もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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2章 気持ちを育む

12

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「マスク~?」
ルーク様は胡散臭気な顔でわたしを見た。

「だって、包帯は頭を半分隠してしまうから目立つでしょう? マスクだったら後ろ頭は覆わないし、髪をちょっと垂らしたらマスクを隠すこともできるでしょう?」
包帯は顔だけにあてることができない。
だから、後頭部まで巻くので、前から見ても後ろから見ても目立つのだ。

「……わかった。そのマスクを作ってみよう」

建国祭までまだ日にちがあるから、パーティーにはマスクで出席できるだろう。

「じゃ、そういうことで、衣装も合わせてピンクにしましょう」
「は? バーカ。オレがピンク着れるかよ」
「ちぇ。つまんないです」





建国祭の日。
今日は朝からいいお天気だった。

昼間のパレードを見て、お母様に内緒でパレードの帰りに出店でウサギの形をした細工飴を買った。
ルーク様は相変わらず外には出ないので、ルーク様にもおみやげで同じものを買った。

夜のパーティーには持って行けないから、次にルーク様のお部屋に遊びに行くのが楽しみだ。

そして、まだ日が高いうちからパーティーの準備をする。

建国祭のパーティーは、王都に居る全貴族が参加するため、お城の敷地内ではあるけれど、城門をくぐってすぐの、大人数が入れるイベントホールで行われる。
身分の低い者はお城の中心まで行くことはできないからだ。

わたしは新しく作ったピンクのふわふわのドレスに身を包み、わくわくしながらイベントホールの入り口で入場を待っている。
先に、伯爵までの高位貴族が入場をして王様を迎える雰囲気を整えて、王族が入場する。
そして、音楽も流れ始めてなんとなーくパーティーが始まってから、わたしたち下位の貴族が入場するのだ。

ルーク様は侯爵家の人なので、先に入場してから、わたしをエスコートするために入場ゲートまで戻ってきてくれる。
うちはお母様はお父様がエスコートするし、お姉様はお兄様がエスコートするので、ちょうどわたしのエスコート役がいないのだ。
お兄様は婚約者がいるけれど、まだ口約束だけで婚約の届出を出していないので、お兄様の婚約者は家族と一緒に入場をするから。

婚約しててよかった~。
ひとりで入るのなんて、イヤだもん。

うちは子爵家なので、下位貴族の入場では早めに入場できる。
うちより上位の子爵家が入場が始まった。

わくわくと前を覗き込んでいると、後ろからお兄様の楽し気な声が聞こえた。
「なんだ、ルーク様。それいいじゃん。カッケー!」

ルーク様が来ているのかと振り返ると、仮面を着けたルーク様がわたしのすぐ後ろに立っていた。

黒地に金で装飾が施されている仮面を被り、前髪を仮面の上に垂らすことによって仮面があまり目立たないようにしているけど……。

もともと、ルーク様は金糸のような柔らかそうな髪に、とても綺麗なエメラルドの瞳をしていた。
顔の作りはとても整っていたのだけれど、火傷を気にして顔を出すことはあまりしていなかったし、本人が気にするならと、わたしもマジマジと見たことはなかったのだが、盛装をして今日は包帯もないから髪もきちんと整えているルーク様は、とても麗しかった。

ほけーっと口を開けてルーク様を見ていると、ルーク様は怪訝そうに「どうしたんた?」とわたしに声をかけた。

「いえ、ルーク様があまりにカッコ良いので見惚れていました。とっても麗しいです」
わたしが正直にそう言うと、ルーク様は顔を真っ赤にした。
「ばっ、バカ。麗しいとか言うな」
照れてしまって、ふんと横を向いてしまった。

「へへー。ほら、ルーク様。うちの入場の番です。行きましょう」
わたしはルーク様の腕にそっと手を乗せ、家族の一番最後に入場した。

赤い絨毯の上を歩いてホールに入って行くと、心なしかみんなが注目しているような気がする。

「やっぱり、衣装もルーク様と合わせたかったです。来年はピンクでなければ合わせてくれますか?」
ルーク様を見ると、赤い顔でコホンと咳払いをした。
「……見てないのかよ」
わたしは首を傾げる。
「なにを?」
ルーク様は黙って自分の胸を指差した。

「……?」
よーく見ると、ルーク様の胸ポケットから、薄いピンク色のポケットチーフがほんの少し顔を出していた。
「ほ、ほら。ジーナの言うように衣装合わせたぞ」
恥ずかしそうにそっぽを向いて言うルーク様が、とてもとても大好きって思った。

「ありがとうございます! ルーク様。とても嬉しいです」
わたしはニコニコしてルーク様とホールに入って行った。
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