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4章 そして運命の歯車は回り出す
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光の魔法の授業は、6学年すべて一緒に行われる。
去年いた6回生の2人は卒業してしまったので、今は新入生として入ってきたローゼリア様含めて6人だ。
そして、今日はその6人そろって受ける、初めての授業だったりする。
元々居た生徒5人が、小さな教室で席について講師のエミリア女史が来るのを待っていると、ローゼリア様を連れてエミリア女史が現れた。
教壇に立ち、隣のローゼリア様をみんなに紹介する。
「ご存知の通り、今年からローゼリア様が一緒に授業を受けられます。昨年度ご卒業なさったアレックス王太子様は火の魔法の授業を受けていらっしゃいました。光の組に王族の方がいらっしゃるのは、50年ぶりと聞いています。みんな、共に高め合うよう、がんばっていきましょう。ローゼリア様、どうぞ席にお着きください」
ローゼリア様はにこりともせずに、わたしと対極の席に座った。
席が遠くてよかった。
交流はしなくても大丈夫そうかも……。
わたしと離れて座るということは、モニカ様の席と近いということだ。
モニカ様は、甲斐甲斐しくローゼリア様の世話をあれこれやってあげていた。
第二王女に媚を売っても、爵位は上がらないだろうに。
それとも他に、いいことがあるのかな。
まあ、何にせよ、わたしには関係ないけど。
ローゼリア様は瞑想から入り、魔力の循環、体内の作りを勉強していく。
わたしたち上級生は、それぞれ一段上の魔法技術を勉強していた。
モニカ様だけは、ローゼリア様に付き合って、一回生の内容をローゼリア様ともう一度やっていたけれど。
エミリア女史が怒るかなと思って見ていたけど、エミリア女史も王族には何も言えないようで、黙って2人を見ていた。
お昼休み、いつものように学園のカフェでルーク様と待ち合わせてランチを取る。
テーブルの上に並んだ食事を見て、わたしはため息をついた。
「ルーク様、最近よく食べますね。わたしなんて見ているだけで胸焼けがしそうです」
テーブルの上には、ステーキとスープ、パスタとサンドイッチ二つが並んでいる。
サンドイッチ二つのうち一つがわたしのお昼である。
どれもわたしなら単品でお腹いっぱいになる量が盛られている。
「なんかなぁ。すっごく腹が減るんだよな。背も伸びたからかなぁ?」
ルーク様が言うように、ルーク様はすごく背が伸びた。
もう、わたしとは頭ひとつ分差がある。
「いいですけど、トマトはちゃんと食べてくださいよ。トマトさん、かわいそうですよ?」
サンドイッチからトマトをはずそうとしているルーク様は、嫌な顔をしながら元に戻していた。
朝食と夕飯は各寮で取ることになっているんだけど、ちゃんとルーク様がトマトを食べているか心配だ。
ぱくぱくとテーブルの上の食べ物がどんどんルーク様のお腹の中に消えていくのを見ていると、胸焼けがしてわたしの食欲がなくなっていく……。
だめよ。食べなきゃ。
もそもそとサンドイッチを口に運ぶと、ルーク様はそんなわたしの様子に眉根を寄せた。
「なんだ。食欲がないのか? 今日、魔法の授業があったろ。ローゼリアになんか言われたか?」
わたしは慌ててルーク様の口を塞ぐ。
「ルーク様! ここは外です。カフェの中には人がたくさんいます。話が聞こえたらどうするんですか。不敬になりますよ」
ルーク様は嫌な顔をしながら、言い直す。
「……ローゼリア、サマと何かあったのかよ」
わたしは取り繕うように笑顔を浮かべた。
「何もありませんよ。ローゼリア様とは席も遠いですし。ローゼリア様はモニカ様と仲良くなられたようで、お二人で授業を受けていらっしゃいました」
