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10章 待ち惚け王子
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そのまま数日、私は離宮の方の仕事と大仕事(ギルバート様のハンカチーフの刺繍)をしていたけれど、そろそろ外の空気も吸いたくなったので、今日はジュディと交代して町の方に行くことにした。
ギルバート様がご用意くださったお店パルフェのあるところは、治安もいいところなので私ひとりで外出しても安心だ。
侍女のお仕着せ服ではなく、久しぶりに若草色のワンピースを着ている。
森で着た時に少し汚れてしまったけれど、すぐに洗ったらシミにならずに汚れは落ちた。
やっぱりお洗濯は汚れたらすぐに洗うに限るわ。
乗り合い馬車から降りて少し歩くと、すぐパルフェに到着した。
まだcloseの札は掛かったままだけど、看板も真新しいパルフェという物に変わっており、ショーウィンドウやドアのガラス部分にはレースのカーテンが掛かっていた。
うん。ステキ。
ドアノブを回して押すと、ドアはすぐに開き、カランカランとベルが鳴った。
中で作業していたマリーとアーサーがこちらを向く。
「姫様、いらっしゃい。見てくださいまし。かなりお店も整って、来週にはオープンできそうですよ」
マリーは上機嫌だ。
「母さん、パンの種類を決めてないよ。そうだ。姫様も味見をして行ってください」
マリーとは対照的に、アーサーは疲れているっぽい。
まあ、今まで剣をふるって食べてきた人が、いきなりパン屋さんになるのだから仕方ない。
店内は、多分ジュディの好みなのだろう。
レースのカーテンで明るい雰囲気と、テーブルには食欲をそそるオレンジのテーブルクロスがかけられている。
女の子が好みそうな、可愛い店内だ。
「私も何か作ってみたいな。あ、ねぇ、クッキーとか少しだけ置いてもらえないかしら。そうしたら私も作れるわ」
ふたりは目を丸くして私を見る。
「姫様、何も姫様が働かなくったって…。姫様はそのうちわたしがお城でお仕えしますから、何もなさらなくても良いのですよ?」
「でも、マリー。私も自分にできることをやってみたいの。マリーたちのお店の邪魔になるなら諦めるけど…ダメ?」
上目遣いに首を傾げると、アーサーは陥落してくれた。
「わかった。姫様、姫様のクッキーを出しましょう!」
「…アーサー。あなたはまた姫様に甘いんだから…」
マリーは呆れながらも、反対はしなかった。
その日は、マリーたちが試行錯誤して作ったパンをあれこれ試食して、改善点を探したりして、楽しい一日を過ごした。
明日はジュディと試食会をして、売り出すパンを決めるそうだ。
私は今日帰ってからクッキーを焼いて、明日の試食会にジュディに持って行ってもらおうと考えている。
アーサーに、暗くなる前に帰らように言われて、今日は早目の時間にパルフェを出た。
送ると言うアーサーを断るのはなかなか骨の折れる事だけれど、まだ陽が高いのを理由に、なんとかひとりで帰ることを認めてもらう。
乗り合い馬車の乗り場まで歩く途中でふと横を見ると、ライを送って行った道につながることがわかった。
案外ご近所さんだったのね。
まだ時間も早いので、ちょっと寄り道をしよう。
ライにもお店に行くと約束してしまっていたし…。
アーサー達はお店に行くのも反対してたけれど、約束を破ることはしたくなかった。
結構、日にちが経ってしまったので、ライがまだあの食堂に居るとは限らないけれど、約束だけ守ろう。
こうして、一本裏の道を歩いて行くと、ライを下ろしたお店が見えてきた。
ギルバート様がご用意くださったお店パルフェのあるところは、治安もいいところなので私ひとりで外出しても安心だ。
侍女のお仕着せ服ではなく、久しぶりに若草色のワンピースを着ている。
森で着た時に少し汚れてしまったけれど、すぐに洗ったらシミにならずに汚れは落ちた。
やっぱりお洗濯は汚れたらすぐに洗うに限るわ。
乗り合い馬車から降りて少し歩くと、すぐパルフェに到着した。
まだcloseの札は掛かったままだけど、看板も真新しいパルフェという物に変わっており、ショーウィンドウやドアのガラス部分にはレースのカーテンが掛かっていた。
うん。ステキ。
ドアノブを回して押すと、ドアはすぐに開き、カランカランとベルが鳴った。
中で作業していたマリーとアーサーがこちらを向く。
「姫様、いらっしゃい。見てくださいまし。かなりお店も整って、来週にはオープンできそうですよ」
マリーは上機嫌だ。
「母さん、パンの種類を決めてないよ。そうだ。姫様も味見をして行ってください」
マリーとは対照的に、アーサーは疲れているっぽい。
まあ、今まで剣をふるって食べてきた人が、いきなりパン屋さんになるのだから仕方ない。
店内は、多分ジュディの好みなのだろう。
レースのカーテンで明るい雰囲気と、テーブルには食欲をそそるオレンジのテーブルクロスがかけられている。
女の子が好みそうな、可愛い店内だ。
「私も何か作ってみたいな。あ、ねぇ、クッキーとか少しだけ置いてもらえないかしら。そうしたら私も作れるわ」
ふたりは目を丸くして私を見る。
「姫様、何も姫様が働かなくったって…。姫様はそのうちわたしがお城でお仕えしますから、何もなさらなくても良いのですよ?」
「でも、マリー。私も自分にできることをやってみたいの。マリーたちのお店の邪魔になるなら諦めるけど…ダメ?」
上目遣いに首を傾げると、アーサーは陥落してくれた。
「わかった。姫様、姫様のクッキーを出しましょう!」
「…アーサー。あなたはまた姫様に甘いんだから…」
マリーは呆れながらも、反対はしなかった。
その日は、マリーたちが試行錯誤して作ったパンをあれこれ試食して、改善点を探したりして、楽しい一日を過ごした。
明日はジュディと試食会をして、売り出すパンを決めるそうだ。
私は今日帰ってからクッキーを焼いて、明日の試食会にジュディに持って行ってもらおうと考えている。
アーサーに、暗くなる前に帰らように言われて、今日は早目の時間にパルフェを出た。
送ると言うアーサーを断るのはなかなか骨の折れる事だけれど、まだ陽が高いのを理由に、なんとかひとりで帰ることを認めてもらう。
乗り合い馬車の乗り場まで歩く途中でふと横を見ると、ライを送って行った道につながることがわかった。
案外ご近所さんだったのね。
まだ時間も早いので、ちょっと寄り道をしよう。
ライにもお店に行くと約束してしまっていたし…。
アーサー達はお店に行くのも反対してたけれど、約束を破ることはしたくなかった。
結構、日にちが経ってしまったので、ライがまだあの食堂に居るとは限らないけれど、約束だけ守ろう。
こうして、一本裏の道を歩いて行くと、ライを下ろしたお店が見えてきた。
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