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5章 別れ
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結局、学園が躍起になって犯人探しをしていたけれど、剣を真剣に取り替えた犯人は捕まらない。
わたしの体調はと言えば、例によって例の如く、ぐっすりと惰眠を貪ったら見事に回復した。
寮に戻ってから、半日は目を覚さなかった。
ルーク様の方はというと、しばらく貧血気味なようだったけど、肉をたくさん食べさせて、よく眠るようにしたら少しずつ顔色も良くなって、今では元通りだ。
生徒を不安にさせないためだと思うけど、学園は何もなかったかのように授業をしている。
ルーク様を狙ったものではないと、学園は結論付けた。
この国の希望となる英雄を、殺そうとするはずがないと。
でも、わたしはやっぱりルーク様を狙ったものなんじゃないかと考えている。
確証はないけど、ローゼリア様とのお話を断った直後って、出来過ぎじゃない?
ただ、動機がわからない。
婚約を断られたからって、相手を殺したら婚約できないじゃない。
それとも、腹いせ?
腹いせで殺すには、ルーク様の英雄という立場を考えると、どうしても結びつかない。
「ジーナ、眉間にシワが寄ってるぞ」
机に頬杖をついて、考え事をしていたらルーク様が横に立ち、わたしの眉間を指でくりくり触った。
「授業でわからないところでもあったか?」
どうやらわたしは、授業中からずっと難しい顔をして、このポーズでいたらしい。
教室の中はざわざわとしていて、みんな次の教科の支度をしている。
「いいえ。なんでもないです。授業でわからないところはありませんよ」
わたしがそう言うと、ルーク様は真剣な顔をした。
「あのことを考えているなら、やめた方がいい。多分、あれはオレを狙っていた。ジーナはもう首を突っ込むな」
ルーク様はわたしの前の席の子が、休み時間でよそのクラスに行っているのをいいことに、そこに座った。
「オレは、将来のために大怪我をしても王宮がなんとかしてくれる。だから、オレのことは構わず、ジーナは安全なところに居てくれ」
「でも、大怪我をしたら痛いんですよ。いくら王宮から最高の光の術者が来てくれたって、怪我が治るまではとても痛いんです。だったら、ルーク様も怪我をしないようにした方がいいでしょう?」
ルーク様は優しげな瞳で微笑む。
仮面の奥に、透き通るようなエメラルドの瞳が見えた。
「でも、生きていれば痛みに耐えるくらい、どうということはない。もしも、ジーナに何かあったら、オレだって生きては行けないからな。例え、この国が滅びようとも、ジーナがいないのならばオレには関係ない」
わたしは少し眉を吊り上げた。
「そんなことを言ったらダメです。わたし以外にもルーク様には、大切なものはたくさんありますよ。お父様、お母様、弟様、それにデイヴィス家の使用人。それから、うちのお兄様、お姉様。あと、今までがんばってきた剣術。わたし、知ってますよ。ルーク様、魔物討伐が無事に終わったら、騎士になりたいんでしょ? そのために、騎士に必要な訓練も平行してやってるってお兄様が言ってました」
「……義兄上のおしゃべり」
「だから、ルーク様の大事なものは全部守れるように、危険な芽は摘んじゃいましょう!」
ルーク様は、あきれたような、それでいて、仕方ないなあと笑っているような、そんな顔でわたしの話を聞いていた。
「そういえば、今日はモニカは休みなんだな」
キョロキョロと辺りを見回して、ルーク様が言う。
「なんですか? 気になるんですか?」
浮気するなら許しませんよ?
