲しい思いもしてきた。
だから、それをできるだけ取り除いてあげたかった"
わたしの頭の中に、浮かんだ言葉。
うん。きっと、王女様もそんな気持ちで治してあげたんだろうな。
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はニンジンよ」
お母さんはわたしの口にニンジンを入れてくれる。
おいしい。
「うちも、デイヴィス侯爵様のお屋敷に、商品を卸しているけど、チラッとでも一度お顔を見てみたいな。王女様の婚約者を」
ビールを飲んでいい気分になったお父さんが顔を赤くして言う。
「あなた、うちが入れるのは裏口だけでしょう。ご子息を見られるわけないじゃないの」
「そうだよなぁ。ま、ご結婚される時は、幸せそうなお二人が見られるだろうから、それまで待つか」
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はタマネギね」
お母さんに口に入れてもらったごはんは、どれも美味しかった。
それなのに、何故かお腹が痛くなった。
ううん。違う。
お腹じゃない。痛いのは胸だ。
王女様と英雄の婚約の話を聞いただけなのに。
どうして胸が痛いんだろう。
わたしは何が悲しいんだろう。
理由のわからない胸の痛みや、時々泣きながら目を覚ますのは何年も続いた。
前世の家族のことも、記憶は薄れず、セピア色ではあるけれど、わたしの中にしっかりと残った。
でも、わたしは今のお父さんもお母さんも大好きだし、わたしと4歳違いで生まれた弟も大好き。
弟は、またお父さんとお母さんの名前を取ってルフィと名付けられた。
今の家族も大事なのだ。
だから、今の日々を大切に生きることを決めて、元気に暮らしている。
わたしはもうすぐ、10歳になり、来年学校に通うことになる。
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