ルーク様はわたしの言葉を聞いて、寄せた眉根の右側だけ吊り上げた。
「モニカとぉ~? なんだそれ。最悪コンビじゃないか」
「ルーク様!」
ジロリとルーク様を睨む。
不敬になるって言ってるのに、最悪コンビとか言わないでほしい。
「心配されるようなことはありませんよ?」
サンドイッチを、はむはむ食べながらルーク様を見ると、ルーク様は苦い顔をしていた。
「とぼけても無駄だぞ。オレの耳にまで入っているからな。モニカにまだ「ジーナは弱みを握って婚約者の地位にいる」って、噂流されてるだろう?」
「クラスでも他の人と交流を持たないのに、何故知ってるんですか」
「交流持たないわけでもないよ。必要があればしゃべるし。剣の授業の時は、割とみんなと話すぜ。仮面も取ってるし」
剣の授業は男女別なので知らなかった。
そういえば、いつか外でガーデンパーティーのホスト役実習をやった時、楽しそうにしているルーク様を見かけたっけ。
ステーキとスープとサラダを完食したルーク様は、トマトを入れ直したサンドイッチにかぶりついた。
「オレはジーナに弱みなんて握られていないから、その話を聞いた時には全否定させてもらったよ。オレがジーナに握られてるのは、惚れた弱みくらいのもんだ」
惚れた弱みって……。
ルーク様にそんなことを言われると、顔が熱くなる。
顔を真っ赤にしたわたしを見て、ルーク様はくすくす笑う。
「ほんと、惚れた弱み」
ますます顔が熱くなったわたしは、照れ隠しに口を開いた。
「アンリエル様が、わたしたちを時々見かけるそうですけど、わたしたちを見ると砂糖をを吐きたくなると言っていらっしゃいました」
「砂糖を吐く? なんだそりゃ」
「甘すぎて、口の中が砂糖でいっぱいになっているような気分になるそうです。だから、甘すぎるから吐き出したいということらしいです」
「いいじゃん。婚約者同士なんだから、」
「そうですね」
わたしたちはにっこりと笑った。
平和な午後。
嵐の前の静けさに過ぎないことを、わたしたちは知らなかった。
去年いた6回生の2人は卒業してしまったので、今は新入生として入ってきたローゼリア様含めて6人だ。
そして、今日はその6人そろって受ける、初めての授業だったりする。
元々居た生徒5人が、小さな教室で席について講師のエミリア女史が来るのを待っていると、ローゼリア様を連れてエミリア女史が現れた。
教壇に立ち、隣のローゼリア様をみんなに紹介する。
「ご存知の通り、今年からローゼリア様が一緒に授業を受けられます。昨年度ご卒業なさったアレックス王太子様は火の魔法の授業を受けていらっしゃいました。光の組に王族の方がいらっしゃるのは、50年ぶりと聞いています。みんな、共に高め合うよう、がんばっていきましょう。ローゼリア様、どうぞ席にお着きください」
ローゼリア様はにこりともせずに、わたしと対極の席に座った。
席が遠くてよかった。
交流はしなくても大丈夫そうかも……。
わたしと離れて座るということは、モニカ様の席と近いということだ。
モニカ様は、甲斐甲斐しくローゼリア様の世話をあれこれやってあげていた。
第二王女に媚を売っても、爵位は上がらないだろうに。
それとも他に、いいことがあるのかな。
まあ、何にせよ、わたしには関係ないけど。
ローゼリア様は瞑想から入り、魔力の循環、体内の作りを勉強していく。
わたしたち上級生は、それぞれ一段上の魔法技術を勉強していた。
モニカ様だけは、ローゼリア様に付き合って、一回生の内容をローゼリア様ともう一度やっていたけれど。
エミリア女史が怒るかなと思って見ていたけど、エミリア女史も王族には何も言えないようで、黙って2人を見ていた。
お昼休み、いつものように学園のカフェでルーク様と待ち合わせてランチを取る。
テーブルの上に並んだ食事を見て、わたしはため息をついた。