「いや、気になるわけじゃなくて、モニカの顔を見るとローゼリアを思い出すからな。あんまり近寄りたくないんだ。だから、つい避けるために、モニカがどこにいるのか確認する癖がついていて……」
ルーク様にそう言われて、思い返せば確かにモニカ様がこちらに近付く前に、ルーク様はわたしを連れてモニカ様から離れていた。
「そんな風に避けているなんて、知りませんでした」
「ほんとに不快感しか沸かないからな。あのふたりには」
そうですね。
いない方が、静かでいいですね。
わたしの体調はと言えば、例によって例の如く、ぐっすりと惰眠を貪ったら見事に回復した。
寮に戻ってから、半日は目を覚さなかった。
ルーク様の方はというと、しばらく貧血気味なようだったけど、肉をたくさん食べさせて、よく眠るようにしたら少しずつ顔色も良くなって、今では元通りだ。
生徒を不安にさせないためだと思うけど、学園は何もなかったかのように授業をしている。
ルーク様を狙ったものではないと、学園は結論付けた。
この国の希望となる英雄を、殺そうとするはずがないと。
でも、わたしはやっぱりルーク様を狙ったものなんじゃないかと考えている。
確証はないけど、ローゼリア様とのお話を断った直後って、出来過ぎじゃない?
ただ、動機がわからない。
婚約を断られたからって、相手を殺したら婚約できないじゃない。
それとも、腹いせ?
腹いせで殺すには、ルーク様の英雄という立場を考えると、どうしても結びつかない。
「ジーナ、眉間にシワが寄ってるぞ」
机に頬杖をついて、考え事をしていたらルーク様が横に立ち、わたしの眉間を指でくりくり触った。
「授業でわからないところでもあったか?」
どうやらわたしは、授業中からずっと難しい顔をして、このポーズでいたらしい。
教室の中はざわざわとしていて、みんな次の教科の支度をしている。
「いいえ。なんでもないです。授業でわからないところはありませんよ」
わたしがそう言うと、ルーク様は真剣な顔をした。
「あのことを考えているなら、やめた方がいい。多分、あれはオレを狙っていた。ジーナはもう首を突っ込むな」
ルーク様はわたしの前の席の子が、休み時間でよそのクラスに行っているのをいいことに、そこに座った。
「オレは、将来のために大怪我をしても王宮がなんとかしてくれる。だから、オレのことは構わず、ジーナは安全なところに居てくれ」
「でも、大怪我をしたら痛いんですよ。いくら王宮から最高の光の術者が来てくれたって、怪我が治るまではとても痛いんです。だったら、ルーク様も怪我をしないようにした方がいいでしょう?」
ルーク様は優しげな瞳で微笑む。
仮面の奥に、透き通るようなエメラルドの瞳が見えた。
「でも、生きていれば痛みに耐えるくらい、どうということはない。もしも、ジーナに何かあったら、オレだって生きては行けないからな。例え、この国が滅びようとも、ジーナがいないのならばオレには関係ない」
わたしは少し眉を吊り上げた。
「そんなことを言ったらダメです。わたし以外にもルーク様には、大切なものはたくさんありますよ。お父様、お母様、弟様、それにデイヴィス家の使用人。それから、うちのお兄様、お姉様。あと、今までがんばってきた剣術。わたし、知ってますよ。ルーク様、魔物討伐が無事に終わったら、騎士になりたいんでしょ? そのために、騎士に必要な訓練も平行してやってるってお兄様が言ってました」
「……義兄上のおしゃべり」
「だから、ルーク様の大事なものは全部守れるように、危険な芽は摘んじゃいましょう!」
ルーク様は、あきれたような、それでいて、仕方ないなあと笑っているような、そんな顔でわたしの話を聞いていた。
「そういえば、今日はモニカは休みなんだな」
キョロキョロと辺りを見回して、ルーク様が言う。
「なんですか? 気になるんですか?」
浮気するなら許しませんよ?
「いや、気になるわけじゃなくて、モニカの顔を見るとローゼリアを思い出すからな。あんまり近寄りたくないんだ。だから、つい避けるために、モニカがどこにいるのか確認する癖がついていて……」
ルーク様にそう言われて、思い返せば確かにモニカ様がこちらに近付く前に、ルーク様はわたしを連れてモニカ様から離れていた。
「そんな風に避けているなんて、知りませんでした」
「ほんとに不快感しか沸かないからな。あのふたりには」
そうですね。
いない方が、静かでいいですね。
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