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20章 虹の国の後継者
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大神殿を出ると、ジュディやアーサー達が心配そうな顔ですこちらを見ていた。
「姫様、かあさんっ!」
ジュディが駆け寄り、マリーに抱きつく。
「あらあら。小さな子どもみたい」
マリーはジュディの髪を撫でる。
「し、心配したのよ! 無事で良かった。ほんとに、良かった」
アーサーは私の顔を見た。
「姫様、血の誓約は……」
私はアーサーに向かって頷く。
「大丈夫。正当な理由だと認められて、次代の血の誓約はなくなったの」
私の言葉を聞いて、アーサーとコンラッド様、ジェイミー様はほっと胸を撫で下ろした。
空気が和んだところで、すぐにライリー殿下が告げる。
「契約書が無効になることがわかった。すぐにでもコルビー前国王の領地へ出発しよう」
私たちは出発の準備をするまでの間に、大神殿の中であったことを話した。
その場にいなかった人には、にわかには信じ難いことだったけれど、疑いもせずにみんな信じてくれた。
コンラッド様が言う。
「やっぱり、この国には不思議なことがいっぱいあるんだな」
私だって知らなかったわ。
びっくりすることがたくさんあった。
「普通の、おとぎ話を信じる人の多い国だとおもってた」
ライリー殿下も頷いた。
神官長様は、歴史に虹の国のことが記されていると言っていた。
私が知らずにいた歴史を、勉強しようと思う。
今回のことが終わったら、精霊様についてもきちんと学ぶ。
そう心に決めたりしているうちに、出発の準備が整った。
明日、夜明けと共にお城を出る。
今度は、マリーとジュディがお城でお留守番だ。
ジュディは私と一緒に行けないことに怒っていたけれど、アーサーが「オレが代わりにしっかり護るから」と説得してくれて、今回の私の同行者は、ライリー殿下と側近4名、それにアーサーの6人となった。
まだ夜が残る空を眺めながら、私たちは馬車に乗り込んだ。
アーサーとジェイミー様は馬で私たちの乗る馬車を護りながら、併走する。
一刻も早く、川を元通り流せるように……!
だんだんと川が見えてきた。
キラキラと太陽を反射する水は、周りの岩場から判断すると以前の半分以下の流れのようだった。
私は馬車の中から外の様子をじっと見つめていた。
確かに、川の近くは果実が実り、葉も青々としていた。でも、そこから離れた畑には、茶色になってしまった葉も目立っている。
これは、私が国王で居続けたらこの葉は緑に戻るのだろうか……。
「見えてきたぞ」
ライリー殿下の一言で、はっと我に返った。
川の中に水を堰き止めるための道具が置かれて、そこから水を用水路を使って別の場所に引いていた。
大量の川の水が、別の場所に用意された貯水池に溜まっているのが見えた。
「こんなに大規模に……」
川から離れたところに、コルビー前国王の屋敷があった。
それは、王宮には程遠いものの、私がランバラルドで住んでいた離れの倍以上大きなお屋敷だった。
馬車から降りた私が口を開けてお屋敷を見上げていると、フレッド様が私の隣にやってきた。
「国王はこうなることがわかっていたようだよ。オレの調べたところによると、どうやら共和制の話が出た時から、この屋敷を建て始めて、川を堰き止める道具も用水路も準備していたみたいだ」
「そう、ですか……」
だから、すんなりと王位を退いたのだわ。
アーサーが屋敷の男性使用人に、ボナール女王とランバラルド王太子が訪問することを告げ、面会を求めた。
使用人は驚いたようだったが、腐っても前国王の使用人。落ち着いて対応し、私たちを応接間に案内をした。
若いメイドがお茶を持って入ってくる。
アーサーとジェイミー様は剣を手放さず、私たちが座る椅子の両脇に立つ。
「シャーロット、念の為にお茶には手をつけないように」
ライリー殿下が耳打ちをする。
