35 / 255
4章 そして運命の歯車は回り出す
2
しおりを挟む
光の魔法の授業は、6学年すべて一緒に行われる。
去年いた6回生の2人は卒業してしまったので、今は新入生として入ってきたローゼリア様含めて6人だ。
そして、今日はその6人そろって受ける、初めての授業だったりする。
元々居た生徒5人が、小さな教室で席について講師のエミリア女史が来るのを待っていると、ローゼリア様を連れてエミリア女史が現れた。
教壇に立ち、隣のローゼリア様をみんなに紹介する。
「ご存知の通り、今年からローゼリア様が一緒に授業を受けられます。昨年度ご卒業なさったアレックス王太子様は火の魔法の授業を受けていらっしゃいました。光の組に王族の方がいらっしゃるのは、50年ぶりと聞いています。みんな、共に高め合うよう、がんばっていきましょう。ローゼリア様、どうぞ席にお着きください」
ローゼリア様はにこりともせずに、わたしと対極の席に座った。
席が遠くてよかった。
交流はしなくても大丈夫そうかも……。
わたしと離れて座るということは、モニカ様の席と近いということだ。
モニカ様は、甲斐甲斐しくローゼリア様の世話をあれこれやってあげていた。
第二王女に媚を売っても、爵位は上がらないだろうに。
それとも他に、いいことがあるのかな。
まあ、何にせよ、わたしには関係ないけど。
ローゼリア様は瞑想から入り、魔力の循環、体内の作りを勉強していく。
わたしたち上級生は、それぞれ一段上の魔法技術を勉強していた。
モニカ様だけは、ローゼリア様に付き合って、一回生の内容をローゼリア様ともう一度やっていたけれど。
エミリア女史が怒るかなと思って見ていたけど、エミリア女史も王族には何も言えないようで、黙って2人を見ていた。
お昼休み、いつものように学園のカフェでルーク様と待ち合わせてランチを取る。
テーブルの上に並んだ食事を見て、わたしはため息をついた。
「ルーク様、最近よく食べますね。わたしなんて見ているだけで胸焼けがしそうです」
テーブルの上には、ステーキとスープ、パスタとサンドイッチ二つが並んでいる。
サンドイッチ二つのうち一つがわたしのお昼である。
どれもわたしなら単品でお腹いっぱいになる量が盛られている。
「なんかなぁ。すっごく腹が減るんだよな。背も伸びたからかなぁ?」
ルーク様が言うように、ルーク様はすごく背が伸びた。
もう、わたしとは頭ひとつ分差がある。
「いいですけど、トマトはちゃんと食べてくださいよ。トマトさん、かわいそうですよ?」
サンドイッチからトマトをはずそうとしているルーク様は、嫌な顔をしながら元に戻していた。
朝食と夕飯は各寮で取ることになっているんだけど、ちゃんとルーク様がトマトを食べているか心配だ。
ぱくぱくとテーブルの上の食べ物がどんどんルーク様のお腹の中に消えていくのを見ていると、胸焼けがしてわたしの食欲がなくなっていく……。
だめよ。食べなきゃ。
もそもそとサンドイッチを口に運ぶと、ルーク様はそんなわたしの様子に眉根を寄せた。
「なんだ。食欲がないのか? 今日、魔法の授業があったろ。ローゼリアになんか言われたか?」
わたしは慌ててルーク様の口を塞ぐ。
「ルーク様! ここは外です。カフェの中には人がたくさんいます。話が聞こえたらどうするんですか。不敬になりますよ」
ルーク様は嫌な顔をしながら、言い直す。
「……ローゼリア、サマと何かあったのかよ」
わたしは取り繕うように笑顔を浮かべた。
「何もありませんよ。ローゼリア様とは席も遠いですし。ローゼリア様はモニカ様と仲良くなられたようで、お二人で授業を受けていらっしゃいました」
ルーク様はわたしの言葉を聞いて、寄せた眉根の右側だけ吊り上げた。
「モニカとぉ~? なんだそれ。最悪コンビじゃないか」
「ルーク様!」
ジロリとルーク様を睨む。
不敬になるって言ってるのに、最悪コンビとか言わないでほしい。
「心配されるようなことはありませんよ?」
サンドイッチを、はむはむ食べながらルーク様を見ると、ルーク様は苦い顔をしていた。
