30 / 255
3章 学園へ
7
しおりを挟む
重たい朝のホームルームの後は、担任とは別の女の先生がやってきて、一番最初の授業は歴史から始まった。
席は、せっかくルーク様の隣に座っていたのに、出席番号順になり、ルーク様とは離れてしまって、何故かルーク様はモニカ嬢と近い席になってしまった。
くーっ! なんかくやしい。
まあ、ルーク様は頬杖をついて窓の外を見て、誰とも話さなかったようだけど。
仮面をつけて、にこりともしないルーク様は、少し冷たい印象を受ける。
とても綺麗なお顔立ちをしているのだけれど、キラリとガラスの破片が光るような、氷が砕けて光ったような、そんな美しさなのだ。
お昼休み、わたしはルーク様とランチを食べにカフェに行った。
二人で同じサンドイッチセットを頼んで、トレーを持ってテラス席へと落ち着いた。
サンドイッチからトマトをはずすルーク様を睨んで、フォークでもう一度トマトをパンの間に戻すと、ルーク様は嫌な顔をした。
「ルーク様、好き嫌いをしてたら大きくなれませんよ?」
「もう大きい方だからいいんだよ」
「そんなにトマト嫌いですか?」
「……きらい」
小さい子どものようなルーク様にあきれてしまい、笑ってしまった。
「ねえ、ルーク様。休み時間とか、頬杖ついて外ばっかり見てたら友達できませんよ?」
テラス席から見えるのは、学園の庭園と噴水だ。
噴水の周りには、お昼を食べ終わりお昼休みを堪能する生徒がチラホラいる。
噴水はルーク様のお屋敷にあるものよりも大きいが、小さい頃ルーク様と噴水に入ったことを思い出した。
小さかったとはいえ、噴水に入るなんて、とんでもないことをしたものだ。
「……いらないんだ。友達なんか」
サンドイッチをもてあそびながら、ルーク様が呟くように言う。
「どうして?」
「仮面を外して付き合えない友達なんか、いらない」
表情を動かさず、ルーク様はただ食事をする。
ルーク様は、顔の火傷にとてつもないコンプレックスを持っている。
それは、5人の婚約者候補から拒否をされたことも、ずっと包帯を巻くことを強要されたことも、土の入ったバケツを被らされたことも、ルーク様の心に、火傷以上の酷い傷になって残っている。
「……早く、お顔の火傷も消せるようにがんばりますね」
「ああ」
その後は、のんびりとサンドイッチの続きを2人で食べた。
さて。
人見知りというか、無愛想というかのルーク様だが、とても機嫌よく受ける授業がある。
週に一回の剣術の授業だ。
わたしたち女子は、庭でガーデンパーティーの開き方、ホスト役の練習をしていたのだが、全学年合同なので女子だけとはいえ参加人数が多く、わたしはアンリエル様とガーデンパーティー用に置かれた端っこの椅子に腰掛けて、大人しく講義を聞いていた。
ちなみに、外でやる講義の時は、講師が風魔法を使って声を風に乗せるので、案外何を言ってるか聞こえる。
真剣に講義を聞いていると、運動場の方からガヤガヤと男子が騒いでいる声が聞こえた。
ひょいと身を乗り出して運動場の方を見ると、ルーク様がうちのお兄様と一緒に、楽しそうに話しているのが見えた。
ルーク様は仮面を取っており、包帯もしていない。
運動すると暑いから取っているのだろう。
火傷を隠さずに笑顔を見せているが、お兄様の周りには人の輪ができていて、ルーク様を含めてみんな楽しそうにしている。
お兄様はルーク様の手を取って、剣の振り方を教えたりして。
ルーク様が楽しそうにしていて良かった。
仮面も包帯もしないで、みんなの輪の中に入って笑ってくれて良かった。
頬が緩むのもそのままに、わたしはルーク様を見ていた。
「ジーナ・ミラー! 聞いていますか?」
マナーの講師、ジョアンナ女史の怒り声で、はっと我にかえる。
「は、はいっ! 申し訳ありません。聞いていませんでした……」
わたしは勢いよく立ち上がると、素直に聞いていなかったことを告げた。
「まぁぁ……!」
ジョアンナ女史は顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒っていた。
お昼休み。
課題をたっぷり出されたわたしは、お昼休みに少し食い込んでしまい、先にルーク様がカフェの席を取っておいてくれた。
食事も買っておいてくれて、もう仮面をつけているルーク様とわたしの前にはパスタセットが置かれている。
ニヤニヤと笑うルーク様。
「ジーナ、なんか今日、すっげぇジョアンナ女史に怒られてたな」
「えっ、見えてたんですか?」
「おう。義兄上、すっげぇ怒られてるのがジーナだってわかって、恥ずかしがってたぞ」
お兄様に恥と思われる日が来るなんて……。
お姉様にもマナーの授業の後呼び止められて、お小言もらったのに。
「ちょっと、いいもの見てニヤニヤしていたら見つかっちゃっただけです」
「何見てたんだよ」
あなたです。とは言えず。
「もういいじゃないですか。わたし、さっさと食べて教室に戻らないと、もらった課題が終わらないんです。早く食べましょう」
席は、せっかくルーク様の隣に座っていたのに、出席番号順になり、ルーク様とは離れてしまって、何故かルーク様はモニカ嬢と近い席になってしまった。
くーっ! なんかくやしい。
まあ、ルーク様は頬杖をついて窓の外を見て、誰とも話さなかったようだけど。
仮面をつけて、にこりともしないルーク様は、少し冷たい印象を受ける。
とても綺麗なお顔立ちをしているのだけれど、キラリとガラスの破片が光るような、氷が砕けて光ったような、そんな美しさなのだ。
お昼休み、わたしはルーク様とランチを食べにカフェに行った。
二人で同じサンドイッチセットを頼んで、トレーを持ってテラス席へと落ち着いた。
サンドイッチからトマトをはずすルーク様を睨んで、フォークでもう一度トマトをパンの間に戻すと、ルーク様は嫌な顔をした。
「ルーク様、好き嫌いをしてたら大きくなれませんよ?」
「もう大きい方だからいいんだよ」
「そんなにトマト嫌いですか?」
「……きらい」
小さい子どものようなルーク様にあきれてしまい、笑ってしまった。
「ねえ、ルーク様。休み時間とか、頬杖ついて外ばっかり見てたら友達できませんよ?」
テラス席から見えるのは、学園の庭園と噴水だ。
噴水の周りには、お昼を食べ終わりお昼休みを堪能する生徒がチラホラいる。
噴水はルーク様のお屋敷にあるものよりも大きいが、小さい頃ルーク様と噴水に入ったことを思い出した。
小さかったとはいえ、噴水に入るなんて、とんでもないことをしたものだ。
「……いらないんだ。友達なんか」
サンドイッチをもてあそびながら、ルーク様が呟くように言う。
「どうして?」
「仮面を外して付き合えない友達なんか、いらない」
表情を動かさず、ルーク様はただ食事をする。
ルーク様は、顔の火傷にとてつもないコンプレックスを持っている。
それは、5人の婚約者候補から拒否をされたことも、ずっと包帯を巻くことを強要されたことも、土の入ったバケツを被らされたことも、ルーク様の心に、火傷以上の酷い傷になって残っている。
「……早く、お顔の火傷も消せるようにがんばりますね」
「ああ」
その後は、のんびりとサンドイッチの続きを2人で食べた。
さて。
人見知りというか、無愛想というかのルーク様だが、とても機嫌よく受ける授業がある。
週に一回の剣術の授業だ。
わたしたち女子は、庭でガーデンパーティーの開き方、ホスト役の練習をしていたのだが、全学年合同なので女子だけとはいえ参加人数が多く、わたしはアンリエル様とガーデンパーティー用に置かれた端っこの椅子に腰掛けて、大人しく講義を聞いていた。
ちなみに、外でやる講義の時は、講師が風魔法を使って声を風に乗せるので、案外何を言ってるか聞こえる。
真剣に講義を聞いていると、運動場の方からガヤガヤと男子が騒いでいる声が聞こえた。
ひょいと身を乗り出して運動場の方を見ると、ルーク様がうちのお兄様と一緒に、楽しそうに話しているのが見えた。
ルーク様は仮面を取っており、包帯もしていない。
運動すると暑いから取っているのだろう。
火傷を隠さずに笑顔を見せているが、お兄様の周りには人の輪ができていて、ルーク様を含めてみんな楽しそうにしている。
お兄様はルーク様の手を取って、剣の振り方を教えたりして。
ルーク様が楽しそうにしていて良かった。
仮面も包帯もしないで、みんなの輪の中に入って笑ってくれて良かった。
頬が緩むのもそのままに、わたしはルーク様を見ていた。
「ジーナ・ミラー! 聞いていますか?」
マナーの講師、ジョアンナ女史の怒り声で、はっと我にかえる。
「は、はいっ! 申し訳ありません。聞いていませんでした……」
わたしは勢いよく立ち上がると、素直に聞いていなかったことを告げた。
「まぁぁ……!」
ジョアンナ女史は顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒っていた。
お昼休み。
課題をたっぷり出されたわたしは、お昼休みに少し食い込んでしまい、先にルーク様がカフェの席を取っておいてくれた。
食事も買っておいてくれて、もう仮面をつけているルーク様とわたしの前にはパスタセットが置かれている。
ニヤニヤと笑うルーク様。
「ジーナ、なんか今日、すっげぇジョアンナ女史に怒られてたな」
「えっ、見えてたんですか?」
「おう。義兄上、すっげぇ怒られてるのがジーナだってわかって、恥ずかしがってたぞ」
お兄様に恥と思われる日が来るなんて……。
お姉様にもマナーの授業の後呼び止められて、お小言もらったのに。
「ちょっと、いいもの見てニヤニヤしていたら見つかっちゃっただけです」
「何見てたんだよ」
あなたです。とは言えず。
「もういいじゃないですか。わたし、さっさと食べて教室に戻らないと、もらった課題が終わらないんです。早く食べましょう」
2
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる