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3章 学園へ
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審判の「始めっ」という声と旗が合図になり、ルーク様とお兄様の試合が始まった。
身内2人の試合に、ハラハラした気持ちが隠せずに、思わずハンカチを握りしめてしまう。
剣を構えるルーク様は、隙を見せずにお兄様を睨みつける。
反対に、楽な構えをしているお兄様は、はたから見ると随分隙があるように見えるが、ルーク様は打ち込んでいかない。
「義兄上。隙があるフリをするのは相変わらずお上手ですね」
ルーク様がお兄様の隙を探しながら声を発する。
「ルーク様も随分上達したな。学園に入った頃は、隙だらけでいつでも打ち込めたのに」
「いつまでも義兄上の後をついて回った子どもではありませんからね」
ルーク様が足を右に進める。
それに倣って、お兄様は自分も右にずれる。
間合いはかわらぬ距離を保っている。
「ルーク様、大きくなったなあ。ジーナと婚約したばかりの頃は、心配するほど細くて女の子みたいだったなあ」
「オレを怒らせて隙を作らせようとしても無駄ですよ」
ルーク様が不敵な笑みを浮かべる。
「そうか、よっと!」
お兄様は足元にあった小石をルーク様の方へ蹴り出した。
ルーク様がそれに気を取られた一瞬を狙って、お兄様が斬り込んでいく。
慌てて剣を避けるルーク様。
体制を崩しつつも、お兄様に剣を向けて振り下ろす。
何度か打ち合いをすると、一度2人は間合いを取った。
ルーク様は息も整わないうちに、再度お兄様に斬り込んでいく。
お兄様は難なく避けて、剣を薙ぎ払われた時にバランスを崩したルーク様の下半身を狙って剣を振った。
ルーク様転んじゃう!
そう思った瞬間、ルーク様は剣を持ったまま、後ろ向きに飛んだ。
そのまま、後方転回をするために地面に手をつく。
そして、腕で支えながら両足を着地させようとしたところを、お兄様が重心を低くして足払いをかける。
ルーク様が転んだところで、お兄様の剣がルーク様の喉元を捕らえた。
「ルーク様、チェックメイト」
ニヤリと笑うお兄様に、ルーク様は息を切らせて両手を上げた。
「義兄上、降参です。義兄上には敵いません」
「ん」
お兄様はルーク様に手を差し出し、ルーク様はその手を取って立ち上がった。
「まだまだ義弟には負けられないからな」
「いいえ、来年は勝たせてもらいますよ」
2人は笑顔で握手をした。
ほぉ~っっ。
手に汗握る試合だった~。
わたしががっしりとハンカチを握りしめていると、アンリエル様も興奮したようにわたしの肩をガシガシ揺らした。
「すごいですわ! まだ一回生なのに五回生のオリバー様と互角に闘うなんて、ルーク様って頭もよろしいのに剣もすごいんですのね!」
「ア、アンリエル様落ち着いて」
アンリエル様は両手を顔の前で組み、ほぉっと頬を染めて息をついた。
ふと、気がつくと、周りにいるご令嬢たちも同じように頬を染めてうっとりとルーク様を見ていた。
ルーク様、すごい。
学園にいる時はあんなに無愛想なのに、こんなにたくさんのご令嬢を魅了するなんて。
ルーク様はお兄様に負けた後、3位決定戦を勝って大会3位でメダルをもらっていた。
うちのお兄様は残念ながら2位で、今年の優勝は学園最高学年で出場していた王太子殿下だった。
うちのお兄様はちょっと読めない人なので、本気で負けたのか、長いものに巻かれたのかわからないけど……。
表彰式では、3人が表彰台に並んでいた。
王太子殿下はルーク様と婚約したばかりの5歳の時にお城に呼ばれて謁見した時が、一番近くで見たことになるのだが、あれから5年。とても大人になっていた。
一番大きなメダルを掲げ、優勝した王太子殿下はにこやかにスピーチをする。
「卒業を前に、剣術大会で優勝することができてうれしく思う。また、今日の試合はどの試合も苦戦を強いられて、皆の剣技もレベルが上がっていることが感じられ、王国も安泰だと安心した。卒業しても、この学園で学んだことは忘れずに、国のことを考えられる国王になりたいと思う。皆も力を貸してくれ」
爽やかな笑顔の殿下は、とても人気があるので、そんな殿下に力を貸してくれと言われて、場内が湧き上がった。
「また、わたしの下の妹が来年度入学することになるが、よろしく頼む。一年だけでも一緒に学園生活が送られればよかったのだが。でも、皆が妹の先輩として導いてくれるなら安心だ。この学園をみんなでより良いものにしていってくれ。頼んだぞ」
スピーチが終わると、わあっと歓声が上がった。
殿下に頼りにされ、生徒の気持ちは上昇していく。
ただ、わたしの心はみんなと反対に下降の一途を辿っていた。
うそでしょう!?