「とぼけても無駄だぞ。オレの耳にまで入っているからな。モニカにまだ「ジーナは弱みを握って婚約者の地位にいる」って、噂流されてるだろう?」
「クラスでも他の人と交流を持たないのに、何故知ってるんですか」
「交流持たないわけでもないよ。必要があればしゃべるし。剣の授業の時は、割とみんなと話すぜ。仮面も取ってるし」
剣の授業は男女別なので知らなかった。
そういえば、いつか外でガーデンパーティーのホスト役実習をやった時、楽しそうにしているルーク様を見かけたっけ。
ステーキとスープとサラダを完食したルーク様は、トマトを入れ直したサンドイッチにかぶりついた。
「オレはジーナに弱みなんて握られていないから、その話を聞いた時には全否定させてもらったよ。オレがジーナに握られてるのは、惚れた弱みくらいのもんだ」
惚れた弱みって……。
ルーク様にそんなことを言われると、顔が熱くなる。
顔を真っ赤にしたわたしを見て、ルーク様はくすくす笑う。
「ほんと、惚れた弱み」
ますます顔が熱くなったわたしは、照れ隠しに口を開いた。
「アンリエル様が、わたしたちを時々見かけるそうですけど、わたしたちを見ると砂糖をを吐きたくなると言っていらっしゃいました」
「砂糖を吐く? なんだそりゃ」
「甘すぎて、口の中が砂糖でいっぱいになっているような気分になるそうです。だから、甘すぎるから吐き出したいということらしいです」
「いいじゃん。婚約者同士なんだから、」
「そうですね」
わたしたちはにっこりと笑った。
平和な午後。
嵐の前の静けさに過ぎないことを、わたしたちは知らなかった。
去年いた6回生の2人は卒業してしまったので、今は新入生として入ってきたローゼリア様含めて6人だ。
そして、今日はその6人そろって受ける、初めての授業だったりする。
元々居た生徒5人が、小さな教室で席について講師のエミリア女史が来るのを待っていると、ローゼリア様を連れてエミリア女史が現れた。
教壇に立ち、隣のローゼリア様をみんなに紹介する。
「ご存知の通り、今年からローゼリア様が一緒に授業を受けられます。昨年度ご卒業なさったアレックス王太子様は火の魔法の授業を受けていらっしゃいました。光の組に王族の方がいらっしゃるのは、50年ぶりと聞いています。みんな、共に高め合うよう、がんばっていきましょう。ローゼリア様、どうぞ席にお着きください」
ローゼリア様はにこりともせずに、わたしと対極の席に座った。
席が遠くてよかった。
交流はしなくても大丈夫そうかも……。
わたしと離れて座るということは、モニカ様の席と近いということだ。
モニカ様は、甲斐甲斐しくローゼリア様の世話をあれこれやってあげていた。
第二王女に媚を売っても、爵位は上がらないだろうに。
それとも他に、いいことがあるのかな。
まあ、何にせよ、わたしには関係ないけど。
ローゼリア様は瞑想から入り、魔力の循環、体内の作りを勉強していく。
わたしたち上級生は、それぞれ一段上の魔法技術を勉強していた。
モニカ様だけは、ローゼリア様に付き合って、一回生の内容をローゼリア様ともう一度やっていたけれど。
エミリア女史が怒るかなと思って見ていたけど、エミリア女史も王族には何も言えないようで、黙って2人を見ていた。
お昼休み、いつものように学園のカフェでルーク様と待ち合わせてランチを取る。
テーブルの上に並んだ食事を見て、わたしはため息をついた。
「ルーク様、最近よく食べますね。わたしなんて見ているだけで胸焼けがしそうです」
テーブルの上には、ステーキとスープ、パスタとサンドイッチ二つが並んでいる。
サンドイッチ二つのうち一つがわたしのお昼である。
どれもわたしなら単品でお腹いっぱいになる量が盛られている。
「なんかなぁ。すっごく腹が減るんだよな。背も伸びたからかなぁ?」
ルーク様が言うように、ルーク様はすごく背が伸びた。
もう、わたしとは頭ひとつ分差がある。
「いいですけど、トマトはちゃんと食べてくださいよ。トマトさん、かわいそうですよ?」
サンドイッチからトマトをはずそうとしているルーク様は、嫌な顔をしながら元に戻していた。
