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19章 戴冠
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よく晴れた日。
ボナールの大神殿で戴冠式は行われた。
国民の誰もが見えるように、神殿の扉は開け放たれ、そこから儀式が見えるように、中で見守る貴族も扉からの線上には立ち入れないようになっている。
白髪の神官長が、私の頂に王冠を乗せる。
その瞬間、神官長が小さな声で呟いた。
「お待ちしておりました。この日を」
私はまるで、神官長が私が即位するのがわかっていたような口振りだったのが少し気になった。
でも気のせいよね。
戦争が起こらず、私がランバラルドに行くことがなければ、私ではなく、セリーヌ様が即位をしているはずだから。
王冠を頭上に頂いた後、王笏と宝珠を神官長から渡される。
皆の方を向き、それらを高く掲げる。
「私は宣言する。この地、ボナールの王となった。この地に安寧と幸福をもたらさんことを約束しよう」
宣言の後、再度神官長の方へ向くと、今度は指輪を渡された。
あら?
指輪は予定になかったと思うけれど……。
どうしたらいいのかわからず、とりあえずリングクッションから取り外して自分の指にはめようとすると、神官長は慌てて私を止めた。
「こちらの指輪は、まだ受け取るだけで結構です」
「あら、そうなの?」
よくわからないけど小声で話し、指輪は受け取るだけにした。
これで戴冠の儀式は終わった。
後は退場して、パレードだわ。
着慣れない長い丈ののロープデコルテを着ている私は、転ばないように注意しながら歩く。
隣にはライリー殿下が白を基調にした軍服を着て、私をエスコートしてくれる。
これは、ライリー殿下が今後王政に関わることを示すためだ。
外を見ると、いいお天気なのに微かに霧雨が降っている。
私たちが神殿の建物を出た時に、ちょうど雨はやみ、うっすらと空に虹が掛かって見えた。
周りを見ると、国民たちはさほど雨に濡れた様子もなかったので、ほっとした時、ライリー殿下が驚いたように呟く。
「ほんとによく虹が出る国だな」
「ライリー殿下、雨の後に虹が出るのは普通なのではないですか?」
「いや、ああ、まあそうだな」
「雨、止んでよかったですね。みんな濡れたら風邪をひいてしまいますもの」
「え? うん。まあ、そうだな」
何故かライリー殿下は曖昧な表情で笑っていた。
パレード用の屋根の無い馬車にライリー殿下と2人で乗り込む。
周りは、私の専属護衛騎士であるアーサーと、ライリー殿下の専属護衛騎士のジェイミー様を先頭に、騎士達が取り囲むように守ってくれている。
ゆっくりと、馬車は出発し、町中へと歩みを進めた。
沿道から私たちを眺める国民に手を振るも、国民たちの表情はあまり明るくない。
私は、今まであまり公の場に出て来なかったので、顔を知る者も少ないのだろう。
知らないお姫様がいきなり自国の王になり、困惑しているのが正直なところだと思う。
パレードを進めると、沿道にいた女の人が倒れるのが見えた。
「馬車を止めて!」
私はドレスの裾を上げて、ひとり馬車を降りてその人のところへ向かう。
「シャーロット!!待てっ!」
後ろでライリー殿下の声がするけれど、目の前のことで手一杯で、振り向けなかった。
私が近付くと、周りにいた人たちは道を開け、この見知らぬ女王を遠巻きに見ている。
取り残された女性を抱き起こすと、女性のお腹が微かに膨らんでいるのがわかった。
「あなた……お腹に赤ちゃんがいるのね?」
かろうじて意識のある女性は力弱く、コクンと頷く。
握りしめたその手は、細く頼りなく。
身重の女性が、栄養が取れずに倒れるのが、この国の現状だということに、私の背中は凍りついた。
ボナールの大神殿で戴冠式は行われた。
国民の誰もが見えるように、神殿の扉は開け放たれ、そこから儀式が見えるように、中で見守る貴族も扉からの線上には立ち入れないようになっている。
白髪の神官長が、私の頂に王冠を乗せる。
その瞬間、神官長が小さな声で呟いた。
「お待ちしておりました。この日を」
私はまるで、神官長が私が即位するのがわかっていたような口振りだったのが少し気になった。
でも気のせいよね。
戦争が起こらず、私がランバラルドに行くことがなければ、私ではなく、セリーヌ様が即位をしているはずだから。
王冠を頭上に頂いた後、王笏と宝珠を神官長から渡される。
皆の方を向き、それらを高く掲げる。
「私は宣言する。この地、ボナールの王となった。この地に安寧と幸福をもたらさんことを約束しよう」
宣言の後、再度神官長の方へ向くと、今度は指輪を渡された。
あら?
指輪は予定になかったと思うけれど……。
どうしたらいいのかわからず、とりあえずリングクッションから取り外して自分の指にはめようとすると、神官長は慌てて私を止めた。
「こちらの指輪は、まだ受け取るだけで結構です」
「あら、そうなの?」
よくわからないけど小声で話し、指輪は受け取るだけにした。
これで戴冠の儀式は終わった。
後は退場して、パレードだわ。
着慣れない長い丈ののロープデコルテを着ている私は、転ばないように注意しながら歩く。
隣にはライリー殿下が白を基調にした軍服を着て、私をエスコートしてくれる。
これは、ライリー殿下が今後王政に関わることを示すためだ。
外を見ると、いいお天気なのに微かに霧雨が降っている。
私たちが神殿の建物を出た時に、ちょうど雨はやみ、うっすらと空に虹が掛かって見えた。
周りを見ると、国民たちはさほど雨に濡れた様子もなかったので、ほっとした時、ライリー殿下が驚いたように呟く。
「ほんとによく虹が出る国だな」
「ライリー殿下、雨の後に虹が出るのは普通なのではないですか?」
「いや、ああ、まあそうだな」
「雨、止んでよかったですね。みんな濡れたら風邪をひいてしまいますもの」
「え? うん。まあ、そうだな」
何故かライリー殿下は曖昧な表情で笑っていた。
パレード用の屋根の無い馬車にライリー殿下と2人で乗り込む。
周りは、私の専属護衛騎士であるアーサーと、ライリー殿下の専属護衛騎士のジェイミー様を先頭に、騎士達が取り囲むように守ってくれている。
ゆっくりと、馬車は出発し、町中へと歩みを進めた。
沿道から私たちを眺める国民に手を振るも、国民たちの表情はあまり明るくない。
私は、今まであまり公の場に出て来なかったので、顔を知る者も少ないのだろう。
知らないお姫様がいきなり自国の王になり、困惑しているのが正直なところだと思う。
パレードを進めると、沿道にいた女の人が倒れるのが見えた。
「馬車を止めて!」
私はドレスの裾を上げて、ひとり馬車を降りてその人のところへ向かう。
「シャーロット!!待てっ!」
後ろでライリー殿下の声がするけれど、目の前のことで手一杯で、振り向けなかった。
私が近付くと、周りにいた人たちは道を開け、この見知らぬ女王を遠巻きに見ている。
取り残された女性を抱き起こすと、女性のお腹が微かに膨らんでいるのがわかった。
「あなた……お腹に赤ちゃんがいるのね?」
かろうじて意識のある女性は力弱く、コクンと頷く。
握りしめたその手は、細く頼りなく。
身重の女性が、栄養が取れずに倒れるのが、この国の現状だということに、私の背中は凍りついた。
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