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7章 人質姫のもう一つの生活
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しおりを挟む「さあ、姫様、もうすぐお待ちかねのメイド部屋ですよ」
「待って、ジュディ。もう、これからは姫様って呼んじゃだめよ」
「あ、そうですね…では、なんとお呼びしましょう?」
私の名前がシャーロットだから、シャーロット、シャルロット、シャルロッテ…。
「ロッテというのはどうかしら?」
「可愛くて、いいんじゃないですか。では、これからロッテとお呼びしますね!」
しずしずとジュディと並んで廊下を歩く。
大丈夫かしら、おかしいところはないかしら?
髪はちゃんと編み込んでまとめてあるし、どこからどう見ても、立派なメイドのはず。
ドキドキしながら、メイド部屋の前に立つ。
「ロッテ、入りますよ」
ジュディはコンコンとノックをして、返事を待たずにドアを開けた。
ドアの前には仕切りがしてあり、中がすぐに見えないようになっている。
これは、着替えをしているメイドさんがいても外から見えることのないようにしてあるそうだ。
その仕切りを抜けると、いくつかの衣装棚があり、テーブルとイスが置かれていた。
そのイスには、2人のメイドさんが座っていた。
「あら、ジュディじゃない。こっちに来るなんて珍しいわね」
そのうちの一人、茶色の髪を肩の辺りでカールさせているメイドさんがジュディに声をかける。
「ルーシー、ちょうどこの時間ならあなたが休憩室にいると思ってここに来たの。紹介するわ。こちらロッテ。わたしと一緒に離宮で働いている侍女よ。ロッテ、こちらはルーシーとリサ。二人ともとても親切にしてくれて、友達になったの」
「ルーシーよ。ジュディが離宮分の食材の発注を忘れた時にフォローしたのがきっかけで仲良くなったの。よろしくね」
「わたしはリサ。お茶を美味しく入れるのなら誰にも負けないわ。コツが聞きたかったら教えてあげる」
リサさんはこげ茶の髪をきっちり編み込んで結い上げている。ちょっと品がいい美人さんだ。
「あ、あの、ロッテです。よろしくお願いします」
ルーシーは興味深く私を見た。
「今日はどうしてふたり一緒なの?」
ジュディは空いている椅子に座りながら答える。
「ご主人様はもう離宮にも慣れたから、一人でいても大丈夫なんですって。だから今日からふたり一緒に外に出てもいいとご主人様から許可が出たのよ」
「へぇ、よかったじゃない。ロッテも外に出られなかったんじゃ、つまらなかったでしょ」
私に話しかけてくれて、ちょっと緊張。
「はい!でも、こうやってこちらに来れて嬉しいです」
お友達だ…!
人生で初のお友達だぁ!
そのまま、テーブルにつかせてもらい、お茶とクッキーをつまみながら、たわいないお喋りに花を咲かせた。
「あらいやだ。もうこんな時間」
ルーシーとリサが立ち上がる。
「私たちは休憩時間が終わったけど、あなたたちは平気なの?」
「わたしとロッテもそろそろ戻るわ」
「じゃ、私たちは行くわね」
ふたりは急いで休憩室を出て行った。
「ジュディ、私、感動したわ…!」
「何がですか?」
「世間話というものを、初めてしたのよ」
「はいはい。感動していないで、次行きますよ。メイドの一日は忙しいんですから」
次に、私は食料庫に連れて行ってもらった。
そこには、料理番の人たちがいて、ジュディが前日までに申請していた食料を用意してくれていた。
「ハイ、ポール。また怒られて食料庫番なの?」
ジュディはニヤニヤして、天パのクルクルした髪の男の子に声をかける。
「なんだよ、ジュディ。うるさいな。ちょっと寝坊しだけだよ。明日はちゃんと調理場の方にいるから会えないぞ。…と、後ろのは誰だ?」
ジュディは小さい声で「食料庫の整理は、見習いさんか罰当番の仕事なの」と教えてくれた。
「この子はロッテ。わたしと一緒に離れで働いてるの。ご主人様がもうこちらのお城に慣れたからって、ふたり一緒に外に出ることを許してくれたから、今日からちょくちょく本宮の方にも現れるわ。会ったら親切にしてあげてね」
紹介されて、慌てて頭を下げる。
「ロッテです。よろしくお願いします」
緊張したけど、笑顔でご挨拶。
すると、ポールも緊張してるのかカチンと一瞬固まって「あ、あぁ」と返してくれた。
「ジュディ、離宮宛てに届いている食材はそこの箱に入ってるから、ワゴンはこれ使って」
ポールはジュディにワゴンを渡す。
そして、チラッと私の方を向き、紙袋を差し出す。
「これ、新鮮なオレンジが入ったからオマケな」
中を見ると色鮮やかなオレンジがたくさん入っていた。
「うわぁ、嬉しいです!ありがとうございます!」
ポールも恥ずかしそうな笑顔を向けてくれた。
こうして、私のメイドデビューは無事に終わったのでした。
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