もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
上 下
39 / 255
4章 そして運命の歯車は回り出す

6

しおりを挟む
ルーク様は、ローゼリア様の言うことを鼻で笑った。

「何が婚約だ。オレとの婚約を断ってきたのはそっちだろ」
ローゼリア様は、ルーク様の冷たい視線をものともせず、淡々と話す。

「おまえのその顔が気持ち悪かったのだから、しようがあるまい。でも治すことができ、もうじき跡も全部消える。おまえは学園での成績もいいようだし、傷跡さえなければ顔も悪くはない。剣も一回生で剣術大会三位と聞く。わたくしが降嫁するとしても、侯爵家ならば公爵に爵位を上げることもできる。おまえとて、子爵のような平民に近い身分の者より、わたくしのように美しく血筋も確かなものと婚姻を結ぶ方がどれだけ良いか」

ルーク様はわたしを後ろ手に隠したまま、わたしの手を握る。
「あいにくだが、爵位が上でも下でも関係ない。オレはジーナとの婚約を破棄しない」
「それではわたくしが困る」

困る?
「それは何故だ?」
わたしの疑問をルーク様がローゼリア様に投げかける。

「わたくしにも婚約の話が出てきている。ソフィアお姉様は隣国の第一王子との婚約が決まっている。第一王子は、お姉様との婚約を持って、王太子となることが決まっている。わたくしは光の術者だから、ルークがジーナとの婚約を万が一破棄した時に婚約できるように、婚約者を決めていなかった。だが、ルークがもう12歳になるというのに、ジーナとの婚約は破棄されない。王室はもうルークがこのままジーナとの婚姻をすることを認め、わたくしが英雄に光の加護を与える役目を諦めたのだ」

いやあ、まだローゼリア様との婚約を王室が企んでいたとはびっくり。

にこやかにわたしたちミラー子爵家を応援する一方、隙があればローゼリア様をルーク様の婚約者に再度推そうと思っていたのか。

「そこでわたくしも、別の婚約者を探さなければならなくなったが、ルーク以外で政略結婚が成り立つのは海の向こうのペルジャ国の王太子くらいだ」

ローゼリア様は、眉を寄せて吐き捨てるように言った。

ペルジャ国の王太子様。
わたしも話は聞いたことがあるけど……。
ペルジャ国は王と王妃の間には王太子一人しか子どもが生まれなかった。
甘やかしに甘やかして育てた15歳になる王太子は、とても太っていて15歳には見えないほどらしい。
厳しく育てられなかった王太子は、学園にも真面目に通わず、頭の出来もよくないそうだ。
それでもたった一人の後継者は、そのまま王太子として不動の地位を築いている。

ただし、現国王が崩御すれば瞬く間にその地位は奪われるだろうというのが、近隣諸国の見方だ。

そうならないために、後ろ盾のしっかりした国の王女を王太子妃として迎えたいと、やっきになって王太子妃候補を探していると聞いている。

ルーク様はニヤリと笑ってローゼリア様を見た。
「いいじゃん。ボンクラ王太子と結婚して幸せになりなよ」

ローゼリア様はカッと顔を赤くして、パチンと扇子を鳴らした。
「ルーク、不敬であるぞ」
不快感を露わにしたローゼリア様は、扇子を持つ手をワナワナと震わせる。

「どちらにしても、オレには関係ないんで。いくぞ、ジーナ」
ルーク様はわたしの右手を取る。
「痛っ」
「ごめん」
取る手を左手に変えて、ルーク様はわたしを連れて部屋を出た。

ドアを開いた所で、モニカ様が紅茶をワゴンに乗せて押してくるのが見えた。

「ルーク様、もうお帰りですか? お茶が入りますが」
ルーク様は、またわたしを後ろに隠す。
「モニカ嬢。君はローゼリア殿下の侍女にでもなったのか」

モニカ様はにこりと笑う。
「侍女? 侍女ではありませんわ。でも、自分の意思を通すためにはプライドを捨てることも必要だと思っていますのよ」
「……ジーナへの復讐か? それは逆恨みだ」

モニカ様はにこやかだった笑顔を、薄暗い笑みに変える。
「さぁ? どうでしょうかね」

「行くぞ、ジーナ。こんな胸糞の悪い所には、1秒だって居たくない」
ルーク様はモニカ嬢からわたしを庇うように、わたしの腰に手をあてて、ピッタリと体をつけたまま、外まで急いで出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

こな
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...