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3章 学園へ
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重たい朝のホームルームの後は、担任とは別の女の先生がやってきて、一番最初の授業は歴史から始まった。
席は、せっかくルーク様の隣に座っていたのに、出席番号順になり、ルーク様とは離れてしまって、何故かルーク様はモニカ嬢と近い席になってしまった。
くーっ! なんかくやしい。
まあ、ルーク様は頬杖をついて窓の外を見て、誰とも話さなかったようだけど。
仮面をつけて、にこりともしないルーク様は、少し冷たい印象を受ける。
とても綺麗なお顔立ちをしているのだけれど、キラリとガラスの破片が光るような、氷が砕けて光ったような、そんな美しさなのだ。
お昼休み、わたしはルーク様とランチを食べにカフェに行った。
二人で同じサンドイッチセットを頼んで、トレーを持ってテラス席へと落ち着いた。
サンドイッチからトマトをはずすルーク様を睨んで、フォークでもう一度トマトをパンの間に戻すと、ルーク様は嫌な顔をした。
「ルーク様、好き嫌いをしてたら大きくなれませんよ?」
「もう大きい方だからいいんだよ」
「そんなにトマト嫌いですか?」
「……きらい」
小さい子どものようなルーク様にあきれてしまい、笑ってしまった。
「ねえ、ルーク様。休み時間とか、頬杖ついて外ばっかり見てたら友達できませんよ?」
テラス席から見えるのは、学園の庭園と噴水だ。
噴水の周りには、お昼を食べ終わりお昼休みを堪能する生徒がチラホラいる。
噴水はルーク様のお屋敷にあるものよりも大きいが、小さい頃ルーク様と噴水に入ったことを思い出した。
小さかったとはいえ、噴水に入るなんて、とんでもないことをしたものだ。
「……いらないんだ。友達なんか」
サンドイッチをもてあそびながら、ルーク様が呟くように言う。
「どうして?」
「仮面を外して付き合えない友達なんか、いらない」
表情を動かさず、ルーク様はただ食事をする。
ルーク様は、顔の火傷にとてつもないコンプレックスを持っている。
それは、5人の婚約者候補から拒否をされたことも、ずっと包帯を巻くことを強要されたことも、土の入ったバケツを被らされたことも、ルーク様の心に、火傷以上の酷い傷になって残っている。
「……早く、お顔の火傷も消せるようにがんばりますね」
「ああ」
その後は、のんびりとサンドイッチの続きを2人で食べた。
さて。
人見知りというか、無愛想というかのルーク様だが、とても機嫌よく受ける授業がある。
週に一回の剣術の授業だ。
わたしたち女子は、庭でガーデンパーティーの開き方、ホスト役の練習をしていたのだが、全学年合同なので女子だけとはいえ参加人数が多く、わたしはアンリエル様とガーデンパーティー用に置かれた端っこの椅子に腰掛けて、大人しく講義を聞いていた。
ちなみに、外でやる講義の時は、講師が風魔法を使って声を風に乗せるので、案外何を言ってるか聞こえる。
真剣に講義を聞いていると、運動場の方からガヤガヤと男子が騒いでいる声が聞こえた。
ひょいと身を乗り出して運動場の方を見ると、ルーク様がうちのお兄様と一緒に、楽しそうに話しているのが見えた。
ルーク様は仮面を取っており、包帯もしていない。
運動すると暑いから取っているのだろう。
火傷を隠さずに笑顔を見せているが、お兄様の周りには人の輪ができていて、ルーク様を含めてみんな楽しそうにしている。
お兄様はルーク様の手を取って、剣の振り方を教えたりして。
ルーク様が楽しそうにしていて良かった。
仮面も包帯もしないで、みんなの輪の中に入って笑ってくれて良かった。
頬が緩むのもそのままに、わたしはルーク様を見ていた。
「ジーナ・ミラー! 聞いていますか?」
マナーの講師、ジョアンナ女史の怒り声で、はっと我にかえる。
「は、はいっ! 申し訳ありません。聞いていませんでした……」
わたしは勢いよく立ち上がると、素直に聞いていなかったことを告げた。
「まぁぁ……!」
ジョアンナ女史は顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒っていた。
お昼休み。
課題をたっぷり出されたわたしは、お昼休みに少し食い込んでしまい、先にルーク様がカフェの席を取っておいてくれた。
食事も買っておいてくれて、もう仮面をつけているルーク様とわたしの前にはパスタセットが置かれている。
ニヤニヤと笑うルーク様。
「ジーナ、なんか今日、すっげぇジョアンナ女史に怒られてたな」
「えっ、見えてたんですか?」
「おう。義兄上、すっげぇ怒られてるのがジーナだってわかって、恥ずかしがってたぞ」
お兄様に恥と思われる日が来るなんて……。
お姉様にもマナーの授業の後呼び止められて、お小言もらったのに。
「ちょっと、いいもの見てニヤニヤしていたら見つかっちゃっただけです」
