もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
49 / 255
5章 別れ

6

しおりを挟む
ルーク様は、うまく魔獣の首を一突きにし、魔獣は絶命した。

ドサッと大きな音を出して、魔獣は倒れた。

よかった。

そう思ったのに、わたしも魔獣と同じように、その場に倒れた。

「ジーナ!」

ルーク様がわたしを抱きとめてくれる。

さっきまで仮面をつけていたのに、今はどこかへ仮面が飛んでいってしまい、わたしがよく見る素顔のルーク様が、泣きそうな顔をしてわたしを覗き込んでいた。

もぉ、大きくなったんだから、泣きそうな顔しないの。

そう言いたいのに声が出ない。

そして、背中がとても冷たい。

冷たい?

あぁ、そうか。
過ぎた痛みは冷たく感じるんだ。
わたしは魔獣の爪で、背中を引き裂かれている。
背中、きっとひどい怪我だ。

だんだんと、指先にも冷たさが広がっていく。

そんなわたしを見て、とうとうルーク様の目から涙が溢れて落ちた。

わたしの顔に落ちた涙だけが、とても暖かく温度を感じることができた。

「ジーナ、ジーナ、きっと助かるから、がんばってくれ」
ルーク様の悲痛な声が聞こえる。

そして、ザワザワと人が集まってくる気配がする。

ほら、ルーク様。
泣いてたらみんなに見られちゃいますよ?

ルーク様は、顔をくしゃくしゃにして、ポロポロと涙を流し続けている。


あぁ、わたし、死んじゃうんだな。

やだな。
ルーク様を残して死んじゃうなんて。

ルーク様の火傷、まだ残っているのに。

わたしは力を振り絞って、ルーク様の顔に手を伸ばした。
ルーク様はわたしの手を取ってくれて、自分の頬に充てる。

わたしは目を閉じて、残りの自分の命を、全て魔力に変えて、ルーク様の火傷に集中させた。

わたしにできる限り、ルーク様の火傷を消してあげたかった。
その火傷のせいで、ルーク様は寂しい思いも、悲しい思いもしてきた。
だから、それをできるだけ取り除いてあげたかった。

ぷつん。

わたしの中で、糸が切れるような感覚があって、わたしが目を開けると、火傷の痕がすべて消えたルーク様の顔があった。

ふふ。
ルーク様のお顔は、ほんとうに綺麗。

その綺麗なエメラルドの瞳から、後からあとから涙がこぼれ落ちてくる。

ポタポタとわたしの頬を暖かい涙が濡らしていく。

「ル…クさ、ま……だ……す、き」

ルーク様、だいすき。

わたしが、言いたかった言葉は、うまく音にならなかった。

もう、目を開けていられない。

せっかく、火傷が全部治って、綺麗なお顔をしているのに、そのお顔で笑ってるところが、見たかった、なぁ……。

「ジーナ! ジーナ、目を開けてくれ!!」

そして、ルーク様の腕に抱かれたまま、わたしの体からは全部の力が抜けてしまった。
もう、心臓も動いていない。

「ジーナぁぁぁぁぁぁ!!!」

もう、震えるはずのないわたしの鼓膜に、ルーク様の絶叫が聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

処理中です...