うちのお姉様と同じ歳のお姫様は学園に入学なさらなかったと聞いていたので、てっきりローゼリア様もご入学なさらないと思っていたのに……。
「ロ、ローゼリア様が、なんで学園に……」
みんなが気分を高揚させる中、ひとり青くなっているわたしに気付いてアンリエル様が背中をさすってくれる。
「第一王女のソフィア様は他国に嫁ぐことが決まっていらっしゃるので、自国のことを学ぶより、嫁ぎ先のことをお城で学んでいらっしゃると聞いていますわ。ジーナ様、大丈夫ですか? ローゼリア様が、どうかなさいました?」
見た目が美しく、可憐な容姿をしているローゼリア様の苛烈な性格を知るものは、ほとんどいない。
建国祭のようにみんなの前に出る時は、何も言わずに微笑んで、愛くるしいお姿だけを見せている。
アレを知っているのは、ルーク様とわたしたち兄妹だけらしい。(多分使用人は知っているけど、お城で雇われている使用人がそんなことは外に漏らさない)
「アンリエル様、ありがとうございます。ちょっと、興奮して貧血を起こしてしまっただけですので、大丈夫です」
アンリエル様に心配をかけないように、わたしはにっこりと微笑んだ。
そして、視線を表彰台のルーク様に向ける。
ルーク様が、大丈夫だといいんだけど……。
身内2人の試合に、ハラハラした気持ちが隠せずに、思わずハンカチを握りしめてしまう。
剣を構えるルーク様は、隙を見せずにお兄様を睨みつける。
反対に、楽な構えをしているお兄様は、はたから見ると随分隙があるように見えるが、ルーク様は打ち込んでいかない。
「義兄上。隙があるフリをするのは相変わらずお上手ですね」
ルーク様がお兄様の隙を探しながら声を発する。
「ルーク様も随分上達したな。学園に入った頃は、隙だらけでいつでも打ち込めたのに」
「いつまでも義兄上の後をついて回った子どもではありませんからね」
ルーク様が足を右に進める。
それに倣って、お兄様は自分も右にずれる。
間合いはかわらぬ距離を保っている。
「ルーク様、大きくなったなあ。ジーナと婚約したばかりの頃は、心配するほど細くて女の子みたいだったなあ」
「オレを怒らせて隙を作らせようとしても無駄ですよ」
ルーク様が不敵な笑みを浮かべる。
「そうか、よっと!」
お兄様は足元にあった小石をルーク様の方へ蹴り出した。
ルーク様がそれに気を取られた一瞬を狙って、お兄様が斬り込んでいく。
慌てて剣を避けるルーク様。
体制を崩しつつも、お兄様に剣を向けて振り下ろす。
何度か打ち合いをすると、一度2人は間合いを取った。
ルーク様は息も整わないうちに、再度お兄様に斬り込んでいく。
お兄様は難なく避けて、剣を薙ぎ払われた時にバランスを崩したルーク様の下半身を狙って剣を振った。
ルーク様転んじゃう!