「何見てたんだよ」
あなたです。とは言えず。
「もういいじゃないですか。わたし、さっさと食べて教室に戻らないと、もらった課題が終わらないんです。早く食べましょう」
席は、せっかくルーク様の隣に座っていたのに、出席番号順になり、ルーク様とは離れてしまって、何故かルーク様はモニカ嬢と近い席になってしまった。
くーっ! なんかくやしい。
まあ、ルーク様は頬杖をついて窓の外を見て、誰とも話さなかったようだけど。
仮面をつけて、にこりともしないルーク様は、少し冷たい印象を受ける。
とても綺麗なお顔立ちをしているのだけれど、キラリとガラスの破片が光るような、氷が砕けて光ったような、そんな美しさなのだ。
お昼休み、わたしはルーク様とランチを食べにカフェに行った。
二人で同じサンドイッチセットを頼んで、トレーを持ってテラス席へと落ち着いた。
サンドイッチからトマトをはずすルーク様を睨んで、フォークでもう一度トマトをパンの間に戻すと、ルーク様は嫌な顔をした。
「ルーク様、好き嫌いをしてたら大きくなれませんよ?」
「もう大きい方だからいいんだよ」
「そんなにトマト嫌いですか?」
「……きらい」
小さい子どものようなルーク様にあきれてしまい、笑ってしまった。
「ねえ、ルーク様。休み時間とか、頬杖ついて外ばっかり見てたら友達できませんよ?」
テラス席から見えるのは、学園の庭園と噴水だ。
噴水の周りには、お昼を食べ終わりお昼休みを堪能する生徒がチラホラいる。
噴水はルーク様のお屋敷にあるものよりも大きいが、小さい頃ルーク様と噴水に入ったことを思い出した。
小さかったとはいえ、噴水に入るなんて、とんでもないことをしたものだ。
「……いらないんだ。友達なんか」
サンドイッチをもてあそびながら、ルーク様が呟くように言う。
「どうして?」
「仮面を外して付き合えない友達なんか、いらない」
表情を動かさず、ルーク様はただ食事をする。
ルーク様は、顔の火傷にとてつもないコンプレックスを持っている。
それは、5人の婚約者候補から拒否をされたことも、ずっと包帯を巻くことを強要されたことも、土の入ったバケツを被らされたことも、ルーク様の心に、火傷以上の酷い傷になって残っている。
「……早く、お顔の火傷も消せるようにがんばりますね」
「ああ」
その後は、のんびりとサンドイッチの続きを2人で食べた。
さて。
人見知りというか、無愛想というかのルーク様だが、とても機嫌よく受ける授業がある。
週に一回の剣術の授業だ。
わたしたち女子は、庭でガーデンパーティーの開き方、ホスト役の練習をしていたのだが、全学年合同なので女子だけとはいえ参加人数が多く、わたしはアンリエル様とガーデンパーティー用に置かれた端っこの椅子に腰掛けて、大人しく講義を聞いていた。
ちなみに、外でやる講義の時は、講師が風魔法を使って声を風に乗せるので、案外何を言ってるか聞こえる。
真剣に講義を聞いていると、運動場の方からガヤガヤと男子が騒いでいる声が聞こえた。
ひょいと身を乗り出して運動場の方を見ると、ルーク様がうちのお兄様と一緒に、楽しそうに話しているのが見えた。
ルーク様は仮面を取っており、包帯もしていない。
運動すると暑いから取っているのだろう。
火傷を隠さずに笑顔を見せているが、お兄様の周りには人の輪ができていて、ルーク様を含めてみんな楽しそうにしている。
お兄様はルーク様の手を取って、剣の振り方を教えたりして。
ルーク様が楽しそうにしていて良かった。
仮面も包帯もしないで、みんなの輪の中に入って笑ってくれて良かった。
頬が緩むのもそのままに、わたしはルーク様を見ていた。
「ジーナ・ミラー! 聞いていますか?」
マナーの講師、ジョアンナ女史の怒り声で、はっと我にかえる。
「は、はいっ! 申し訳ありません。聞いていませんでした……」
わたしは勢いよく立ち上がると、素直に聞いていなかったことを告げた。
「まぁぁ……!」
ジョアンナ女史は顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ怒っていた。
お昼休み。
課題をたっぷり出されたわたしは、お昼休みに少し食い込んでしまい、先にルーク様がカフェの席を取っておいてくれた。
食事も買っておいてくれて、もう仮面をつけているルーク様とわたしの前にはパスタセットが置かれている。
ニヤニヤと笑うルーク様。
「ジーナ、なんか今日、すっげぇジョアンナ女史に怒られてたな」
「えっ、見えてたんですか?」
「おう。義兄上、すっげぇ怒られてるのがジーナだってわかって、恥ずかしがってたぞ」
お兄様に恥と思われる日が来るなんて……。
お姉様にもマナーの授業の後呼び止められて、お小言もらったのに。
「ちょっと、いいもの見てニヤニヤしていたら見つかっちゃっただけです」
「何見てたんだよ」
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