「ルーク様、最近よく食べますね。わたしなんて見ているだけで胸焼けがしそうです」
テーブルの上には、ステーキとスープ、パスタとサンドイッチ二つが並んでいる。
サンドイッチ二つのうち一つがわたしのお昼である。
どれもわたしなら単品でお腹いっぱいになる量が盛られている。
「なんかなぁ。すっごく腹が減るんだよな。背も伸びたからかなぁ?」
ルーク様が言うように、ルーク様はすごく背が伸びた。
もう、わたしとは頭ひとつ分差がある。
「いいですけど、トマトはちゃんと食べてくださいよ。トマトさん、かわいそうですよ?」
サンドイッチからトマトをはずそうとしているルーク様は、嫌な顔をしながら元に戻していた。
朝食と夕飯は各寮で取ることになっているんだけど、ちゃんとルーク様がトマトを食べているか心配だ。
ぱくぱくとテーブルの上の食べ物がどんどんルーク様のお腹の中に消えていくのを見ていると、胸焼けがしてわたしの食欲がなくなっていく……。
だめよ。食べなきゃ。
もそもそとサンドイッチを口に運ぶと、ルーク様はそんなわたしの様子に眉根を寄せた。
「なんだ。食欲がないのか? 今日、魔法の授業があったろ。ローゼリアになんか言われたか?」
わたしは慌ててルーク様の口を塞ぐ。
「ルーク様! ここは外です。カフェの中には人がたくさんいます。話が聞こえたらどうするんですか。不敬になりますよ」
ルーク様は嫌な顔をしながら、言い直す。
「……ローゼリア、サマと何かあったのかよ」
わたしは取り繕うように笑顔を浮かべた。
「何もありませんよ。ローゼリア様とは席も遠いですし。ローゼリア様はモニカ様と仲良くなられたようで、お二人で授業を受けていらっしゃいました」
ルーク様はわたしの言葉を聞いて、寄せた眉根の右側だけ吊り上げた。
「モニカとぉ~? なんだそれ。最悪コンビじゃないか」
「ルーク様!」
ジロリとルーク様を睨む。
不敬になるって言ってるのに、最悪コンビとか言わないでほしい。
「心配されるようなことはありませんよ?」
サンドイッチを、はむはむ食べながらルーク様を見ると、ルーク様は苦い顔をしていた。
「とぼけても無駄だぞ。オレの耳にまで入っているからな。モニカにまだ「ジーナは弱みを握って婚約者の地位にいる」って、噂流されてるだろう?」
「クラスでも他の人と交流を持たないのに、何故知ってるんですか」
「交流持たないわけでもないよ。必要があればしゃべるし。剣の授業の時は、割とみんなと話すぜ。仮面も取ってるし」
剣の授業は男女別なので知らなかった。
そういえば、いつか外でガーデンパーティーのホスト役実習をやった時、楽しそうにしているルーク様を見かけたっけ。
ステーキとスープとサラダを完食したルーク様は、トマトを入れ直したサンドイッチにかぶりついた。
「オレはジーナに弱みなんて握られていないから、その話を聞いた時には全否定させてもらったよ。オレがジーナに握られてるのは、惚れた弱みくらいのもんだ」
惚れた弱みって……。
ルーク様にそんなことを言われると、顔が熱くなる。
顔を真っ赤にしたわたしを見て、ルーク様はくすくす笑う。
「ほんと、惚れた弱み」
ますます顔が熱くなったわたしは、照れ隠しに口を開いた。
「アンリエル様が、わたしたちを時々見かけるそうですけど、わたしたちを見ると砂糖をを吐きたくなると言っていらっしゃいました」
「砂糖を吐く? なんだそりゃ」
「甘すぎて、口の中が砂糖でいっぱいになっているような気分になるそうです。だから、甘すぎるから吐き出したいということらしいです」
「いいじゃん。婚約者同士なんだから、」
「そうですね」
わたしたちはにっこりと笑った。
平和な午後。
嵐の前の静けさに過ぎないことを、わたしたちは知らなかった。
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