そう思った瞬間、ルーク様は剣を持ったまま、後ろ向きに飛んだ。
そのまま、後方転回をするために地面に手をつく。
そして、腕で支えながら両足を着地させようとしたところを、お兄様が重心を低くして足払いをかける。
ルーク様が転んだところで、お兄様の剣がルーク様の喉元を捕らえた。
「ルーク様、チェックメイト」
ニヤリと笑うお兄様に、ルーク様は息を切らせて両手を上げた。
「義兄上、降参です。義兄上には敵いません」
「ん」
お兄様はルーク様に手を差し出し、ルーク様はその手を取って立ち上がった。
「まだまだ義弟には負けられないからな」
「いいえ、来年は勝たせてもらいますよ」
2人は笑顔で握手をした。
ほぉ~っっ。
手に汗握る試合だった~。
わたしががっしりとハンカチを握りしめていると、アンリエル様も興奮したようにわたしの肩をガシガシ揺らした。
「すごいですわ! まだ一回生なのに五回生のオリバー様と互角に闘うなんて、ルーク様って頭もよろしいのに剣もすごいんですのね!」
「ア、アンリエル様落ち着いて」
アンリエル様は両手を顔の前で組み、ほぉっと頬を染めて息をついた。
ふと、気がつくと、周りにいるご令嬢たちも同じように頬を染めてうっとりとルーク様を見ていた。
ルーク様、すごい。
学園にいる時はあんなに無愛想なのに、こんなにたくさんのご令嬢を魅了するなんて。
ルーク様はお兄様に負けた後、3位決定戦を勝って大会3位でメダルをもらっていた。
うちのお兄様は残念ながら2位で、今年の優勝は学園最高学年で出場していた王太子殿下だった。
うちのお兄様はちょっと読めない人なので、本気で負けたのか、長いものに巻かれたのかわからないけど……。
表彰式では、3人が表彰台に並んでいた。
王太子殿下はルーク様と婚約したばかりの5歳の時にお城に呼ばれて謁見した時が、一番近くで見たことになるのだが、あれから5年。とても大人になっていた。
一番大きなメダルを掲げ、優勝した王太子殿下はにこやかにスピーチをする。
「卒業を前に、剣術大会で優勝することができてうれしく思う。また、今日の試合はどの試合も苦戦を強いられて、皆の剣技もレベルが上がっていることが感じられ、王国も安泰だと安心した。卒業しても、この学園で学んだことは忘れずに、国のことを考えられる国王になりたいと思う。皆も力を貸してくれ」
爽やかな笑顔の殿下は、とても人気があるので、そんな殿下に力を貸してくれと言われて、場内が湧き上がった。
「また、わたしの下の妹が来年度入学することになるが、よろしく頼む。一年だけでも一緒に学園生活が送られればよかったのだが。でも、皆が妹の先輩として導いてくれるなら安心だ。この学園をみんなでより良いものにしていってくれ。頼んだぞ」
スピーチが終わると、わあっと歓声が上がった。
殿下に頼りにされ、生徒の気持ちは上昇していく。
ただ、わたしの心はみんなと反対に下降の一途を辿っていた。
うそでしょう!?
うちのお姉様と同じ歳のお姫様は学園に入学なさらなかったと聞いていたので、てっきりローゼリア様もご入学なさらないと思っていたのに……。
「ロ、ローゼリア様が、なんで学園に……」
みんなが気分を高揚させる中、ひとり青くなっているわたしに気付いてアンリエル様が背中をさすってくれる。
「第一王女のソフィア様は他国に嫁ぐことが決まっていらっしゃるので、自国のことを学ぶより、嫁ぎ先のことをお城で学んでいらっしゃると聞いていますわ。ジーナ様、大丈夫ですか? ローゼリア様が、どうかなさいました?」
見た目が美しく、可憐な容姿をしているローゼリア様の苛烈な性格を知るものは、ほとんどいない。
建国祭のようにみんなの前に出る時は、何も言わずに微笑んで、愛くるしいお姿だけを見せている。
アレを知っているのは、ルーク様とわたしたち兄妹だけらしい。(多分使用人は知っているけど、お城で雇われている使用人がそんなことは外に漏らさない)
「アンリエル様、ありがとうございます。ちょっと、興奮して貧血を起こしてしまっただけですので、大丈夫です」
アンリエル様に心配をかけないように、わたしはにっこりと微笑んだ。
そして、視線を表彰台のルーク様に向ける。
ルーク様が、大丈夫だといいんだけど……。
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