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5章 別れ
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ルーク様が王宮に呼び出されてから、また何か言われるのではないかとドキドキしながら日常を過ごしていたけど、まだ、何も動きはない。
ローゼリア様に邪魔されないようにするには、どうしたらいいのかしら。
わたしたちが婚姻可能な年齢に達していたら、すぐに籍を入れてしまうのに、生憎ルーク様は12歳になったばかりで、わたしはまだ11歳だ。わたしももうすぐ12歳になるけれど、それでもまだ4年足りない……。
そんなことを考えながら、わたしたち女子がマナーの授業を受けている時、運動場の方からざわざわと、ざわめきが聞こえた。
授業中に珍しい。
走って行く男子生徒を捕まえて、ジョアンナ女史が注意をする。
「なにごとですか! 廊下は走るものではありません」
男子生徒は、すぐに謝った。
「申し訳ありません。剣技の授業を受けていたのですが、模擬剣の中に刃が潰されていない剣が混ざっていたらしく、ルーク・デイヴィスが怪我をしたんです。保険医を呼びに行きますので、ご容赦ください」
「まあ……!」
学園始まって以来の出来事なので、ジョアンナ女史は驚いて両手で口を覆い、顔を青くする。
そして、わたしはその話を聞いて、マナーの教室を飛び出していた。
ルーク様が怪我をしている。
それを聞いたら、いても立ってもいられなかった。
室内履きのまま、競技場へ行くと、その端っこに人だかりが見えた。
きっと、あそこにルーク様がいる。
人をかき分けて中心に行くと、ルーク様を支えているお兄様と、目が合った。
「ジーナこっちだ。急げ!」
お兄様の声でみんながわたしに気付くと、道を開けてくれる。
急いでルーク様の側に行くと、ルーク様の左腕こら血が流れていた。
「ルーク様と対戦したヤツが持っていた剣が、刃が潰されていない剣だったんだ」
お兄様がわたしにルーク様の傷口を見せながら言う。
「出血は多いですが、傷は深くなさそうですね」
ルーク様も、意識はしっかりしていたが、出血が多いので顔からは血の気が引いていた。
何か話そうと口を開けるので「ルーク様は黙ってて!」としゃべらせないようにして、わたしは意識を集中した。
光の魔法を使うには、集中力が必要だ。
腕にはたくさんの血管が通っている。
血の道筋をつないで、外へ血液を出さないように。
筋は切れていないようだわ。
傷を合わせて塞ぎ、皮膚を閉じるよう念じる。
わたしが力を込めると、スゥーっと傷口が消えて行った。
わたしは持っていたハンカチでルーク様の腕にあて血を拭い、ちゃんと傷が塞がっていることを確認した。
「お兄様、出てしまった血液は戻すことはできません。おそらく、貧血を起こすと思いますので、保健室に連れて行って、休ませてあげてください」
「わかった」
お兄様は返事をするのと同時に、ルーク様を背負って保健室へと走って行った。
それを見送ったわたしは、反対に気が抜けてしまったのと、魔力を使いすぎてしまい、その場で倒れてしまった。
ルーク様のために呼ばれてきた保健医が、わたしを背負って保健室に帰ったという。
この時、わたしの意識はほとんどなく、持っていたはずのハンカチはわたしの手をするりと擦り抜け、競技場に落ちた。
ローゼリア様に邪魔されないようにするには、どうしたらいいのかしら。
わたしたちが婚姻可能な年齢に達していたら、すぐに籍を入れてしまうのに、生憎ルーク様は12歳になったばかりで、わたしはまだ11歳だ。わたしももうすぐ12歳になるけれど、それでもまだ4年足りない……。
そんなことを考えながら、わたしたち女子がマナーの授業を受けている時、運動場の方からざわざわと、ざわめきが聞こえた。
授業中に珍しい。
走って行く男子生徒を捕まえて、ジョアンナ女史が注意をする。
「なにごとですか! 廊下は走るものではありません」
男子生徒は、すぐに謝った。
「申し訳ありません。剣技の授業を受けていたのですが、模擬剣の中に刃が潰されていない剣が混ざっていたらしく、ルーク・デイヴィスが怪我をしたんです。保険医を呼びに行きますので、ご容赦ください」
「まあ……!」
学園始まって以来の出来事なので、ジョアンナ女史は驚いて両手で口を覆い、顔を青くする。
そして、わたしはその話を聞いて、マナーの教室を飛び出していた。
ルーク様が怪我をしている。
それを聞いたら、いても立ってもいられなかった。
室内履きのまま、競技場へ行くと、その端っこに人だかりが見えた。
きっと、あそこにルーク様がいる。
人をかき分けて中心に行くと、ルーク様を支えているお兄様と、目が合った。
「ジーナこっちだ。急げ!」
お兄様の声でみんながわたしに気付くと、道を開けてくれる。
急いでルーク様の側に行くと、ルーク様の左腕こら血が流れていた。
「ルーク様と対戦したヤツが持っていた剣が、刃が潰されていない剣だったんだ」
お兄様がわたしにルーク様の傷口を見せながら言う。
「出血は多いですが、傷は深くなさそうですね」
ルーク様も、意識はしっかりしていたが、出血が多いので顔からは血の気が引いていた。
何か話そうと口を開けるので「ルーク様は黙ってて!」としゃべらせないようにして、わたしは意識を集中した。
光の魔法を使うには、集中力が必要だ。
腕にはたくさんの血管が通っている。
血の道筋をつないで、外へ血液を出さないように。
筋は切れていないようだわ。
傷を合わせて塞ぎ、皮膚を閉じるよう念じる。
わたしが力を込めると、スゥーっと傷口が消えて行った。
わたしは持っていたハンカチでルーク様の腕にあて血を拭い、ちゃんと傷が塞がっていることを確認した。
「お兄様、出てしまった血液は戻すことはできません。おそらく、貧血を起こすと思いますので、保健室に連れて行って、休ませてあげてください」
「わかった」
お兄様は返事をするのと同時に、ルーク様を背負って保健室へと走って行った。
それを見送ったわたしは、反対に気が抜けてしまったのと、魔力を使いすぎてしまい、その場で倒れてしまった。
ルーク様のために呼ばれてきた保健医が、わたしを背負って保健室に帰ったという。
この時、わたしの意識はほとんどなく、持っていたはずのハンカチはわたしの手をするりと擦り抜け、競技場に落ちた。
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