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5章 別れ
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「模擬剣を本物に掏り替えるなんて……」
わたしはモニカ様の言葉に、ただただ驚くしかなかった。
「ルーク様を殺すつもりはなかったわ。ただ、ルーク様の血のついたものが欲しかったの。うまい具合に、あなたのハンカチにルーク様の血がついた」
あの時ルーク様の血を拭いたハンカチ、どこかに落としてしまったと思っていたのに、モニカ様が持ってたんだ。
「あなたの匂いも、ハンカチにはついているでしょうね」
くすりとモニカ様が笑う。
ぞくっと背筋に冷たい汗がながれた。
はっきりとモニカ様から狂気を感じたのと同時に、騒ぎがすぐ近くまでやってきたことがわかった。
「モニカ様、わたしのことが憎いならそれで構いません。今は逃げましょう」
説得をするわたしの腕をモニカ様が掴む。
そして、スルリと腕を滑らせ、わたしの後ろから首に腕を回してわたしが逃げられないように押さえつける。
そうこうしているうちに、獣の唸り声がだんだんと近くなってくる。
「逃げる? 逃がさないわ。あなたはここで死ぬのよ」
ガウッ!
建物の影から、1メートルはあろうかという魔獣が、わたしの目の前に姿を現した。
魔獣は大きな犬のような、狼のような姿をしていた。
真っ黒な毛で覆われた体に、涎をたらした口だけが、赤く目立っている。
狂犬病を罹ったかのような獣。
逃げなきゃ。
後ずさるわたしの腕をモニカ様が掴んで離さない。
「学園内に魔獣が迷い込むなんて、ツイてないわね? ジーナさん」
魔獣も狂犬のようだけど、モニカ様も狂ってる。
「モニカ様、早く逃げないと魔獣に殺されてしまうわ!」
モニカ様は狂気の笑みを浮かべると、ポケットからあのルーク様の血のついたハンカチを取り出した。
魔獣はそれを目にした途端、纏う空気が変わった。
唸りながら警戒して、わたしたち二人を威嚇している。
威嚇しながら、ジリジリとわたしたちに近付く。
逃げる隙を窺っていると、遠くでドアの開く音がした。
誰かが助けに来てくれたのかもしれない。
わたしが視線を上げると、その瞬間、魔獣は飛び掛かってきた!
「ジーナ!!」
わたしの視界の影から、ルーク様の声がする。
ああ、助けに来てくれたんだ。
でも、声は遠く、魔獣はわたしの目の前だ。
「ぎゃぁぁぁ!」
モニカ様の悲鳴が響き渡る。
魔獣は、わたしより先に、ハンカチを持っていたモニカ様を鋭い爪で引き裂いた。
モニカ様は首をやられてしまい、たくさんの血を噴き出させてその場に倒れた。
拘束がなくなったわたしは、急に身軽になる。
「に、逃げなきゃ」
視界の端に、走ってくるルーク様が見えた。
ルーク様のところへ行かなきゃ。
わたしが弾けたように駆け出した途端、魔獣もわたしを追ってきた。
ルーク様がわたしに向かって手を伸ばす。
わたしはあそこに行かなきゃいけない。
ルーク様の側に!
わたしの後ろ、校舎の二階窓からお兄様が顔を出す。
「ルーク様! 剣を使え!」
多分、お兄様はルーク様に剣を投げたのだと思う。
わたしが目指すルーク様の手に、短剣が落ちてきた。
ルーク様が剣の鞘を抜き、わたしの方へ走りながら振りかぶり、魔獣に剣を突き立てるのと、魔獣がわたしの背中に爪をたてたのは、ほぼ同時だった。
わたしの目の前に、不自然に赤い色が広がる。
それは、魔獣の血だったのか、わたしの血だったのか。
わたしはモニカ様の言葉に、ただただ驚くしかなかった。
「ルーク様を殺すつもりはなかったわ。ただ、ルーク様の血のついたものが欲しかったの。うまい具合に、あなたのハンカチにルーク様の血がついた」
あの時ルーク様の血を拭いたハンカチ、どこかに落としてしまったと思っていたのに、モニカ様が持ってたんだ。
「あなたの匂いも、ハンカチにはついているでしょうね」
くすりとモニカ様が笑う。
ぞくっと背筋に冷たい汗がながれた。
はっきりとモニカ様から狂気を感じたのと同時に、騒ぎがすぐ近くまでやってきたことがわかった。
「モニカ様、わたしのことが憎いならそれで構いません。今は逃げましょう」
説得をするわたしの腕をモニカ様が掴む。
そして、スルリと腕を滑らせ、わたしの後ろから首に腕を回してわたしが逃げられないように押さえつける。
そうこうしているうちに、獣の唸り声がだんだんと近くなってくる。
「逃げる? 逃がさないわ。あなたはここで死ぬのよ」
ガウッ!
建物の影から、1メートルはあろうかという魔獣が、わたしの目の前に姿を現した。
魔獣は大きな犬のような、狼のような姿をしていた。
真っ黒な毛で覆われた体に、涎をたらした口だけが、赤く目立っている。
狂犬病を罹ったかのような獣。
逃げなきゃ。
後ずさるわたしの腕をモニカ様が掴んで離さない。
「学園内に魔獣が迷い込むなんて、ツイてないわね? ジーナさん」
魔獣も狂犬のようだけど、モニカ様も狂ってる。
「モニカ様、早く逃げないと魔獣に殺されてしまうわ!」
モニカ様は狂気の笑みを浮かべると、ポケットからあのルーク様の血のついたハンカチを取り出した。
魔獣はそれを目にした途端、纏う空気が変わった。
唸りながら警戒して、わたしたち二人を威嚇している。
威嚇しながら、ジリジリとわたしたちに近付く。
逃げる隙を窺っていると、遠くでドアの開く音がした。
誰かが助けに来てくれたのかもしれない。
わたしが視線を上げると、その瞬間、魔獣は飛び掛かってきた!
「ジーナ!!」
わたしの視界の影から、ルーク様の声がする。
ああ、助けに来てくれたんだ。
でも、声は遠く、魔獣はわたしの目の前だ。
「ぎゃぁぁぁ!」
モニカ様の悲鳴が響き渡る。
魔獣は、わたしより先に、ハンカチを持っていたモニカ様を鋭い爪で引き裂いた。
モニカ様は首をやられてしまい、たくさんの血を噴き出させてその場に倒れた。
拘束がなくなったわたしは、急に身軽になる。
「に、逃げなきゃ」
視界の端に、走ってくるルーク様が見えた。
ルーク様のところへ行かなきゃ。
わたしが弾けたように駆け出した途端、魔獣もわたしを追ってきた。
ルーク様がわたしに向かって手を伸ばす。
わたしはあそこに行かなきゃいけない。
ルーク様の側に!
わたしの後ろ、校舎の二階窓からお兄様が顔を出す。
「ルーク様! 剣を使え!」
多分、お兄様はルーク様に剣を投げたのだと思う。
わたしが目指すルーク様の手に、短剣が落ちてきた。
ルーク様が剣の鞘を抜き、わたしの方へ走りながら振りかぶり、魔獣に剣を突き立てるのと、魔獣がわたしの背中に爪をたてたのは、ほぼ同時だった。
わたしの目の前に、不自然に赤い色が広がる。
それは、魔獣の血だったのか、わたしの血だったのか。
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