私たちはアーサーとジェイミー様以外は大人しく座ってコルビー前国王が来るのを待っていた。
「姫様、かあさんっ!」
ジュディが駆け寄り、マリーに抱きつく。
「あらあら。小さな子どもみたい」
マリーはジュディの髪を撫でる。
「し、心配したのよ! 無事で良かった。ほんとに、良かった」
アーサーは私の顔を見た。
「姫様、血の誓約は……」
私はアーサーに向かって頷く。
「大丈夫。正当な理由だと認められて、次代の血の誓約はなくなったの」
私の言葉を聞いて、アーサーとコンラッド様、ジェイミー様はほっと胸を撫で下ろした。
空気が和んだところで、すぐにライリー殿下が告げる。
「契約書が無効になることがわかった。すぐにでもコルビー前国王の領地へ出発しよう」
私たちは出発の準備をするまでの間に、大神殿の中であったことを話した。
その場にいなかった人には、にわかには信じ難いことだったけれど、疑いもせずにみんな信じてくれた。
コンラッド様が言う。
「やっぱり、この国には不思議なことがいっぱいあるんだな」
私だって知らなかったわ。
びっくりすることがたくさんあった。
「普通の、おとぎ話を信じる人の多い国だとおもってた」
ライリー殿下も頷いた。
神官長様は、歴史に虹の国のことが記されていると言っていた。
私が知らずにいた歴史を、勉強しようと思う。
今回のことが終わったら、精霊様についてもきちんと学ぶ。
そう心に決めたりしているうちに、出発の準備が整った。
明日、夜明けと共にお城を出る。
今度は、マリーとジュディがお城でお留守番だ。
ジュディは私と一緒に行けないことに怒っていたけれど、アーサーが「オレが代わりにしっかり護るから」と説得してくれて、今回の私の同行者は、ライリー殿下と側近4名、それにアーサーの6人となった。
まだ夜が残る空を眺めながら、私たちは馬車に乗り込んだ。
アーサーとジェイミー様は馬で私たちの乗る馬車を護りながら、併走する。
一刻も早く、川を元通り流せるように……!
だんだんと川が見えてきた。
キラキラと太陽を反射する水は、周りの岩場から判断すると以前の半分以下の流れのようだった。
私は馬車の中から外の様子をじっと見つめていた。
確かに、川の近くは果実が実り、葉も青々としていた。でも、そこから離れた畑には、茶色になってしまった葉も目立っている。
これは、私が国王で居続けたらこの葉は緑に戻るのだろうか……。
「見えてきたぞ」
ライリー殿下の一言で、はっと我に返った。
川の中に水を堰き止めるための道具が置かれて、そこから水を用水路を使って別の場所に引いていた。
大量の川の水が、別の場所に用意された貯水池に溜まっているのが見えた。
「こんなに大規模に……」
川から離れたところに、コルビー前国王の屋敷があった。
それは、王宮には程遠いものの、私がランバラルドで住んでいた離れの倍以上大きなお屋敷だった。
馬車から降りた私が口を開けてお屋敷を見上げていると、フレッド様が私の隣にやってきた。
「国王はこうなることがわかっていたようだよ。オレの調べたところによると、どうやら共和制の話が出た時から、この屋敷を建て始めて、川を堰き止める道具も用水路も準備していたみたいだ」
「そう、ですか……」
だから、すんなりと王位を退いたのだわ。
アーサーが屋敷の男性使用人に、ボナール女王とランバラルド王太子が訪問することを告げ、面会を求めた。
使用人は驚いたようだったが、腐っても前国王の使用人。落ち着いて対応し、私たちを応接間に案内をした。
若いメイドがお茶を持って入ってくる。
アーサーとジェイミー様は剣を手放さず、私たちが座る椅子の両脇に立つ。
「シャーロット、念の為にお茶には手をつけないように」
ライリー殿下が耳打ちをする。
私たちはアーサーとジェイミー様以外は大人しく座ってコルビー前国王が来るのを待っていた。
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