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3章 旅立ち
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弟王様の奥様は、もともとお妃様とよく似たお方でしたので、周りの者を欺き、そのままお妃の座を手にしました。
シャーロット様はお生まれになったことが公表されておいででしたので、殺されることはありませんでしたが、弟王様の側においてもらえることなく、塔の上の一室が与えられ、そこで私がお育てすることになりました。
塔の上のお部屋は寒く、とても生まれたばかりの赤ん坊を育てる環境ではありませんでしたが、当時私の夫が健在でございましたので、壁紙を厚くし、熱を逃さないよう、各所に工夫を凝らしました。
私は全ての秘密を知る唯一の証人であるが故に、殺される可能性も考えましたが、弟王様は私を殺しませんでした。
シャーロット様を育てさせるためだったのかもしれません。
やがて、奥様が女の子を産み落としました。
それが、今のセリーヌ様です。
弟王様も奥様も、セリーヌ様を大変可愛がりました。
そして、弟王様は思いついたのです。
七色の乙女であるシャーロット様とご自分のお子様を入れ替えることを。
一歳になる赤子と生まれたばかりの子は、さすがに違いが明らかですが、三歳、四歳になればだんだんと歳の差は感じなくなってきます。
物心ついたお二人には、姉がセリーヌ様、妹がシャーロット様と教え込みました。
体格も、栄養豊富に育てられたセリーヌ様は、ろくに食べ物も与えられないシャーロット様よりも大きく育ちましたので、周りからも違和感なく受け入れられました。
もともと、兄王様と弟王様はご兄弟でしたし、お妃様と奥様も面立ちはよく似ていらっしゃいましたので、シャーロット様とセリーヌ様は姉妹として不思議でないお顔立ちだったのも理由でしょう。
弟王様と奥様は本当の七色の乙女であるシャーロット様を失うことに、多少の恐怖はあったのかもしれません。
七色の乙女が国に富をもたらす言い伝えは、みんなが知るものでした。
その者が虐げられて死んでしまうようなことは言い伝えの中でもありませんでしたので、弟王様はシャーロット様を生かすことに決めたようです。
最初は、きちんと用意されていた食事も、シャーロット様が体調を崩されて寝込んでも、塔の階段で転んで大怪我をされた時も国に何も起こらなかったことがわかると、栄養のあるものは塔の上には用意されなくなりました。
シャーロット様のために割かれる予算はなくなり、洋服はセリーヌ様のお下がりばかりになりましたが、体格がちがうのです。
とても満足できるものではありませんでした。
命こそ奪われませんでしたが、そこまでやるのかと、ため息が出ました。
綺麗に着飾るセリーヌ様を見て、お寂しそうにしていらっしゃるシャーロット様に心が痛みましたが、私は真実を告げることをしませんでした。
他の者の前に、全く出る事がないと言い切れない幼い子どもであるシャーロット様の口から、ひとかけらでも真実が漏れることが恐ろしかったのです。
「本当に、今まで隠していて申し訳ございませんでした」
マリーは私の手を握ったまま、深く深く頭を下げた。
私は、お父様とお母様の本当の娘ではなかった…?
だから、ずっと愛されなかったんだ…。
いくらいい子でいようと努力しても、頭の一つも撫でではもらえなかった。
愛されようと媚びる姿は、さぞ滑稽だったろう。
「…私の、本当のお父様とお母様は…どんな方だったの…?」
「とても慈悲深い、広い心を持った、偉大なる王様と人の痛みがわかるお優しいお妃様でしたよ。王様は、シャーロット様が生まれてくるのを心待ちになさっておいででした」
「…そう」
本当のお父様とお母様なら、私を大事にしてくれたかもしれない。
「シャーロット様。私はお妃様に必ずシャーロット様をお守りするとお約束しました。先日の舞踏会でシャーロット様を嫁がせようとした話を聞いて、急ぎ手筈を整えて参りました。このまま、ここから逃げましょう」
シャーロット様はお生まれになったことが公表されておいででしたので、殺されることはありませんでしたが、弟王様の側においてもらえることなく、塔の上の一室が与えられ、そこで私がお育てすることになりました。
塔の上のお部屋は寒く、とても生まれたばかりの赤ん坊を育てる環境ではありませんでしたが、当時私の夫が健在でございましたので、壁紙を厚くし、熱を逃さないよう、各所に工夫を凝らしました。
私は全ての秘密を知る唯一の証人であるが故に、殺される可能性も考えましたが、弟王様は私を殺しませんでした。
シャーロット様を育てさせるためだったのかもしれません。
やがて、奥様が女の子を産み落としました。
それが、今のセリーヌ様です。
弟王様も奥様も、セリーヌ様を大変可愛がりました。
そして、弟王様は思いついたのです。
七色の乙女であるシャーロット様とご自分のお子様を入れ替えることを。
一歳になる赤子と生まれたばかりの子は、さすがに違いが明らかですが、三歳、四歳になればだんだんと歳の差は感じなくなってきます。
物心ついたお二人には、姉がセリーヌ様、妹がシャーロット様と教え込みました。
体格も、栄養豊富に育てられたセリーヌ様は、ろくに食べ物も与えられないシャーロット様よりも大きく育ちましたので、周りからも違和感なく受け入れられました。
もともと、兄王様と弟王様はご兄弟でしたし、お妃様と奥様も面立ちはよく似ていらっしゃいましたので、シャーロット様とセリーヌ様は姉妹として不思議でないお顔立ちだったのも理由でしょう。
弟王様と奥様は本当の七色の乙女であるシャーロット様を失うことに、多少の恐怖はあったのかもしれません。
七色の乙女が国に富をもたらす言い伝えは、みんなが知るものでした。
その者が虐げられて死んでしまうようなことは言い伝えの中でもありませんでしたので、弟王様はシャーロット様を生かすことに決めたようです。
最初は、きちんと用意されていた食事も、シャーロット様が体調を崩されて寝込んでも、塔の階段で転んで大怪我をされた時も国に何も起こらなかったことがわかると、栄養のあるものは塔の上には用意されなくなりました。
シャーロット様のために割かれる予算はなくなり、洋服はセリーヌ様のお下がりばかりになりましたが、体格がちがうのです。
とても満足できるものではありませんでした。
命こそ奪われませんでしたが、そこまでやるのかと、ため息が出ました。
綺麗に着飾るセリーヌ様を見て、お寂しそうにしていらっしゃるシャーロット様に心が痛みましたが、私は真実を告げることをしませんでした。
他の者の前に、全く出る事がないと言い切れない幼い子どもであるシャーロット様の口から、ひとかけらでも真実が漏れることが恐ろしかったのです。
「本当に、今まで隠していて申し訳ございませんでした」
マリーは私の手を握ったまま、深く深く頭を下げた。
私は、お父様とお母様の本当の娘ではなかった…?
だから、ずっと愛されなかったんだ…。
いくらいい子でいようと努力しても、頭の一つも撫でではもらえなかった。
愛されようと媚びる姿は、さぞ滑稽だったろう。
「…私の、本当のお父様とお母様は…どんな方だったの…?」
「とても慈悲深い、広い心を持った、偉大なる王様と人の痛みがわかるお優しいお妃様でしたよ。王様は、シャーロット様が生まれてくるのを心待ちになさっておいででした」
「…そう」
本当のお父様とお母様なら、私を大事にしてくれたかもしれない。
「シャーロット様。私はお妃様に必ずシャーロット様をお守りするとお約束しました。先日の舞踏会でシャーロット様を嫁がせようとした話を聞いて、急ぎ手筈を整えて参りました。このまま、ここから逃げましょう」
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