もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
45 / 255
5章 別れ

2

しおりを挟む
保健室で、隣のベッドに寝かされたわたしたち。

目が覚めると、隣からルーク様がわたしをじっと心配そうに見ていて、自分も貧血なのに、わたしの目が開いたのがわかると、横になっていたベッドから降りて、すごい勢いでわたしのベッドに張り付いた。

「バカジーナ!!」
「な、なんですかぁ。いきなり」
「オレは大丈夫だって、言おうとしたのにオレにはしゃべらせないで、勝手に治療して勝手に倒れて! どれだけオレが心配したと思ってるんだ!」
え、だってルーク様、血の気が引いてぐったりしてたじゃないですか……。

反論したくても、大きく成長したのに泣きそうな顔をしているルーク様に口答えすることもできなくて……。
「ごめんなさい」
わたしが素直に謝ると、奥からお兄様とお姉様がやってきた。

「そうよ、ジーナ。魔力切れだとわかっていても、倒れたらみんな心配するわ」
ベッドから身を起こすと、お姉様はわたしの頭を胸に抱いて撫でてくれた。
それは、お母様がよくやってくれたことで、とても安心する。

「まあ、ジーナが心配するのもわかるけどな。あの時のルーク様は、ちょっと出血が多くて心配した」
お兄様も安心したように、わたしに笑いかけた。

「お兄様、本物の剣が混ざっていたと聞きました。本物が混ざるってどうしてですか? 学園内に、本物の剣はたくさん存在するのですか?」
だとしたら、今後の剣技の授業はとても心配だ。

お兄様は難しい顔をした。
「それなんだよな。学園にある真剣は、警護が持つものに限定される。しかも、護衛が持つものには学園章が刻まれているからすぐにわかるはずなんだけど、混入していた真剣には学園章が刻まれてなかっただけでなく、模擬剣とまったく同じ造りだったんだ」
「それって、どういう……」
「狙って、真剣が混入されたと考えるのが正解だと思う」

狙って?
本物で斬り合いをしたら、死んじゃうのに?

「適当に混入されたんなら愉快犯だが、狙ってルーク様の対戦相手の剣とすり替えられていたとしたら、ルーク様が狙われたことになる」
「ルーク様の今日の対戦相手って、事前にわかっていたものなの?」
「もちろん。模擬剣とはいえ、あたったら痛いから、実力の近い者が対戦するようになっているんだ。今日の対戦相手は、先週からわかっていた。それに、模擬剣は使う者の身長に合わせて長さが違うから、狙ってすり替えられたと考える方が自然だ」

そんな……。
ルーク様を狙って得する人なんているの?
ルーク様が死んじゃったら、魔物討伐はできないかもしれないのに。

わたしが考えていると、お兄様がわたしの頭にぽんぽんと触れた。
「ジーナ、今学園が犯人を探しているから難しいことは考えるな。昔魔力切れを起こした時は丸一日寝ていただろう? 今日はまだ4時間しか寝ていない。部屋に帰ってゆっくり休むんだ」
「はい。お兄様」
ベッドから降りようとすると、ルーク様がベッド横に座り込む。
「ジーナ、オレの背に」

ええっ!
ルーク様におんぶなんてできないよぉ。

お兄様を振り返り、目線で助けを求める。
「あー、ルーク様。ジーナはオレがおんぶするからルーク様もそのまま自分の寮に帰れ」
「えっ、なんで」
ルーク様はお兄様に捨てられた子犬のような目線を向ける。

「うっ、そんな目をしてもダメだ。保健医も言っていただろう? ルーク様も貧血なんだから、早く自室に帰って薬を飲んで休むようにと」
「……ジーナを送って行くくらいできます」
「ダメだ。帰れ」

お兄様に弱いルーク様は、渋々お兄様に従った。

お兄様がわたしをおんぶしたのを見て、お姉様も立ち上がる。
「では、わたくしは保健医にふたりが帰ったと伝えてきますわ。先ほどの治療の時に目が覚めたら連れて帰って良いと言われてましたけど、一応念のために」

そうして、みんな保健室を後にした。

ルーク様は女子寮男子寮の分かれ道に来るまで、ずっとブツブツ言っていたけど、お兄様に睨まれてしょんぼりと首を落として男子寮に帰って行った。

お兄様はルーク様の後ろ姿を見送ると、「行くぞ」と言って女子寮に向かって歩き出した。

「ジーナ、オレはおまえがルーク様の婚約者でいることは反対しない。ルーク様が魔物討伐に行く時には、光の術者は同行しないと聞いている。ルーク様に加護を与えて、帰ってきたルーク様が怪我をしていたら治療するのが役目と聞いている。だが、もし万が一、討伐以外でもルーク様と一緒に危険な目に合うことがあれば、おまえは自分の身を守れ」

わたしはお兄様の背中にいるので、お兄様がどんな表情をしているのか見えない。
「お兄様?」
「ルーク様は英雄になる方だ。ルーク様に何かあれば、国一番の光の術者が来て、ルーク様を救おうとするだろう。だが、ジーナ、おまえはこの国にとっては取り替えがきく人間なんだ。おまえがダメなら別の光の術者にルーク様の婚約者を挿げ替えればいい」

確かに、ローゼリア様に替えられそうな今、それは痛いほどよくわかる。

「でもな、ジーナ。オレたちにとっては、おまえは誰の代わりにもならない、オレのかわいい末の妹だ。だから、ちゃんと自分を守ってくれ」

お兄様はいつもちゃかした言い方しかしない。
そのお兄様が、真剣な声でそう言うそれは、とても重みのあることだ。

「……はい。お兄様」

だから、わたしは素直に返事をするしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

転生したら災難にあいましたが前世で好きだった人と再会~おまけに凄い力がありそうです

はなまる
恋愛
現代世界で天鬼組のヤクザの娘の聖龍杏奈はある日父が連れて来たロッキーという男を好きになる。だがロッキーは異世界から来た男だった。そんな時ヤクザの抗争に巻き込まれて父とロッキーが亡くなる。杏奈は天鬼組を解散して保育園で働くが保育園で事件に巻き込まれ死んでしまう。 そしていきなり異世界に転性する。  ルヴィアナ・ド・クーベリーシェという女性の身体に入ってしまった杏奈はもうこの世界で生きていくしかないと心を決める。だがルヴィアナは嫉妬深く酷い女性で婚約者から嫌われていた。何とか関係を修復させたいと努力するが婚約者に好きな人が出来てあえなく婚約解消。そしてラノベで読んだ修道院に行くことに。けれどいつの間にか違う人が婚約者になって結婚話が進んで行く。でもその人はロッキーにどことなく似ていて気になっていた人で…

処理中です...