55 / 255
6章 再生
3
しおりを挟む
翌日、お城から第二王女殿下の婚約が恙無く整ったと発表があった。
お相手はひとつ歳上の侯爵令息で、将来は魔物討伐の英雄になることが決まっている人だそうだ。
本来なら、バルコニーでお二人そろってのお披露目が予定されていたらしいけど、お相手が魔物討伐前の大事なお身体のため、お披露目は魔物討伐後、またはご結婚後に延期になったとお父さんが話していた。
なんでも、幼い頃から何度か魔獣に狙われているそうなので、挨拶にバルコニーなどに立ったら格好の的になってしまうということらしい。
美男美女と評判のお二人の姿を見られなくて、街の人たちはガッカリしていたようだけど、それでもお祭りは開催され、うちのお父さんもお母さんも、忙しそうに露店と通常店舗を行ったり来たりしていた。
夕方になると、風船も花束も全部売り切れて、露店は店じまい。
店舗も合わせていつもより早めにお店を閉めた。
片付けも終わり、今日お祭りなのに働いてもらった従業員たちに心付けを渡して、今日のお仕事は終わる。
わたしたちは家族3人は夜の食卓を囲んでいた。
「いやあ、今日は忙しかったなあ。でも、王女様の婚約者が見られなかったのは残念だったな」
お父さんはソーセージを摘みながら、豪快にビールを飲んだ。
「そうね。でも、ローゼリア様もお美しいけれど、お相手の方もとても美しい方と噂よ。美しい男の人って、どんな人なのかしらね」
お母さんはわたしに柔らかく煮たポトフのお芋を食べさせながら、自分もポトフを食べている。
「そうだな。でも、前は酷い火傷が顔にあったらしいぞ。それを光の術者が婚約者だからと光の魔法を使って治してもらったらしいぞ」
「王女様が?」
「そうなんじゃないか? 婚約したのは今日だから、ちょっとその話は時間の辻褄が合わないけど、婚約するのがわかっていたから、婚約前に治して差し上げたのかもなあ」
"その火傷のせいで、×××は寂しい思いも、悲しい思いもしてきた。
だから、それをできるだけ取り除いてあげたかった"
わたしの頭の中に、浮かんだ言葉。
うん。きっと、王女様もそんな気持ちで治してあげたんだろうな。
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はニンジンよ」
お母さんはわたしの口にニンジンを入れてくれる。
おいしい。
「うちも、デイヴィス侯爵様のお屋敷に、商品を卸しているけど、チラッとでも一度お顔を見てみたいな。王女様の婚約者を」
ビールを飲んでいい気分になったお父さんが顔を赤くして言う。
「あなた、うちが入れるのは裏口だけでしょう。ご子息を見られるわけないじゃないの」
「そうだよなぁ。ま、ご結婚される時は、幸せそうなお二人が見られるだろうから、それまで待つか」
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はタマネギね」
お母さんに口に入れてもらったごはんは、どれも美味しかった。
それなのに、何故かお腹が痛くなった。
ううん。違う。
お腹じゃない。痛いのは胸だ。
王女様と英雄の婚約の話を聞いただけなのに。
どうして胸が痛いんだろう。
わたしは何が悲しいんだろう。
理由のわからない胸の痛みや、時々泣きながら目を覚ますのは何年も続いた。
前世の家族のことも、記憶は薄れず、セピア色ではあるけれど、わたしの中にしっかりと残った。
でも、わたしは今のお父さんもお母さんも大好きだし、わたしと4歳違いで生まれた弟も大好き。
弟は、またお父さんとお母さんの名前を取ってルフィと名付けられた。
今の家族も大事なのだ。
だから、今の日々を大切に生きることを決めて、元気に暮らしている。
わたしはもうすぐ、10歳になり、来年学校に通うことになる。
お相手はひとつ歳上の侯爵令息で、将来は魔物討伐の英雄になることが決まっている人だそうだ。
本来なら、バルコニーでお二人そろってのお披露目が予定されていたらしいけど、お相手が魔物討伐前の大事なお身体のため、お披露目は魔物討伐後、またはご結婚後に延期になったとお父さんが話していた。
なんでも、幼い頃から何度か魔獣に狙われているそうなので、挨拶にバルコニーなどに立ったら格好の的になってしまうということらしい。
美男美女と評判のお二人の姿を見られなくて、街の人たちはガッカリしていたようだけど、それでもお祭りは開催され、うちのお父さんもお母さんも、忙しそうに露店と通常店舗を行ったり来たりしていた。
夕方になると、風船も花束も全部売り切れて、露店は店じまい。
店舗も合わせていつもより早めにお店を閉めた。
片付けも終わり、今日お祭りなのに働いてもらった従業員たちに心付けを渡して、今日のお仕事は終わる。
わたしたちは家族3人は夜の食卓を囲んでいた。
「いやあ、今日は忙しかったなあ。でも、王女様の婚約者が見られなかったのは残念だったな」
お父さんはソーセージを摘みながら、豪快にビールを飲んだ。
「そうね。でも、ローゼリア様もお美しいけれど、お相手の方もとても美しい方と噂よ。美しい男の人って、どんな人なのかしらね」
お母さんはわたしに柔らかく煮たポトフのお芋を食べさせながら、自分もポトフを食べている。
「そうだな。でも、前は酷い火傷が顔にあったらしいぞ。それを光の術者が婚約者だからと光の魔法を使って治してもらったらしいぞ」
「王女様が?」
「そうなんじゃないか? 婚約したのは今日だから、ちょっとその話は時間の辻褄が合わないけど、婚約するのがわかっていたから、婚約前に治して差し上げたのかもなあ」
"その火傷のせいで、×××は寂しい思いも、悲しい思いもしてきた。
だから、それをできるだけ取り除いてあげたかった"
わたしの頭の中に、浮かんだ言葉。
うん。きっと、王女様もそんな気持ちで治してあげたんだろうな。
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はニンジンよ」
お母さんはわたしの口にニンジンを入れてくれる。
おいしい。
「うちも、デイヴィス侯爵様のお屋敷に、商品を卸しているけど、チラッとでも一度お顔を見てみたいな。王女様の婚約者を」
ビールを飲んでいい気分になったお父さんが顔を赤くして言う。
「あなた、うちが入れるのは裏口だけでしょう。ご子息を見られるわけないじゃないの」
「そうだよなぁ。ま、ご結婚される時は、幸せそうなお二人が見られるだろうから、それまで待つか」
「おかあしゃん、おかわり」
「はいはい。次はタマネギね」
お母さんに口に入れてもらったごはんは、どれも美味しかった。
それなのに、何故かお腹が痛くなった。
ううん。違う。
お腹じゃない。痛いのは胸だ。
王女様と英雄の婚約の話を聞いただけなのに。
どうして胸が痛いんだろう。
わたしは何が悲しいんだろう。
理由のわからない胸の痛みや、時々泣きながら目を覚ますのは何年も続いた。
前世の家族のことも、記憶は薄れず、セピア色ではあるけれど、わたしの中にしっかりと残った。
でも、わたしは今のお父さんもお母さんも大好きだし、わたしと4歳違いで生まれた弟も大好き。
弟は、またお父さんとお母さんの名前を取ってルフィと名付けられた。
今の家族も大事なのだ。
だから、今の日々を大切に生きることを決めて、元気に暮らしている。
わたしはもうすぐ、10歳になり、来年学校に通うことになる。
13
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる