もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
43 / 255
5章 別れ

王女の企み

しおりを挟む
ルークのヤツ!
お父様にもお母様にもお兄様にもお願いして、ルークを婚約者にしてやろうと思ったのに。

最初に話を持ち掛けたデイヴィス侯爵と夫人は、ジーナなんかに感謝していて、ルークが真っ当に育ったのはジーナのおかげだから、本人達の意思ではない限り、王家との婚約には同意しないと言って、わたくしの話をはねつけた。

ミラー子爵は絶対に侯爵家と縁続きになる婚約を解消しないだろうと、デイヴィス侯爵に話を持ち掛けたのに!
普段、表情も出さずにルークを大事にしている素振りも見せないくせに、息子思いの親なんか気取って!

それならルーク本人に、このままジーナと婚約を続けるのなら、魔物討伐が成功しても失敗しても、ルークにはなんの功績にもならないようにしたというのに、それでもあの小娘がいいと言う。
このままでは、本当にペルジャ国に嫁がされてしまう。

ペルジャ国からは、第二王女が嫁ぐなら、石油の輸出を優遇しようと言われている。
そして、理由もなく断れば、輸出量を減らすと言われた。

わたくしが、国内のそこいらの貴族に降嫁しようものなら、ペルジャ国は怒って輸出を制限するだろう。

だが、わたくしが光の術者で、国を守る英雄と結婚せざるを得ないというのなら、ペルジャ国も黙って引き下がってくれる。

魔物に打ち勝てず、国が大打撃を受ければ、ペルジャ国にだって影響がある。
その言い訳なら、間違いなく愚鈍な王太子との結婚から逃れられるはず。

愚鈍な王太子とルークなら、比べるまでもなくルークだ。
ルークに嫁げば、国内だからお父様やお兄様の権力を使うことができる。
わたくしは絶対に、この国から出たくない。
いったい、どうすれば……。

わたくしは爪を噛み、イライラとテーブルの紅茶を眺めた。

「ローゼリア様、紅茶、別の種類にお取り替えしましょうか?」
モニカがわたくしのご機嫌を取るように、紅茶を下げた。

モニカは、今は男爵令嬢だけど、数年前まで侯爵令嬢として教育を受けただけあって、わたくしに対する態度ができているから側に置いている。
東棟への出入りも自由にできるようにしてある。

わたくしは東棟の応接室を毎日借り切って、ここで過ごしている。
寮生活も真っ平だったけれど、休み時間もあんな狭い教室で過ごすなんて嫌だった。
食事も、どうしてわたくしが下々の貴族とも一緒に取らなければならないのか。

はぁ。お姉様はいいわ。
隣国の王子はとても美しい青年だと聞いている。
お姉様と我が国という後ろ盾を得て、王子は王太子となることも決まった。
だから、隣国のお妃教育を我が国で受けるようにして、学園には入学しなかったのだから。
わたくしだって、隣国の王太子に嫁ぐのなら文句は言わない。
何故、ペルジャ国なのか。

考えるだけでイライラするわ。

暖かな日差しを、レースのカーテンが遮る中、モニカがコポコポと紅茶を入れる音すら、勘に触る。

カチャ、とわずかな音を立ててわたくしの前に紅茶が置かれた。

「ローゼリア様。いっそ、ジーナを消してしまったら、ルーク様の婚約者の座はローゼリア様のものになるのではないですか?」
淑女の笑みを浮かべて、優雅にモニカが話し出す。

「社交界から消してしまうにも、ミラー子爵に失態がなければ、いくら王家でも消すことはできないわよ」
イライラして強い言い方でそう言った後、気を落ち着かせようと、わたくしは紅茶を一口飲んだ。

カップをソーサーに戻したのを見て、モニカがわたくしに近付いてくる。

「社交界からではございませんわ。物理的に、この世から消してしまうのですわ」
ちょっとした悪戯を提案する子どものような笑顔で耳打ちをする。

「殺してしまえば、ジーナはルーク様と結婚できません」

殺す?
ジーナが死ぬのは構わないが、わたくしは手を下すことはできない。

「わたくしが殺したことがわかれば、どんなことになるか……。人を雇うにしても、お金はあっても伝手がないわ」

わたくしがそう言うと、モニカはわたくしの足元に跪いて、わたくしの手を取った。

「ローゼリア様。わたくしはローゼリア様の忠実なしもべ。わたくしなら伝手がありますわ」

はっと、息を呑む。

モニカは本気だ。
ジーナを殺そうとしている。

モニカは侯爵家の令嬢だった頃、ルークに婚約を申し込んだ。
ジーナとの婚約を破棄させて、ルークとモニカが婚約を結べれば、モニカの地位は侯爵令嬢のままだっただろう。
そのことで、モニカは殺したいほどジーナを憎んでいる。

笑みを浮かべて、わたくしに忠誠を誓うモニカ。

知っているわ。
わたくしを口実に、ジーナを殺したがっていることを。

「わかったわ。モニカ、あなたに任せましょう。うまくいったら……そうね。ご褒美をたくさん用意させますわね」

モニカは満足したように、口角を上げた。

「では、ローゼリア様。わたくしに王宮の蔵書閲覧の承認書をくださいませ。調べたいことがございます」
「いいでしょう。明日にでも用意させます」

今日城に帰ったら侍女に承認証書を作らせないと。
ああ、でも信用できる腹心の侍女にやらせないとダメね。
モニカとの繋がりが露見したら不味いわ。


もし、モニカが失敗した時は切り捨てられるように、しばらくはモニカを連れて東棟に来るのはやめましょう。

モニカが一人でやったことならば、わたくしに火の粉がかかることはないはずよ。
わたくしは、お父様とお兄様に溺愛される姫なのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...