朝食と夕飯は各寮で取ることになっているんだけど、ちゃんとルーク様がトマトを食べているか心配だ。
ぱくぱくとテーブルの上の食べ物がどんどんルーク様のお腹の中に消えていくのを見ていると、胸焼けがしてわたしの食欲がなくなっていく……。
だめよ。食べなきゃ。
もそもそとサンドイッチを口に運ぶと、ルーク様はそんなわたしの様子に眉根を寄せた。
「なんだ。食欲がないのか? 今日、魔法の授業があったろ。ローゼリアになんか言われたか?」
わたしは慌ててルーク様の口を塞ぐ。
「ルーク様! ここは外です。カフェの中には人がたくさんいます。話が聞こえたらどうするんですか。不敬になりますよ」
ルーク様は嫌な顔をしながら、言い直す。
「……ローゼリア、サマと何かあったのかよ」
わたしは取り繕うように笑顔を浮かべた。
「何もありませんよ。ローゼリア様とは席も遠いですし。ローゼリア様はモニカ様と仲良くなられたようで、お二人で授業を受けていらっしゃいました」
ルーク様はわたしの言葉を聞いて、寄せた眉根の右側だけ吊り上げた。
「モニカとぉ~? なんだそれ。最悪コンビじゃないか」
「ルーク様!」
ジロリとルーク様を睨む。
不敬になるって言ってるのに、最悪コンビとか言わないでほしい。
「心配されるようなことはありませんよ?」
サンドイッチを、はむはむ食べながらルーク様を見ると、ルーク様は苦い顔をしていた。
「とぼけても無駄だぞ。オレの耳にまで入っているからな。モニカにまだ「ジーナは弱みを握って婚約者の地位にいる」って、噂流されてるだろう?」
「クラスでも他の人と交流を持たないのに、何故知ってるんですか」
「交流持たないわけでもないよ。必要があればしゃべるし。剣の授業の時は、割とみんなと話すぜ。仮面も取ってるし」
剣の授業は男女別なので知らなかった。
そういえば、いつか外でガーデンパーティーのホスト役実習をやった時、楽しそうにしているルーク様を見かけたっけ。
ステーキとスープとサラダを完食したルーク様は、トマトを入れ直したサンドイッチにかぶりついた。
「オレはジーナに弱みなんて握られていないから、その話を聞いた時には全否定させてもらったよ。オレがジーナに握られてるのは、惚れた弱みくらいのもんだ」
惚れた弱みって……。
ルーク様にそんなことを言われると、顔が熱くなる。
顔を真っ赤にしたわたしを見て、ルーク様はくすくす笑う。
「ほんと、惚れた弱み」
ますます顔が熱くなったわたしは、照れ隠しに口を開いた。
「アンリエル様が、わたしたちを時々見かけるそうですけど、わたしたちを見ると砂糖をを吐きたくなると言っていらっしゃいました」
「砂糖を吐く? なんだそりゃ」
「甘すぎて、口の中が砂糖でいっぱいになっているような気分になるそうです。だから、甘すぎるから吐き出したいということらしいです」
「いいじゃん。婚約者同士なんだから、」
「そうですね」
わたしたちはにっこりと笑った。
平和な午後。
嵐の前の静けさに過ぎないことを、わたしたちは知らなかった。
3
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。

「君の作った料理は愛情がこもってない」と言われたのでもう何も作りません
今川幸乃
恋愛
貧乏貴族の娘、エレンは幼いころから自分で家事をして育ったため、料理が得意だった。
そのため婚約者のウィルにも手づから料理を作るのだが、彼は「おいしいけど心が籠ってない」と言い、挙句妹のシエラが作った料理を「おいしい」と好んで食べている。
それでも我慢してウィルの好みの料理を作ろうとするエレンだったがある日「料理どころか君からも愛情を感じない」と言われてしまい、もう彼の気を惹こうとするのをやめることを決意する。
ウィルはそれでもシエラがいるからと気にしなかったが、やがてシエラの料理作りをもエレンが手伝っていたからこそうまくいっていたということが分かってしまう。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる