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14章 告白のその後で
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「殿下、いい加減、店でぐだぐだするのはやめてくださいよ」
ロジャーが言う。
「ロジャー、いくら店に人が居ないからって、殿下って呼ぶな」
オレはトランケのカウンターに片腕を上げ、突っ伏した状態でロジャーに文句を言い返した。
「ここでウジウジしてたって仕方ないでしょう」
「でも、ここでしかウジウジできないんだよ。城ではディリオンが仕事をたくさん用意してオレを毎日待ち構えているし…」
「まったく…」
ロジャーはオレに構うのをやめて、カウンターの中で野菜の皮をむき始めた。
夜への下準備が開始されると、どこからともなくクリスがやってきて、2人で野菜を切ったり煮たりと、2人で狭いカウンターの中でぶつからずに作業をする。
こういうところ、息が合ってていいなあと思う。
「夫婦っていいな」
思わず声に出てしまった。
クリスが耳聡くオレの言葉を拾い、苦笑する。
「なに、殿下。あたしたちが羨ましいのぉ?」
「うるさい。黙れクリス」
オレが睨んでも、手を休めずにクリスが話す。
「でも、あの子ほんとに結婚してるのかしらね?」
「本人がそう言ってたから、そうなんだろう」
「ん~。でもねぇ、あの子から既婚者の色気っていうか、そんなのが全然感じられないのよね。結婚してるだけで、まだ生娘なんじゃない?」
「「ぶっ!」」
オレとロジャーが揃ってふき出す。
「クリスっ!お前、なんていう想像を!!」
「だって、あんた。あのお嬢ちゃん見て人妻だなんて信じられる?」
クリスが手を休めて、ロジャーに向き直る。
「いや、それはオレも信じられないけど…」
「もういい。帰る」
オレは立ち上がり、ロジャーとクリスに目線だけで挨拶して、トランケを後にした。
ふと、気になってパルフェの方に足を向けてしまう。
見つからないように、密かにドアのガラス越しに中を伺うと、ジュディがロッテと同じエプロンをしてお盆片手に店内を歩いているのが見えた。
今日はロッテはいないのだろうか。
中に入る勇気もなく、オレはそのまま町を後にした。
ぼんやりと町を歩き、うっかり馬車も使わずに城まで帰ると、もういい加減遅い時間になっていた。
一応、執務室に顔を出すと、ディリオン、フレッド、コンラッドの3人が、顔を突き合わせて唸っていた。
「フレッド、貴様の父親は何を考えているんだ」
「ディリちゃん、オレだって知らないよ~。いくら美女だと噂だからって、オレも信じられない」
「まあまあ、ディリオン、フレッドの親父ならやりかねないことだと、予想出来なかったオレたちも悪いんだから」
すでに執務室内には入っていたが、中から入室を知らせるように、コンコンとノックをする。
「どうした?みんな。3人で話し合うなんて、珍しいじゃないか」
「あ、王子!聞いてよ~」
フレッドが真ん中のソファにオレを呼ぶ。
「オレの親父がさー、夜会の招待状を出してたじゃん?」
「カエルの親はカエルなのだな。美女と噂のある王女令嬢に片っ端っから招待状を送っていたのだ。そこのカエルの親は」
吐き捨てるようにディリオンが言う。
「まあ、今回はなるべく多くの令嬢を招待席するつもりだったんだから、いいんじゃないの?」
オレがそう言うと、ピラッと紙が飛んできた。
「出席者リスト。ここ」
コンラッドが指をさす。
ボナール王国第一王女 セリーヌ・ボナール
「はああ?」
ディリオンがメガネを上げる。
「美女だと噂だったのだ。ドニー殿が気にかけるほど、近隣諸国にまで響き渡るような噂だったらしい。虹の姫君と」
虹と言われてロッテを思い出す。
ジョウロから水が飛び、虹がロッテの上にかかって綺麗だったな。
いや、今はそんな話じゃない。
「虹?ああ、なんかそんな二つ名を持ってたな。そういえば」
「だからって、戦争してた国の王女に夜会の招待状を出すって、普通ないぞ」
「だからカエルの親だと言っているのだ」
「ディリちゃん酷い!オレはカエルじゃない!」
"近いうちにお会いする機会もあるかと思います。その時はぜひ親しくさせていただきたいと思います"
セリーヌ王女と会った時の言葉が思い出される。
あの時にはもう、招待状が手元に行っていたのか。
親しく。
セリーヌ王女はオレと結婚したいのか?
オレと結婚して、一体なんの得が?
ああ、結婚したら賠償金は払わなくていいのか。
他には?
ボナールよりは豊かな国だと自負しているが…やっぱり金か?
「とにかく、招待してしまったものは仕方がない。なんとかやり過ごしてくれ」
オレは新たな問題に頭を抱えた。
ロジャーが言う。
「ロジャー、いくら店に人が居ないからって、殿下って呼ぶな」
オレはトランケのカウンターに片腕を上げ、突っ伏した状態でロジャーに文句を言い返した。
「ここでウジウジしてたって仕方ないでしょう」
「でも、ここでしかウジウジできないんだよ。城ではディリオンが仕事をたくさん用意してオレを毎日待ち構えているし…」
「まったく…」
ロジャーはオレに構うのをやめて、カウンターの中で野菜の皮をむき始めた。
夜への下準備が開始されると、どこからともなくクリスがやってきて、2人で野菜を切ったり煮たりと、2人で狭いカウンターの中でぶつからずに作業をする。
こういうところ、息が合ってていいなあと思う。
「夫婦っていいな」
思わず声に出てしまった。
クリスが耳聡くオレの言葉を拾い、苦笑する。
「なに、殿下。あたしたちが羨ましいのぉ?」
「うるさい。黙れクリス」
オレが睨んでも、手を休めずにクリスが話す。
「でも、あの子ほんとに結婚してるのかしらね?」
「本人がそう言ってたから、そうなんだろう」
「ん~。でもねぇ、あの子から既婚者の色気っていうか、そんなのが全然感じられないのよね。結婚してるだけで、まだ生娘なんじゃない?」
「「ぶっ!」」
オレとロジャーが揃ってふき出す。
「クリスっ!お前、なんていう想像を!!」
「だって、あんた。あのお嬢ちゃん見て人妻だなんて信じられる?」
クリスが手を休めて、ロジャーに向き直る。
「いや、それはオレも信じられないけど…」
「もういい。帰る」
オレは立ち上がり、ロジャーとクリスに目線だけで挨拶して、トランケを後にした。
ふと、気になってパルフェの方に足を向けてしまう。
見つからないように、密かにドアのガラス越しに中を伺うと、ジュディがロッテと同じエプロンをしてお盆片手に店内を歩いているのが見えた。
今日はロッテはいないのだろうか。
中に入る勇気もなく、オレはそのまま町を後にした。
ぼんやりと町を歩き、うっかり馬車も使わずに城まで帰ると、もういい加減遅い時間になっていた。
一応、執務室に顔を出すと、ディリオン、フレッド、コンラッドの3人が、顔を突き合わせて唸っていた。
「フレッド、貴様の父親は何を考えているんだ」
「ディリちゃん、オレだって知らないよ~。いくら美女だと噂だからって、オレも信じられない」
「まあまあ、ディリオン、フレッドの親父ならやりかねないことだと、予想出来なかったオレたちも悪いんだから」
すでに執務室内には入っていたが、中から入室を知らせるように、コンコンとノックをする。
「どうした?みんな。3人で話し合うなんて、珍しいじゃないか」
「あ、王子!聞いてよ~」
フレッドが真ん中のソファにオレを呼ぶ。
「オレの親父がさー、夜会の招待状を出してたじゃん?」
「カエルの親はカエルなのだな。美女と噂のある王女令嬢に片っ端っから招待状を送っていたのだ。そこのカエルの親は」
吐き捨てるようにディリオンが言う。
「まあ、今回はなるべく多くの令嬢を招待席するつもりだったんだから、いいんじゃないの?」
オレがそう言うと、ピラッと紙が飛んできた。
「出席者リスト。ここ」
コンラッドが指をさす。
ボナール王国第一王女 セリーヌ・ボナール
「はああ?」
ディリオンがメガネを上げる。
「美女だと噂だったのだ。ドニー殿が気にかけるほど、近隣諸国にまで響き渡るような噂だったらしい。虹の姫君と」
虹と言われてロッテを思い出す。
ジョウロから水が飛び、虹がロッテの上にかかって綺麗だったな。
いや、今はそんな話じゃない。
「虹?ああ、なんかそんな二つ名を持ってたな。そういえば」
「だからって、戦争してた国の王女に夜会の招待状を出すって、普通ないぞ」
「だからカエルの親だと言っているのだ」
「ディリちゃん酷い!オレはカエルじゃない!」
"近いうちにお会いする機会もあるかと思います。その時はぜひ親しくさせていただきたいと思います"
セリーヌ王女と会った時の言葉が思い出される。
あの時にはもう、招待状が手元に行っていたのか。
親しく。
セリーヌ王女はオレと結婚したいのか?
オレと結婚して、一体なんの得が?
ああ、結婚したら賠償金は払わなくていいのか。
他には?
ボナールよりは豊かな国だと自負しているが…やっぱり金か?
「とにかく、招待してしまったものは仕方がない。なんとかやり過ごしてくれ」
オレは新たな問題に頭を抱えた。
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