もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
42 / 255
4章 そして運命の歯車は回り出す

9

しおりを挟む
翌日、わたしは腕に湿布をして包帯を巻き、何食わぬ顔で登校した。

ルーク様は寮まで迎えに来てくださって、今度はローゼリア様から呼び出しを喰らっても、絶対に一人で行かないように念を押された。

その日は、前の日の夜のように、ルーク様が甲斐甲斐しくわたしの世話を焼いてくださって、ちょっと周りの人たちの目線が怖かった。

冷やかす男子、嫉妬で焦げ付きそうな目線の女子。
ただ、ルーク様はわたし一人を生涯婚約者とすると、名言しているため、直接手を出そうとするのはローゼリア様くらいなものなので、わたしの身に危険は無い。……と思っている。

ぼんやりとその日の授業を受けていると、ノックの音がして、いきなり学園長が教室にやってきた。

黒板に板書していた手を止めて、教諭が学園長と一言二言話すと、教諭はルーク様を呼んだ。
「ルーク・デイヴィス、ちょっとこちらに」

欠伸をしていたルーク様は、立ち上がり教諭の元へ歩いて行った。
ルーク様は廊下に出て、多分学園長と話をしたんだと思うけど、すぐに教室に戻ってきて、自分の席に行って帰り支度を始めた。
鞄を持って、教室を出て行こうとする。
わたしの机の横を通り過ぎる時に「連絡する」と、小さい声で言って、教室を出て行った。

なんだったのかしら?

ルーク様が出て行った後は、教室のドアは閉められ、教諭は何事もなかったかのように授業を再開した。

ルーク様不在で授業が終わり、放課後になってもルーク様は戻って来なかった。
心配だけど、学園長が連れて行ったのだし、大丈夫だと思うけど……。


夜、寮の自室で腕の湿布を剥がしていると、また窓からコンコンと音がした。

「もおっ! ルーク様、ちゃんと玄関から入ってきてください」
今日はわたしが怒りながら窓を開けると、ルーク様は難しい顔をして、わたしの抗議は聞こえなかったかのように、窓を越えて部屋に入ってきた。

そのまま、難しい顔をして部屋に備え付けのテーブルセットのイスに腰掛けた。
「ルーク様? 難しいお顔をなさってどうしたんですか?」

怒っていたことも置いておいて、わたしも隣のイスに腰掛けた。

ずるずると背もたれに寄りかかり、ルーク様は仮面を取る。
「今日、授業の途中で呼び出されたろ? あれ、ローゼリアの仕業だった」
「ええっ」
「国王からの呼び出しで、学園からそのまま王城へ連れて行かれたんだ」
わたしは真剣にルーク様のお顔を見た。

「謁見の間には、国王と王妃、王太子とローゼリアがいた。それで、国王から婚約者をローゼリアに変えるように打診があったんだ。モニカの時も同じようなことがあったけど、あの時はまだオレの両親も同席してた。でも、今回話を聞かされたのは、オレひとりだった」

やっぱり、王族はお腹の中は真っ黒なのかも……。
爽やかな振りして、どんな目でわたし達のことを見ていたんだろう。

「お互い、大きくなって成長し、周りもよく見えてきただろう。何が1番良いことか、判断できる歳になった。だから、もう一度問う。ミラー子爵家の次女との婚約を破棄し、ローゼリア第二王女と婚約をするべきではないか、と。そう言われた」

ルーク様は身を起こし、テーブルに両肘をつき、頭を抱えた。

「もちろん、オレは婚約を破棄するつもりも、ローゼリア第二王女と婚約するつもりもないと伝えた。そうしたら、もし、オレが魔物討伐で命を落としても、デイヴィス侯爵家にはなんの補償もしないと。逆に、討伐が成功しても、陞爵させることはないと、そう言われた」

まあっ!
なんて酷いことを!
命を賭して国を守ろうとする者に言うことばなの!?

ルーク様は向かいに座っているわたしの手を取る。
「ごめん。ジーナ。それでもオレは、ジーナとの婚約は解消しないと、そう言ってしまったんだ。オレが生き残って陞爵されなくてもそれはいい。でも、もし失敗してオレが命を落とした時、君には何も残らない」

ルーク様に掴まれた手を、もう片方の手で覆う。
ちょっとまだ右手が痛いけど、無視だ。

「ルーク様、婚約を解消しないでくれてありがとうございます。わたしに何も残らないなんて、そんなことはないですよ。だって、ルーク様は死なないもの。ルーク様が小さい頃から剣の腕を磨いてきたことは、わたしはよく知っています。今だって、学園の授業が終わると、剣の先生のところへ行って、暇があれば剣の稽古をしていることも知っています。今から討伐隊の編成を考えて、うちのお兄様に相談していることも知ってます。だから大丈夫です。絶対に、わたしの手に何も残らないことはありません。ルーク様が残ってくださいます」
「ジーナ……」

ルーク様は潤んだ瞳をして、いきなり立ち上がりわたしを引き寄せて抱きしめた。

「ルーク様……」
地味に右手が痛いです。

でも、わたしは何も言わずに、ルーク様の背中に両腕を回した。

ルーク様は抱きしめたまま、わたしの耳元で言う。
「ジーナ。義兄上から何を聞いたって?」
「え?」
「他には? 他には何も聞いていないな?」
「は、はいっ」
そういえば、お兄様からルーク様にしゃべるなって言われてたんだっけ。
ルーク様は、あまり努力を人に見せたがらないタイプだから、知らん顔しとけって言われてた。

ふっと、頭上でルーク様が笑う気配がして上を向くと、微笑んでいるルーク様と目が合った。

ポンポンと、頭を撫でられ、ルーク様はまたイスに腰掛けた。

「ジーナごめん。少し取り乱した。そうだよな。オレが死ななきゃいい話だな。心配させて悪かった。右腕も、痛かったろう? 気が遣えず悪かった」
ルーク様がそっと、労るように右腕を手に取った。
「大丈夫ですよ。たかがムチですから。今日聞いた話だと、家族間でも躾と称してムチを使うところもあるそうですし、一晩冷やしたら腫れも引いてきましたし」
まあ、躾だったら手加減というものがあるだろうが、ローゼリア様は思いっきり振り下ろしてたけどね。

「夜中に騒がせて悪かった。おやすみ。いい夢を」
ルーク様はまたわたしの額にキスをして、窓を越えて出て行った。

来た時とは違う明るい表情で帰って行くルーク様の背中を見て、わたしは少し安心した。

「ちぇっ。今日はくちびるじゃなかったか」









*****************


もう一度あなたに逢いたくて をお読みいただきありがとうございます。
拙い作品ですが、更新後にしおりが動いているのを見ると、読んでくださっているんだなあと実感できて、とても嬉しく思っています。

明日からは我慢の展開が待ち受けていますが、懲りずにお読みいただけたら幸いです。

今後とも、もう一度あなたに逢いたくて をよろしくお願いします。

雪野結莉
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...