12 / 255
2章 気持ちを育む
3
しおりを挟む
あれから、わたしとルーク様は順調になかよくなっている。
でも、ルーク様を我が家に招待して、川で一緒に遊ぼうという計画は、達成できていない。
ルーク様のお母様が、ルーク様が屋敷の敷地内から出て行くことをよしとしなかったからだ。
だからわたしはルーク様のためにホットケーキを焼いて、持参するようにした。
なるべく家を出る直前に焼いて、温かさが残っているうちにルーク様に届けたくてがんばった。
初めてできたてホットケーキを届けた時、ルーク様は涙ぐんでよろこんでくれた。
「ルーク様泣いてるの?」と素直に口にしたら、ムキになって「泣いてない!」と言っていたっけ。
火傷跡も順調に減っていっている。
まだまだたくさん残っているけど……。
平和に時間が過ぎて行ったある日、わたしたち一家とルーク様一家はお城の王様に呼ばれた。
お父様とお母様は、王様とは直接言葉を交わしたことはないと言っていて、とても緊張している。
わたしは、王様と言ってもわたしには直接関係ないし、手足が2本ずつあるんだから人間でしょ? という感じだ。
おばけに会うなら怖いけど、人間なら怖くない。
お兄様お姉様とよそ行きのドレスを着て、謁見の間の赤い絨毯の上で跪いてる。
顔は上げられないけど、お父様の向こうにはルーク様たち一家がいる。
今日はお城に来るからか、ルーク様は包帯を頭から顔の左側にかけて巻いていた。
「顔を上げよ」
王様の声で、わたし達はやっと顔を上げることができた。
わたし達がいるところよりも数段高いところに王様は座っていた。
隣にはお妃様、そしてその隣に王太子様とお姫様二人が並んで座っている。
王太子様はうちのお兄様と同じくらいの年かしら。
お姫様も大きいお姫様はお姉様と同じくらい。
王太子様も大きいお姫様も、優しそうに微笑んでいる。
そして、最後に座っているお姫様が、ルーク様にバケツを被せたというお姫様だろう。
小さいながらもとても美人なのに、なんか残念な気分だ。
王様は口を開いた。
「デイヴィス侯爵、ミラー子爵、楽にせよ」
デイヴィス侯爵とお父様が、顔を王様の方へ向ける。
わたしはそっとルーク様達を窺い見る。
侯爵夫妻とルーク様、そして、夫人に抱っこされてルーク様の弟君がいた。
今日はルーク様は包帯を巻いてきたらしい。
「デイヴィス侯爵、子息ルークの状態はどうだ?」
「はい。このところは調子も良く、剣の鍛錬も師について教えを乞うております」
「そうかそうか」
うちのお父様よりも若い王様は、機嫌良く頷いた。
「して、ミラー子爵。娘ごはどうだろう。ルークを助けてくれる存在になりそうだろうか?」
お父様は緊張したお顔でお返事をする。
「はい。ルーク様と頻繁にお会いして絆を深めております。ルーク様が魔物討伐される際には、必ずや最大の加護をお渡しできるものと思っております」
「そうかそうか。それは安心だ。何十年に一度しか現れない魔物を討伐するのだ。しっかりと準備をし、あたってもらいたい。王太子アレックスの治世に移り変わる頃がその時だと思っている。ルーク、アレックスを助けて平和をもたらしてくれ」
「はい」
ルーク様は顔は上げているものの、何も感情を乗せていない目で王様に返事をした。
その後、お父様とお母様達だけ謁見の間に残り、わたしたち子どもは遊んでいていいということになった。
ルーク様の弟は、まだ1歳ということで、ルーク様のお母様に抱っこされたままで来られないが、わたし達兄妹とルーク様は、侍従に案内されて庭へと出た。
庭のガゼボには、すでにお茶の用意がしてあった。
テーブルの上には、色とりどりのケーキやクッキー、チョコレートなどがある。
わたしたち4人は、ひとまずそこに座った。
わたしとルーク様、向かいの椅子にお兄様とお姉様。
ルーク様は、席を立ち、お兄様とお姉様に挨拶をした。
「はじめまして。わたしはルーク・デイヴィス。ジーナ嬢の婚約者であり、将来は魔物討伐に行くことが決まっております」
綺麗な所作で、腰を折った。
お兄様はそれに応える。
「オレはオリバー・ミラー。こちらは妹のエマ・ミラーだ」
「よろしく」
お兄様とお姉様が揃って腰を折る。
「うちは子爵家だ。ルーク様の方が身分が高い。かしこまらずに楽に話そう」
「はい……」
居心地が悪そうに、ルーク様が小さくなる。
「ルーク様、ケーキ食べる? わたしが取ってあげようか?」
空気を和ませようとルーク様に話しかけるが、ルーク様は首を横に振って、紅茶にだけ口をつけた。
テーブルの周りにはわたしたちだけ。
使用人たちは、遠巻きにこちらを窺っている。
お兄様も紅茶を一口飲んで、ルーク様に話しかけた。
「ルーク様、包帯を取ることはできるか?」
でも、ルーク様を我が家に招待して、川で一緒に遊ぼうという計画は、達成できていない。
ルーク様のお母様が、ルーク様が屋敷の敷地内から出て行くことをよしとしなかったからだ。
だからわたしはルーク様のためにホットケーキを焼いて、持参するようにした。
なるべく家を出る直前に焼いて、温かさが残っているうちにルーク様に届けたくてがんばった。
初めてできたてホットケーキを届けた時、ルーク様は涙ぐんでよろこんでくれた。
「ルーク様泣いてるの?」と素直に口にしたら、ムキになって「泣いてない!」と言っていたっけ。
火傷跡も順調に減っていっている。
まだまだたくさん残っているけど……。
平和に時間が過ぎて行ったある日、わたしたち一家とルーク様一家はお城の王様に呼ばれた。
お父様とお母様は、王様とは直接言葉を交わしたことはないと言っていて、とても緊張している。
わたしは、王様と言ってもわたしには直接関係ないし、手足が2本ずつあるんだから人間でしょ? という感じだ。
おばけに会うなら怖いけど、人間なら怖くない。
お兄様お姉様とよそ行きのドレスを着て、謁見の間の赤い絨毯の上で跪いてる。
顔は上げられないけど、お父様の向こうにはルーク様たち一家がいる。
今日はお城に来るからか、ルーク様は包帯を頭から顔の左側にかけて巻いていた。
「顔を上げよ」
王様の声で、わたし達はやっと顔を上げることができた。
わたし達がいるところよりも数段高いところに王様は座っていた。
隣にはお妃様、そしてその隣に王太子様とお姫様二人が並んで座っている。
王太子様はうちのお兄様と同じくらいの年かしら。
お姫様も大きいお姫様はお姉様と同じくらい。
王太子様も大きいお姫様も、優しそうに微笑んでいる。
そして、最後に座っているお姫様が、ルーク様にバケツを被せたというお姫様だろう。
小さいながらもとても美人なのに、なんか残念な気分だ。
王様は口を開いた。
「デイヴィス侯爵、ミラー子爵、楽にせよ」
デイヴィス侯爵とお父様が、顔を王様の方へ向ける。
わたしはそっとルーク様達を窺い見る。
侯爵夫妻とルーク様、そして、夫人に抱っこされてルーク様の弟君がいた。
今日はルーク様は包帯を巻いてきたらしい。
「デイヴィス侯爵、子息ルークの状態はどうだ?」
「はい。このところは調子も良く、剣の鍛錬も師について教えを乞うております」
「そうかそうか」
うちのお父様よりも若い王様は、機嫌良く頷いた。
「して、ミラー子爵。娘ごはどうだろう。ルークを助けてくれる存在になりそうだろうか?」
お父様は緊張したお顔でお返事をする。
「はい。ルーク様と頻繁にお会いして絆を深めております。ルーク様が魔物討伐される際には、必ずや最大の加護をお渡しできるものと思っております」
「そうかそうか。それは安心だ。何十年に一度しか現れない魔物を討伐するのだ。しっかりと準備をし、あたってもらいたい。王太子アレックスの治世に移り変わる頃がその時だと思っている。ルーク、アレックスを助けて平和をもたらしてくれ」
「はい」
ルーク様は顔は上げているものの、何も感情を乗せていない目で王様に返事をした。
その後、お父様とお母様達だけ謁見の間に残り、わたしたち子どもは遊んでいていいということになった。
ルーク様の弟は、まだ1歳ということで、ルーク様のお母様に抱っこされたままで来られないが、わたし達兄妹とルーク様は、侍従に案内されて庭へと出た。
庭のガゼボには、すでにお茶の用意がしてあった。
テーブルの上には、色とりどりのケーキやクッキー、チョコレートなどがある。
わたしたち4人は、ひとまずそこに座った。
わたしとルーク様、向かいの椅子にお兄様とお姉様。
ルーク様は、席を立ち、お兄様とお姉様に挨拶をした。
「はじめまして。わたしはルーク・デイヴィス。ジーナ嬢の婚約者であり、将来は魔物討伐に行くことが決まっております」
綺麗な所作で、腰を折った。
お兄様はそれに応える。
「オレはオリバー・ミラー。こちらは妹のエマ・ミラーだ」
「よろしく」
お兄様とお姉様が揃って腰を折る。
「うちは子爵家だ。ルーク様の方が身分が高い。かしこまらずに楽に話そう」
「はい……」
居心地が悪そうに、ルーク様が小さくなる。
「ルーク様、ケーキ食べる? わたしが取ってあげようか?」
空気を和ませようとルーク様に話しかけるが、ルーク様は首を横に振って、紅茶にだけ口をつけた。
テーブルの周りにはわたしたちだけ。
使用人たちは、遠巻きにこちらを窺っている。
お兄様も紅茶を一口飲んで、ルーク様に話しかけた。
「ルーク様、包帯を取ることはできるか?」
3
お気に入りに追加
269
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる