人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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20章 虹の国の後継者

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私たちは、一度会議室を出て、国王つまり私の部屋に再度集まることにして、ソファと長椅子を用意してして、ライリー殿下達と私、マリー、ジュディ、アーサーの全員が座れるようにした。

そこで、ライリー殿下から川のことを詳しく聞いた。
「ライリー殿下はボナールの葡萄園とご契約なさっていたんですね……」
国民と直に触れ合ったから、このように情報が速かったんだわ。
私たちも見習わなくては!

「そして、葡萄糖の主人が言っていた川が、今回の川なのですね」
コルビー国王が知らなかったはずはない。
常に情報は早く手にしていた方だった。

「その水の効能を知って、他国へと売り出したと」
「ああ、まさか堰き止めてまで水を集めて売るとは予想できなかったが」

アーサーが地図を持ってきて車座に囲んでいる卓に広げた。
「姫様、おそらくこの川ですね。でも、この川は戦前にはそんな噂は聞かなかったぞ」
アーサーは記憶を呼び覚ましながら首を傾げた。

すると、そこにさっき出て行ったフレッド様が戻ってくる。
「調べてきた。川は堰き止められているけれど、そんなに小さな川ではなかったため、一滴も水が流れないって訳じゃないみたい。ある程度は流れているけど、その川をアテにしていた農家は困っているだろうね。今すぐ穀物が萎れているわけではないようだけど、早めに手を打たないと。枯れてしまってからではどうにもならない」

手を打つと言われても……。

室内がしんと静まり返って、みんながどうしたらいいのか思案している時、ジュディから声があがる。
「あれ?姫様、これってあの川じゃないですか?」
「あの川?」
ライリー殿下が、目線でジュディに説明を促す。
「ボナールからランバラルドへ向かう途中に、この川のこのあたりで休憩で馬車を降りたんです。それで、川に足をつけたり手をつけたりしていたら急に風が吹いて、姫様を振り返ると、川に手をつけていた姫様の髪の色が変わっていたんです。近寄ると、瞳の色も変わっていました」

「シャーロット、川に手をつけて、何をしていたんだ?」
急に話を振られて私はおどおどしながらも、その時の記憶を辿る。
「えっと、あの時はもうボナールに居られないと思ったので、お父様とお母様が眠るボナールが、いつまでも豊かで、マリーやボナールに住むみんなが笑っていられる国でありますようにって、お祈りをしていたんです。そうしたら、風が吹いて、ジュディがやってきて。でも、お祈りしていただけですよ?」

ディリオン様が私の話を聞いてポツリとつぶやいた。
「七色の乙女か……」
「ディリオン?」
ライリー殿下がディリオン様に話の先を促す。
「シャーロット王女は、本当の七色の乙女であるとマリー殿から聞いたな? 七色の乙女の力が本当だったということではないか?」

七色の乙女の力。
それは、五穀豊穣の神から愛されし者の力。

「シャーロット、その力を他の川でも使うことはできないか?」
ライリー殿下が私を見る。
「え、でも……。私にできることでしたら何でもやりたいと思いますが、どうやったらいいのかわかりません……」

私の言葉を聞いた後、ディリオン様が地図を見ながらライリー殿下に言う。
「王子、言うは易しだがそう簡単に力が使えるなら、シャーロット王女は塔の上に閉じ込められてはいないだろう。それに、地図をよく見てみろ。他の川に力を使うと言っても、そもそもボナールを流れている川はそう多くない。全部の川に力を使ったとしても、ボナール全体の農作物に行き渡るわけでもない。一番いいのは、やはりこの元国王に止められている川を流すことだな」

領地として認めてしまった土地を、返してもらうことはできるのだろうか……。
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